自然釉器　西端正

幅:20.4cm  　奥行:20.4cm     高さ :42cm

自然釉器　西端正 作

― 土と炎が描いた端正な陰影、静謐のフォルム

西端正様による本作「自然釉器」は、端正なシルエットの中に、自然釉が織りなす景色をたたえた、静かなる力強さを湛える一点です。焼成によって生まれた自然釉の陰影は、器全体を包み込み、大地の営みと作家の美意識が一体となった造形美を表現しています。

炎が描いた自然釉の景色

器の表面には、長時間の焼成によって自然に降り積もった灰が融けて釉化し、柔らかくも濃密な色の層を形成しています。黄土色から赤褐色、黒点が浮かぶような景色に至るまで、土と炎の対話の結果としての“自然釉の美”が一面に広がっています。その表情はまるで朝焼けや山肌のように穏やかで、見る者の感覚を静かに揺さぶります。

切り出したようなフォルム

全体の造形は、まるで岩を削り出したかのようにシャープな輪郭をもちつつも、中央部はやさしく膨らみ、絶妙な緊張感とやわらかさを両立しています。平面と角の構成が、器を正面からだけでなく、どの角度から見ても異なる表情を与えており、彫刻的な魅力に満ちています。端正で理知的、それでいて土の手触りを残した野趣が同居するその姿は、まさに“静の中の動”を体現しています。

土の息吹と作家の意志

本作に使われている丹波の赤土は、焼成によって内側から発色し、釉薬を用いずとも豊かな色彩を湛えます。西端様は、あえて釉薬を加えることなく、自然釉と窯変により土の声を最大限に引き出しています。造形の端正さの中に、手の痕跡や焼成の痕を巧みに残すことで、“作為と自然”の狭間に生まれる美を提示しています。

空間に凛と立つ存在感

この自然釉器は、床の間やギャラリー空間に置かれることで、そこに静謐な緊張感と調和をもたらします。無言のままに、確かな存在感を放ち、空間の空気そのものを変える力を持っています。花を生ければ静けさが強調され、無為に置いてもなお、その形と釉調が語りかけてくる──そんな“佇まいの美”を備えた器です。

永く寄り添う芸術品として

この作品は、時を経てなお色褪せることなく、むしろ経年によって味わいを深めていくタイプのうつわです。使い手の感性と呼応しながら、暮らしの中で静かに息づく存在として、長くご愛用いただけることでしょう。

西端正様の「自然釉器」は、丹波焼の伝統を基盤に据えながら、現代の空間や鑑賞者の美意識と確かに響き合う作品です。自然釉の景色と構築的な造形が融合したこの器は、まさに土と炎が織りなす静かな奇跡といえるでしょう。

西端正　略歴

昭和二十三年 二月二十四日生
昭和四十四年 作陶を始める
昭和五十一年 兵庫県展奨励賞
昭和六十一年 日本伝統工芸展初入選
昭和六十三年 日本伝統工芸展入選 日本伝統工芸展日本工芸会総裁賞
平成元年 日本陶芸展入選半どんの会 乃川記念賞
平成三年 日本伝統工芸展入選 日本陶芸展入選 茶の湯の造形展大賞
平成四年 日本伝統工芸展入選 茶の湯の造形展優秀賞 兵庫県新進芸術家奨励賞 NHK主催 パリ―日本の陶芸 「今」一〇〇選招待出品 茶の湯の造形展優秀賞
平成五年 日本伝統工芸展入選 個展 そごう広島店 京都シュマン
平成六年 日本伝統工芸展入選 個展 日本橋三越本店
平成七年 日本伝統工芸展入選 個展 そごう広島店
平成八年 日本伝統工芸展入選 茶の湯の造形展優秀賞 個展 日本橋三越本店 
平成九年 茶の湯の造形展奨励賞
平成十年 日本伝統工芸展入選 個展 日本橋三越本店 日本伝統工芸展入選
平成十二年 個展 日本橋三越本店 個展 福岡三越
平成十三年 ギャラリー堂島 日本伝統工芸展入選
平成十四年 個展 日本橋三越本店 個展 ギャラリー堂島
平成十五年 個展 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン
平成十六年 父子展 そごう広島店 茶の湯の造形展大賞
平成十七年 明石市立文化博物館・兵庫のやきもの展出品 赤土部臺買上 兵庫陶芸美術館 個展 ギャラリー堂島 日本橋三越本店
平成十八年 茶の湯の造形展大賞　日本伝統工芸展入選 ボストン美術館及び ニューヨークジャパンソサエティギャラリー 個展 横浜高島屋 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン 父子展 松山高島屋
平成十九年 陶俊会展 そごう横浜店 茶の湯の造形展奨励賞 日本伝統工芸展入選
平成二十年 日本伝統工芸展入選 個展 横浜高島屋 日本橋三越本店 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン 陶俊会展 船橋 西武 そごう広島店 日本陶芸展招待出品
平成二十一年 個展 ギャラリー堂島 仙台三越
平成二十二年 そごう神戸店 智美術館大賞展現代の茶 出品 個展 横浜高島屋 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン
平成二十三年 日本陶芸展招待出品 個展 アメリカ・ニューヨーク・ジョーンBマービス 日本陶芸展招待出品
平成二十五年 菊池寛実記念智美術館『現代の名碗”出品 個展 日本橋三越本店 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン ギャラリーミヤザキ そごう神戸店 千葉そごう
平成二十六年 個展 個展 日本橋三越本店
平成二十七年 兵庫県文化賞受賞
平成二十八年 東広島市立美術館 生活を彩る陶―食の器 出品 アメリカ・ニューヨーク・ジョーンBマービス
平成二十九年 四十周年記念展出品 
平成三十年 個展 日本橋三越本店

西端正様との対談