尾西楽斎様との対談

本日は奈良県郡山にある尾西楽斎様(赤膚焼 香柏窯)にお邪魔しております。
作品について詳しくお伺いしました。

【尾西】→ 尾西楽斎(おにし らくさい)様
【西村】→ 西村一昧(にしむら いちまい)甘木道 店主


(割木紋茶碗)

【西村】こちらの作品はとても面白いですね。外は釉薬をかけずに作られている。

【尾西】赤膚焼きらしく、外側は焼き締めで内側は釉薬を掛けるなど、二つの技法が混じっています。

【西村】一つの焼き物に二つの技法がある、というのは興味深いです。

(鉄釉割木紋茶碗)

 
【尾西】こちらは右に45度傾けると飲みやすくなる。つまり、手前通りに回すと飲みやすくなる。この模様は赤松の割り木を叩き付けた後にくり抜いています。造形は1分でできますが、削り出すのに時間がかかります。

【西村】面白いですね。擦って模様を描いていると思っていました。

【尾西】叩き付けているから直線に勢いがあるんです。



【西村】こちらは実際に燃やす用途ですか?

【尾西】そうです。

【西村】この木がよく燃えるんでしたっけ?

【尾西】針葉樹はよく燃える。目が詰まっている樫の木などは硬いのでじわじわ燃える。杉、檜、松はよく燃えますので温度を上げやすいです。



(灰釉引出し竹茶碗)


【尾西】藁灰を使って、酸化焼成で焼くとこんな風に焼けます。引き出しという、焼いている最中にハサミで挟んで外に出す方法があります。

【西村】樂茶碗とかそうですね。

【尾西】そうですね、これもハサミの痕がついています。

【西村】瞬間の冷却はされていますか?

【尾西】冷却はしません。この形が良いです。竹節の形がしっくりする。普通の茶碗だと全然良くない。寒々しい印象になってしまいます。

【西村】飴色というか釉薬の上品な感じが美しいですね。





(宝珠俵手茶碗)

【西村】こちらも珍しいですね。

【尾西】俵手茶碗は赤膚では昔からあります。これは底に升が二つあり、「益々繁盛」という意味があります。

【西村】面白いですね。お正月とかどんな季節でも盛り上がりますね。どこに持っていっても華やぎますね。

【尾西】こちらは、俵手の削り方が他とは違います。大きく削った後に細い線を入れて、リズム感があるのは珍しいです。

【西村】なるほど。


(富士茶碗)

【西村】こちらの富士山も面白いですね。

【尾西】土の色は白いのですが釉薬の周辺だけが赤くなる。それでこの色を出して、紅葉とか柿などを表現します。土の鉄分の量によって赤くなったり、鉄分が少なくなって白くなったり、うちの祖父が考えた手法です。

【西村】飽きない上品な色ですね。


(薬師寺東塔茶碗)

【西村】そもそも鉄釉とはどういう釉薬なのでしょうか?

【尾西】酸化鉄ですね。灰が降りかかると真っ黒にならない。また釉薬が流れ落ちて生地がでる。鉄釉と灰が混ざって茶色になる。

【西村】還元の作用を狙っているのですか?

【尾西】そうです。ここでは焼けないので、戸津川村の小さな窯で焼いています。友人の窯で焼いている。年に何回かお互いが手伝いをしながら交互に焼いています。一度火をつけると3日ぐらいです。


(薬師寺東塔基壇土 薬師寺景茶碗)

(薬師寺東塔基壇の土)

【西村】こちらは薬師寺の貴重な土を用いて作られたものですね。

【尾西】これは電気釜で、薬師寺を描いています。薬師寺の風景で奥に見えるのが春日大社です。春日大社、薬師寺、興福寺は縁があって。 薬師寺の本堂の上にはしめ縄があって。縁があるので、それを絵にしています。

【西村】奈良の焼き物はおおらかな絵が描ている印象があります。大和絵(奈良絵)っていうですかね。また、奈良絵は電気釜で焼いたら灰が被らないからメリットが多いですよね。

【尾西】明治以降、お茶で女性が増えると絵付けのあるものが好まれるようになりました。

【西村】奈良らしさが随所にあって見ごたえがありますね。

【尾西】そうですね。ぐい呑みは薬師寺の土を使っていて、この形が一番人気があります。托鉢で使うてっぱちの形をしています。

(薬師寺東塔基壇土 鉄鉢ぐい吞)

【西村】ぐい呑みはぐい呑みコレクターがいますね。

【尾西】そうですね。ひとつひとつ巾着に入れて持ち歩いている人がいますね。

【西村】茶入ですとはじめから袋がついていますが、ぐい呑みは自分で袋作らないとだめなので、マニアですね。


(耳付鶴首花入)

【尾西】こちらの花入はあまり、真行草は気にしない方が良いかと、山村御流さんにはいろいろ使ってもらっています。山村好みであると思います。口がある程度の太さのあるものが好まれます。

【西村】一輪挿し以外の用途がありますね。

【尾西】そうですね。飾り壺として置いておく人もいます。花入の場合は、余った花材を入れたりできます。

【西村】私の印象ですが、山村御流は一輪挿しが得意な流派だと思っていました。

【尾西】螺鈿を使ったものがありますが、あれくらいになると花を活けるのが難しい。花入は映りが難しい。西洋のつるっとしたものにはない、花を入れたらびっくりするほど表情がかわります。


(工房にて)

【西村】普段はこちらで創作されているのですか。

【尾西】そうです。いま、こんなのを作っています。文鎮です。お寺からの注文がありまして。

【西村】奈良と言えば、墨や筆が得意ですものね。

【尾西】依頼は圓照寺さんからですね。

【西村】ああ圓照寺さん、三島由紀夫『豊饒の海』の最後の会えなかった寺ですよね。


(茶入を取り出す)

【尾西】ぱっと見たところ、備前焼みたいですが、これは奈良公園の鹿の角です。

【西村】鹿の角は珍しいですね。

【尾西】そして、仕覆は春日大社の藤の柄です。

【西村】象牙ではなく鹿の角は面白いですね。少し話は変わりますが、赤膚焼きをされているのは、奈良に何軒残っていますか?

【尾西】赤膚焼きは7軒だけですね。

【西村】六古窯とは有名な言葉ですが、赤膚焼きはどういった始まりなのですか?

【尾西】豊臣秀吉の弟、豊臣秀長が作らせたと言われています。

【西村】なるほど、茶陶が中心なんですね。今も土は採れていますか?

【尾西】赤膚の鉄分の少ない土はなかなか少ないです。

【西村】薬師寺東塔の土は久しぶりに良い土でしたか?

【尾西】鉄分が多いので、耐火度が低いです。高温で焼くと歪みやすいですね。

【西村】なるほど、そういった貴重な土を使った焼物が2006年から生まれているのは興味深いですね。新しい抹茶碗を購入される方は多いですか?

【尾西】お茶とお花が事実上、衰退しているので、難しい問題です。

【西村】やっぱりそうなんですね。

【尾西】花嫁修業という言葉は死語になりましたね。

【西村】確かに。それでも花を飾ったりする機会はあると思いますし、花入は探している人も多そうですね。

【尾西】そうですね。だからこそ、際立ちますね。字が上手い人が際立つでしょ。

【西村】確かに。少なくなっているから際立つ、っていうのはありますね。

(春日大社より天皇陛下に奉献された、赤膚焼 香柏窯の作品)

 

尾西楽斎様は、尾西徳造(1820~1871)を初代として数えている。また楽斎という号は明治に入って尾西家二代の安吉が柳澤家から「香柏窯・楽斎」の名を頂戴したことから始まっている。今回対談させていただいた尾西様は、春日大社から「春日御土器師」という名前をもらっている。これは婚礼のときに集まった親族の全員に曇土器を付けているためである。家に持ち帰って正月など使う用途である。曇土器の模様、すなわち曇華とは花のような形をした綺麗な雲をあらわす。その曇華が真ん中に入っていて、お酒を注ぐと浮いたように見える。それを曇華焼と言い、真ん中に曇華が浮き出る盃を曇土器と呼ぶ。戦前までは三三九度や、正月のおめでたい時には必ず曇土器が使われていた。曇土器は現在、一般には販売されていない。そして、全国で唯一、尾西様の窯でしか作れない。本焼きをする方が簡単なところを素焼きのみで終わらせ徹底して磨く、という技法は珍しい。赤膚焼の特徴とは、制約なしで何でも作れる自由な窯というところにあるだろう。奈良絵は確かに特徴的であるが、多様な奈良の焼き物の特徴の一つに過ぎない。日本の工芸は奈良をルーツに持ち、さらに茶陶を起源に持つ赤膚焼には何でも作れる伎倆が必要といえる。