辰砂壷 藤平伸

幅１４cm ×１４ｃｍ 　高さ２１．５ｃｍ

藤平寧様との対談

丸みが醸し出す包容力

藤平伸様の「辰砂壷」は、柔らかな丸みを帯びたフォルムが特徴的です。この形状には、あたかも壷自体が生命を持ち、観る者や触れる者を包み込むような包容力が宿っています。その丸みには、柔らかさと力強さが共存しており、使い手の手に馴染むだけでなく、視覚的にも穏やかな安心感を与えます。この包容力のある姿こそが、「辰砂壷」の美しさの根源と言えるでしょう。

辰砂釉が生み出す神秘的な緋色

辰砂釉の特徴である緋色は、この壷に独特の表情を与えています。藤平伸独自の技術で施された釉薬は、鮮やかさと深みを兼ね備え、光の加減によって変化する色彩のグラデーションが不思議な奥行きを感じさせます。仄かに光を通す釉薬の質感は、観る者に神秘的で静かなオーラを届けます。その緋色は見る人の心を惹きつけ、触れる人に温かさをもたらし、壷そのものに詩情を吹き込む重要な要素となっています。

花を生けなくても映える造形美

一般的に壷は花を生けるための器として認識されますが、「辰砂壷」は花を入れることなく、そのままの姿で圧倒的な存在感を放ちます。滑らかで優美なフォルムと、釉薬の深い緋色が融合したこの壷は、それ自体が芸術品として空間を満たします。置かれるだけで室内に特別な雰囲気を作り出し、観る者の心に感動を与える力を持っています。

陶芸における藤平伸様の遊び心と革新

藤平伸様は、「陶の詩人」と称されるほど、陶芸の中に詩情や遊び心を反映させることを得意としていました。「辰砂壷」にもその精神が色濃く表れています。作品は単なる器物の枠を超え、見る者に自然体の創作の魅力を伝えます。藤平は轆轤（ろくろ）をほとんど使用せず、手捻りやタタラ成形を駆使して、自然でありながら緻密な造形美を追求しました。「辰砂壷」も例外ではなく、その制作工程には藤平特有の技巧と感性が注ぎ込まれています。

陶芸人生と背景

1922年、京都の五条坂で製陶業を営む家庭に生まれた藤平伸様は、陶磁器の伝統に囲まれながら育ちました。京都高等工芸学校窯業科に進むも、結核により退学を余儀なくされ、療養中には絵を描くことで表現力を磨きました。30歳で陶芸を始めた藤平様は、清水六兵衛に師事し、独自の表現を追求しました。

藤平様は陶板レリーフや器物、動物や人物をモチーフにした陶彫など幅広い作品を制作し、その詩情あふれる作風から「陶の詩人」と評されました。中国の漢代や唐代の明器（墓に埋葬するための器物）の影響を受けつつも、日本的な軽妙洒脱さを兼ね備えた作風で、日展や京都市立芸術大学などの場で大きな足跡を残しました。

辰砂釉の美しさの探求

「辰砂壷」に施された辰砂釉は、藤平様が長年の研究と技術を結集して生み出したものです。辰砂釉は、酸化銅を主成分とする釉薬で、焼成時の微妙な温度変化や窯の条件に左右されやすい繊細な技法です。藤平の手による辰砂釉は、ただ赤いだけではなく、深みと透明感を備えた独特の緋色を実現しています。この釉薬が、壷のフォルムに生命を吹き込み、観る者に特別な印象を与えるのです。

作品を通じて感じる精神

藤平伸様の作品には、一貫して自然体でありながらも独創的な精神が宿っています。「辰砂壷」はその象徴とも言える作品であり、見る者に藤平の陶芸に込められた詩的な遊び心を感じさせます。また、作品を通じて、人生哲学や日本文化に根差した美意識を垣間見ることができます。「辰砂壷」は、藤平伸様が生み出した陶芸作品の中でも特に印象深い一品です。包容力のある丸みを帯びたフォルム、辰砂釉の神秘的な緋色、そして花を生けずとも成立する圧倒的な存在感。それらすべてが調和し、この壷はただの器ではなく、空間全体を変える力を持つ芸術品として存在しています。藤平様が切り開いた自由で洒脱な陶芸の境地を象徴するこの作品は、観る者に深い感動を与え、日本陶芸史において重要な位置を占める存在と言えるでしょう。

藤平伸様 来歴
1944 京都高等工芸学校に入学 病気のため中途退学
1945 藤平陶芸にて作陶
1957 第13回　日展にて特選・北斗賞受賞
1960 イタリア・フィレンツェ国際陶芸展
1963 第6回新日展にて菊花賞受賞 京都府文化功労賞受賞
1968 現代陶芸の新世代展 陶芸の現在－京都から展
1970 現代の陶芸ヨーロッパと日本展
1973 日本陶磁協会賞受賞
1974 中南米巡回展
1976 東独巡回日本陶磁名品展
1978 西ドイツ巡回日本陶磁名品展
1982 アメリカ・カナダ巡回展
1983 現代日本の工芸展
1985 現代日本美術の展望展
1990 京都美術文化大賞受賞
1991 京都市文化功労賞受賞

「本作品は未使用の新作です。現在、藤平伸記念館で保管されています。ご購入の際はご子息である藤平寧様が真作の証明として共箱を制作いたします」