茶盌飴釉馬上盃 高橋道八
茶盌飴釉馬上盃 高橋道八
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幅 : 12.3cm 高さ : 9.98cm
飴釉馬上盃茶盌 ―― 九代 高橋道八様
高橋道八様が手掛けられた本作は、たっぷりと掛けられた飴釉の艶と、高台の高さが印象的な馬上盃形(ばじょうはいがた)の茶盌でございます。以下、五つの観点からその魅力と歴史的背景を詳しくご紹介いたします。
1.造形美 ― 馬上盃形がもたらす凛然とした佇まい
馬上盃とは、武将が馬上でも酒を酌み交わせるように高い脚を備えた盃を指し、古代中国・朝鮮に源流を持つフォルムです。本作はその意匠を茶盌に応用し、胴部をふくらませつつ、高台をラッパ状に細長く伸ばしています。視覚的には聖杯のような崇高さを帯び、卓上に据えた際には盃全体が宙に浮いたかのように見える軽快さがございます。口縁はわずかに外開きで、抹茶の泡をふっくらと受け止める実用性を確保しております。
2.釉調 ― 飴釉が織りなす温潤の光彩
飴釉は鉄分を多く含む長石系の高火度釉で、酸化焼成によって蜂蜜色から琥珀色へと発色いたします。本作では厚掛けによる層状の発色変化が見られ、胴部の緩やかな轆轤目をなぞるように濃淡の縞が現れます。釉面はガラス質の強い光沢を帯び、ほんのりと貫入が走ることで、年月とともに茶渋が染み込み、景色が育つ“用の美”を備えています。
3.意匠 ― 胴中央に浮かぶ「桐紋」
胴部正面には、浅い掘り込みに呉須で描かれた桐紋の意匠が象徴的に配されています。これは繁栄や永続を象徴する吉祥紋として知られます。飴釉の下で紋様部分だけがやや暗褐色に沈み込み、レリーフのように浮き立つ効果を生んでおり、平面的な絵付けとは異なる立体感をもたらしています。
4.技法 ― 掘り出し文様と飴釉厚掛け
素焼後、胴に浅く紋様を彫り込み、そこへ酸化鉄系顔料を摺り込む「掻き落とし」に近い技法を施してから飴釉を掛け、本焼成で溶着させています。釉厚を制御しつつ紋様を埋没させない工夫は、高台側面にも均質に釉を乗せる高度な轆轤技術と窯掌技術の賜物でございます。高台内側まで釉が廻り込まないよう丁寧に拭き取りがほどこされ、畳付けの安全性と景色を両立しています。
5.歴史的・文化的背景 ― 馬上盃の茶陶への転化
馬上盃形は、室町期の唐物尊崇や戦国武将の酒礼に由来し、日本では桃山〜江戸初期にかけて茶道具へと取り入れられました。高台の高さは「見立ての美学」を強調し“盃を茶盌へ転生させる”という遊び心が茶人たちに好まれた経緯がございます。現代においても、飴釉の温かみある発色と馬上盃の気品を掛け合わせることで、格式と親しみを兼ね備えた器となり、正月初釜や祝儀の茶会で重宝されます。高橋道八様は京焼色絵の名門として知られつつも、古陶のイメージを現代的に昇華させる試みに長けておられ、本作はその好例といえるでしょう。
高橋道八家は江戸後期以来、京焼色絵の名門として知られます。九代様は京都文教短期大学 服飾意匠学科デザイン専攻を経て、京都府立陶工高等技術専門校 成形科・研究科、さらに京都工業試験場本科で技術基盤を固められました。
平成8年(1996年) 八代道八様(父)に師事し、本格的に作陶を開始
平成24年(2012年) 九代 高橋道八を襲名
服飾デザインで培われた造形感覚と、京焼の伝統技法が交差する作風は、道八家に新たな風を吹き込み、現代茶席やギャラリー空間にも映える洗練を示しています。
飴釉の艶やかな光沢と桐紋の凛とした意匠、そして馬上盃形の引き締まったプロポーションが融合した本茶盌は、祝祭感と温もりを併せ持つ逸品でございます。手に取れば、高台が自然と指に掛かり、重心の安定感に安心させられます。抹茶の緑が琥珀色に映り込む様子は格別で、晴れの席のみならず、日常の稽古で用いても心を豊かにしてくれることでしょう。どうぞ末永くご愛玩いただき、飴釉が時を経て深める景色と、高橋道八様の卓越した造形美をご堪能くださいませ。
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