乾山写し笹百合之絵酒呑 宮川香斎

高さ :7.5cm　　幅 : 6.5cm

「乾山写し笹百合之絵酒呑 宮川香斎」は、伝統的な京焼の技法と、自然を題材にした美しいデザインが融合した逸品です。この作品は、尾形乾山の作風を写したものであり、特に笹百合の図案を大胆に描いたことが特徴です。ここでは、そのデザインや技法、歴史的背景に焦点を当て、作品の魅力を詳しく見ていきます。

デザインの特徴と美しさ

この酒呑には、大胆な白い笹百合が描かれています。百合の花は、その清楚で控えめな美しさが象徴的であり、葉の描き方も非常にモダンで斬新です。葉はシンプルながらも力強く、どこか未来的な印象を与えつつ、日本の伝統的な美を尊重しています。笹百合の白い花と濃い緑の葉とのコントラストは、見る者に清々しい感覚を与え、見飽きることのない美しさを感じさせます。

笹百合は本州中部地方以西、四国、九州などに自生するユリで、白または淡いピンクの花を咲かせます。葉が笹に似ていることから「笹百合」と呼ばれ、控えめに下向きに咲くその姿が、上品さを強調しています。花言葉は「上品」であり、淡いピンクの花が少しうつむき加減に咲く様子は、控えめでありながらも気品に満ちており、日本文化において美人の象徴とされています。この酒呑に描かれた笹百合は、まさにこの花言葉にふさわしい優雅な存在感を放っています。

酒呑の形状と実用性

この酒呑は、一般的なおちょこよりもやや大きく深さがあります。ぐい呑みは、よりたっぷりとした量を注ぎやすい形状で、手に持った際の感触が良く、使う者に快適な体験を提供します。実際に使用する際には、描かれた図案を楽しみながら、ゆっくりとお酒を楽しむことができるデザインとなっています。このように、見た目だけでなく、使い勝手の良さにも配慮された作品であることが伺えます。

乾山写しと琳派の影響

「乾山写し」とは、江戸時代に活躍した京焼の巨匠・尾形乾山の作風を再現し、さらに独自の解釈を加えた作品です。尾形乾山は、京焼の祖とされる野々村仁清から技法を学び、その後京都に窯を開いて「乾山焼」を発展させました。彼の作品は大胆で自由なデザインが特徴で、無駄のない洗練された美しさが、多くの人々に愛されてきました。

乾山の兄は、琳派の巨匠である尾形光琳であり、二人の合作も多く見られます。乾山の作品には、光琳から影響を受けた琳派の華麗な花文様がしばしば取り入れられており、特に笹百合のような自然をモチーフにしたシンプルかつ優雅な図案が多く見られます。この「乾山写し笹百合之絵酒呑」も、その流れを汲んだ作品であり、自然の美しさを存分に表現した一品です。

宮川家のワラ灰釉と真葛焼

この作品には、宮川香斎家特有の「ワラ灰釉」が使用されています。ワラ灰釉は、作品全体に乳白色のまろやかな質感を与え、器の表面に柔らかで温かみのある肌合いを生み出します。特に、この酒呑にはやや青みがかった色調が見られ、涼やかさと温かみの両方を感じさせる絶妙なバランスが特徴です。

ワラ灰釉はもともと野々村仁清も用いていた釉薬ですが、宮川家では代々この技法が受け継がれてきました。土の種類や焼成の温度によって、微妙に異なる色調が出るため、同じ釉薬を使っていてもそれぞれの作品が異なる表情を見せます。これにより、同じデザインでも一つひとつが唯一無二の作品としての価値を持ち、コレクターたちにも高く評価されています。

真葛焼の歴史と宮川香斎家の伝統

真葛焼の歴史は、江戸時代にまで遡ります。初代宮川小兵衛が京都で窯を開き、真葛焼の基礎を築きました。その後、真葛焼は世代を重ねるごとに技術を発展させ、代々宮川家によって受け継がれてきました。七代目となる現代の宮川香斎様も、その伝統を守りながら現代の感性に合わせた作品を制作しています。日本国内だけでなく、海外でも評価が高く、ヴィクトリア＆アルバート博物館など多くの国際的な美術館に所蔵されています。

笹百合の花と日本文化

笹百合は、特に上品で清楚な美しさを持つ花として、日本文化に深く根付いています。その花言葉「上品」は、笹百合の控えめで優雅な姿をよく表しており、酒呑に描かれたこの花も、その美しさを見事に体現しています。笹百合は野生では数が減少しており、長野県では準絶滅危惧種に指定されているほど希少です。そのため、この酒呑は、単に美しいだけでなく、日本の自然や文化の保護への敬意も表している作品といえるでしょう。「乾山写し笹百合之絵酒呑 宮川香斎」は、伝統的な技法と現代的な美意識が融合した作品です。大胆なデザインと控えめな美しさ、そして宮川家の代々受け継がれてきたワラ灰釉による質感が、この酒呑を特別な存在にしています。自然の美しさと、日本文化の精神を感じさせるこの酒呑は、使い手に豊かな時間を提供し続けることでしょう。