薬師寺東塔基壇土 焼締め茶碗 尾西楽斎
薬師寺東塔基壇土 焼締め茶碗 尾西楽斎
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幅 : 11.9cm 高さ : 6.5cm
薬師寺東塔基壇土 焼締(やきしめ)茶碗 尾西楽斎様
――千三百年の聖土へ炎を吹き込み、土味そのものを味わう一椀――
1.作品概要
こちらの茶碗は、令和の大修理で採取された薬師寺東塔の基壇土(きだんど)を胎土に配合し、釉薬をいっさい掛けずに焼締めで仕上げた力強い作品でございます。口径約 12 cm、高さ約 6.5 cm の端正な筒形(つつがた)で、胴の張りから高台にかけてわずかな張り腰を残し、全体の重心を低く安定させています。
2.景色と焼成
表肌の景色
焼成中に舞った松灰が自然に降り掛かり、灰が融けてできた灰被(はいかつぎ) が金褐から銀鼠へと広がっています。胴中には火前(ひぜん)で直接炎を受けた**焦げ(こげ)**が黒紫に発色し、基壇土に含まれる鉄分が金属光沢を帯びています。
下部の石はぜ
基壇土特有の石英粒が表面に噴き出て石はぜとなり、白い斑点が天の川のように散っています。これは焼締めならではの“土の呼吸”を感じさせる景色でございます。
内面
見込みには灰被が薄くガラス化し、浅い湖面のような微光を帯びています。抹茶を点てると翡翠色が冴え、泡の輪郭がくっきりと映えます。
3.成形技法
荒土の荒練り:基壇土を粗目のまま赤膚山の胎土と 5:5 に調合し、粒子感を残して土の息吹を活かしました。
一気挽き:轆轤でやや厚手に引き、半乾きで内外を削り込んで軽量化。
薪窯焼成:アカマツを主体に連続 48 時間の高温焼成。温度は 1280℃付近まで上げ、最後は灰を振り入れて急冷する“降灰(こうばい)”を施し、自然釉の景色を強調しています。
4.基壇土を用いる意義
薬師寺東塔は「凍れる音楽」と冠される飛鳥様式の傑作で、その基壇を支える土は1300 年間の風雨と人びとの祈りを抱えてまいりました。尾西楽斎様は、“土が持つ記憶”と“炎が生む偶然”を茶室で感じてほしい との思いから、この聖土を焼締めに挑戦なさいました。釉を掛けぬことで土の声がそのまま響き、抹茶が触れることで初めて“水と緑”が加わり完成する――まさに一期一会の茶碗でございます。
5.茶席での取り合わせ
季節・場面 | 道具組の提案 | 趣旨 |
---|---|---|
寒中・炉辺 | 釜:筒釜/香合:瓦灯(薬師寺東塔基壇土) | 土と火の景色を揃え、炉火の厳粛を際立たせる |
朧月夜(卯月夜咄) | 釜:透木釜/軸「月無心」 | 灰被の銀鼠が月光を想起させ、夜咄の幽玄を深める |
名残茶事(晩秋) | 釜:平丸釜/香合:鬼瓦 | 枯色の肌合いが秋の寂に呼応し、名残の余情を映す |
6.手取り・口当たり
手にすると、外肌の粒立ちがざらりと指に絡み、熱がじわりと伝わります。口縁は削り込んで薄く仕立てており、唇当たりは意外にも滑らか。抹茶を啜ると、焼締め土特有のわずかな鉄分が甘みに深みを添え、余韻が長く残ります。
7.まとめ
こちらの「薬師寺東塔基壇土 焼締め茶碗」は、塔を支え続けた大地の記憶と、炎・灰・風の偶然が重なり合った唯一無二の景色を備えております。掌中で触れれば土の鼓動を、口中で味わえば鉄の甘露を感じ取れる――そんな多層的な体験をもたらす茶碗でございます。茶席にて、どうぞ時とともに変わる肌合いを慈しみながら、聖土の悠久を一服の茶に映してご堪能くださいませ。
薬師寺境内の土100%使用、不純物を徹底除去した本作は、澄明な美しさが特徴。悠久の時を経た土は均質で、焼成により濁りのない艶と、焼締めでは古瓦のような穏やかな色合いを呈します。滑らかな肌理と歪みにくさも魅力。千三百年の歴史を宿す土の物語が、手に取るたびに安らぎを与えます。素材と美しさ、精神性を兼ね備えた特別な作品です。
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作品ごとに、出来るだけ詳細をご確認いただけるように画像を掲載しておりますが、ご不明な点はお問い合わせください。
作品の色合いなどは、画像を表示する環境により若干異なることがございますが、ご理解の程お願いいたします。
作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。