薬師寺東塔基壇土 鉄釉窯変茶碗 尾西楽斎
薬師寺東塔基壇土 鉄釉窯変茶碗 尾西楽斎
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幅 : 10.8cm 高さ : 5.7cm
薬師寺東塔基壇土 鉄釉窯変茶碗 尾西楽斎様
――「凍れる音楽」を支えた聖土が、炎の交響へと転じた一椀――
作品概要
こちらの茶碗は、令和の大修理で掘り上げられた薬師寺東塔の基壇土を胎土に調合し、八代 尾西楽斎様が鉄釉で焼き上げた窯変茶碗です。高さ約6 cm、口径約11 cmほどの端正な沓形(くつがた)で、見込みはやや浅め、腰から高台にかけては柔らかい張りを残しています。東塔を1300年以上支えてきた土が、炎の中で青墨・金褐・藍碧へと変奏する景色は、まさに“静の土”から“動の釉”への転生と申せましょう。
釉調と窯変
鉄釉の発色
基壇土に由来する高い鉄分を活かし、長石主体の透明釉に酸化鉄を加えて還元焼成しています。火の当たりが強い肩部では深い藍黒、溜まりとなった胴中から腰にかけては鈍色を帯びた群青へと移ろい、ところどころに黄赭(おうしゃ)色の結晶班が花開いています。
自然灰の降り景
焼成中に舞った松灰が釉面に融け込み、淡いオリーブ色の被膜を形成しています。流れ落ちる釉条は滝のように重なり、基壇土の赤味と重なって墨滴のような濃淡を醸し出しております。
器面の肌合い
表層には鉄粉がざらりと顔を出し、ところどころ金属光沢が覗きます。指先で撫でると、滑面と粒面が交互に現れ、基壇土が秘める鉱物質の息吹を存分に感じ取れます。
造形とロクロ技
胴は轆轤でやや厚手に挽き、半乾きで内外を削り出して沓形を整えています。見込み中央はごく浅い鏝押(こてお)しで平らに仕立て、抹茶の泡が中央に安定して溜まるよう設計。高台は切高台に近い低さで、削り際を一本残すことにより視覚的な腰の締まりを強調しています。
基壇土を用いる意義
薬師寺東塔は「凍れる音楽」と称される飛鳥様式の名塔で、2009 〜 2020年の大修理の際、基壇の一部土壌が文化財保存上の理由で戻されずに保管されました。その聖土には千三百年分の鉄・石英・雲母などが自然配合され、陶土として用いると赤味と金属質が共生する独特の発色を示します。こうして生まれた茶碗は、塔を支えた大地と炎の力を同時に宿す「動と静の合奏」と言えるでしょう。
茶席での趣向
季節・場面 | 道具組の提案 | 演出効果 |
---|---|---|
炉開き(霜月) | 釜:鬼面風鐶付/香合:瓦灯/軸「不退転」 | 塔を支えた土が炉火を纏い、冬炉の厳粛さを高める |
仲春・東大寺修二会に寄せて | 釜:筒釜/香合:勾玉/軸「和光同塵」 | 南都の祈りを一椀に映し、再生と浄化の趣向を演出 |
名残の茶事 | 釜:透木釜/香合:鬼瓦/軸「八風吹不動」 | 鉄釉の枯淡が晩秋の寂を深め、名残の余情を強調する |
使用上の所感
本作は見込みの釉面も滑らかなため、抹茶の色が冴え、泡立ちも安定します。熱を含むと釉面の藍黒がわずかに明度を増し、飲み干す頃には温度差で結露が生じ、小宇宙のような光景が現れます。
結び
薬師寺境内の土100%使用、不純物を徹底除去した本作は、澄明な美しさが特徴。悠久の時を経た土は均質で、焼成により濁りのない艶と、焼締めでは古瓦のような穏やかな色合いを呈します。滑らかな肌理と歪みにくさも魅力。千三百年の歴史を宿す土の物語が、手に取るたびに安らぎを与えます。素材と美しさ、精神性を兼ね備えた特別な作品です。 薬師寺東塔基壇土 鉄釉窯変茶碗は、聖なる塔を支えた大地の記憶と炎の偶然が生んだ唯一無二の景色を備えております。尾西楽斎様の高度な窯変制御と赤膚焼の温もりが交差し、手取ればずっしりとした霊気、口付けばまろやかな鉄分の甘みが舌に残る――そんな多層的な体験を与えてくれる逸品でございます。茶席にて、どうぞ時間とともに変わる釉色をご堪能いただき、1300年の祈りとともに一服をお楽しみくださいませ。
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【陶器をご購入の際のお願い】
作品ごとに、出来るだけ詳細をご確認いただけるように画像を掲載しておりますが、ご不明な点はお問い合わせください。
作品の色合いなどは、画像を表示する環境により若干異なることがございますが、ご理解の程お願いいたします。
作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。