富士香合 尾西楽斎
富士香合 尾西楽斎
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幅 : 5.5cm×6.8cm 高さ : 5.0cm
富士香合(ふじ‐こうごう) 尾西楽斎様 作
――“一富士”の瑞兆を、掌に抱く――
1.作品概要
本作は、奈良の赤膚焼を継承する 尾西楽斎様 が手掛けられた富士形の香合です。高さ約5 cm・径約7 cmの小品ながら、山体の裾野から雪冠(せっかん)に至るまでの起伏が精緻に写し取られ、胴が二分割になって練香・伽羅片を収納できる構造となっております。
2.造形と釉調
部位 | 意匠 | 覑賞ポイント |
---|---|---|
冠雪部 | 長石主体の乳白釉を厚掛け | 焼成中に石灰分が光沢を帯び、淡く虹彩を含む“氷雪の輝き”を表現。 |
山肌 | 鉄赤釉に木灰をまぜた淡黄釉を掛け分け | 岩稜に陽が当たる褐色、樹海の翳りを示す緑褐が窯変で混ざり、立体感を強調。 |
裾部 | 低めの轆轤台を残し、蓋合わせを意匠化 | 分割線を地層の断面に見立て、外観の一体感を損なわない。 |
釉流れが山腹を縫う雪渓のように凹凸へ沿って止まり、見る角度で白→淡黄→褐色と移ろう色調が、富士山の“日毎・時毎の貌”を彷彿させます。
3.技法と赤膚焼の妙
たたら成形+手捻りで荒々しい山肌を造形。
乾燥後、蓋位置を決めて切り離し、合わせ口を研磨。釉掛けは冠雪→山腹→裾野の順に三段階で重ね、1240 ℃前後の還元焚きへ。乳白釉は亜鉛を微量添加し、淡い玉虫光を帯びる。鉄赤釉は赤膚土中の鉄と相まって褐色を呈し、木灰のアルカリで融点を下げ流動感を生む。こうして赤膚焼の温雅な土味と富士の荒々しさが共存する独自の景色が生まれています。
4.富士モチーフの文化的背景
瑞兆の第一位:日本では「一富士二鷹三茄子」が吉兆夢の順とされ、富士は“無事(ふじ)・不死”に通じて一年の安全を願う象徴とされています。
天下泰平の象徴:江戸期には徳川家康ゆかりの駿河国三名物の一つとされ、武家茶人に好まれた意匠。
茶の湯との関わり:天目茶碗の見込みや風炉・釜にも富士形が多く、晴朗な遠望を茶室に取り込む趣向として発展しました。
5.茶席での取り合わせ
季節・趣向 | 軸/花 | 香 | 効果 |
---|---|---|---|
初釜(睦月) | 軸「日出富士」、若松一枝 | 練香「瑞雲」 | 年頭に“無事息災”を願う祝いの象徴 |
端午(皐月) | 軸「雲外蒼天」、菖蒲・杜若 | 伽羅片 | 青空に映える富士をイメージし、立身出世を祈念 |
重陽(長月) | 軸「高嶺秋色」、薄・吾亦紅 | 白檀+龍脳 | くっきりと見える秋富士を取り込み、清朗な気を添える |
6.尾西楽斎様の作陶理念
尾西楽斎様は「奈良の歴史と吉祥を現代茶陶へ」という信条を掲げ、鹿・梵鐘・鴟尾など大和ゆかりの題材に加え、全国的な瑞象である富士をも積極的に取り入れておられます。本香合では赤膚土の鉄分を雪解けの岩肌に見立てつつ、乳白釉の煌めきで“信仰の山”の澄んだ空気感を表し、掌中に日本の精神風景を凝縮しています。
7.まとめ
「富士香合」は、雪を冠した高嶺を掌に収め、蓋を開くと漂う香煙が雲海となって山頂を包み込む――そんな詩的情景を茶室にもたらす逸品です。尾西楽斎様ならではの繊細な造形と赤膚焼の温かな釉調が響き合い、祝いの席はもちろん、日々の稽古にも“無事・不死”の願いと爽やかな景観を添えてくれることでしょう。
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