薬師寺東塔基壇土 瓦灯蓋置 尾西楽斎
薬師寺東塔基壇土 瓦灯蓋置 尾西楽斎
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幅 : 6.0cm×6.0cm 高さ : 5.8cm
薬師寺東塔基壇土 瓦灯蓋置(やくしじ-とうとう きだんど がとう-ふたおき) 尾西楽斎様 作
――千三百年の大地の息吹を、侘びの灯火に映して――
1.作品概説
本作は、奈良の赤膚焼窯元・八代 尾西楽斎様が、国宝・薬師寺東塔の基壇(きだん)を支えてきた古土を用いて制作なさった瓦灯(がとう)形の蓋置です。釜蓋を休めるための小道具ながら、半球形の胴に刻まれた吹き抜け窓と上部の皿口が、寺院の瓦製灯火器を思わせる幽玄のシルエットを湛えています。
2.造形と意匠
部位 | 造形要素 | 鑑賞ポイント |
---|---|---|
皿口 | わずかに外反りさせた平縁 | 灯芯皿を載せた瓦灯の受皿を写しつつ、柄杓を置いた際に安定するフチ高を確保。 |
胴部 | 鐘形の丸みと縦長三裂の火屋窓 | 窓から炎光が洩れる意匠を三方向に抜き、茶席の淡光でも陰影が際立つ構造。 |
地際 | 一段低い框(かまち) | 床に接する面を引き締め、轆轤目(ろくろめ)を残して素朴な景色を演出。 |
焼成によって赤褐色の鉄釉が鈍く光り、窓縁や胴頂にはわずかに紫褐の窯変が現れています。これは基壇土に含まれる苦土・石英粒が熔融して現れた自然釉で、白鳳期からの時間の堆積を示す「土の結晶」と言えるでしょう。
3.技法と“基壇土”の意義
基壇土とは
令和の大修理(2009-2020)で一時的に取り外された薬師寺東塔基壇の土。1300年前に白鳳期の僧や匠が踏み固めた大地の遺産で、修理後は戻されない部分が文化財保護の観点から陶芸素材として活用されました。
作陶プロセス
①基壇土を篩い、赤膚山の胎土と3:7で調合し可塑性を確保。
②轆轤で半球状に成形後、刃金で火屋窓を切り抜き、乾燥。
③1240 ℃前後で還元焚きし、基壇土由来の鉄分が赤紫を帯びた鉄釉に昇華。
質感の妙味
基壇土特有の石英粒が肌に浮かぶ「礫肌(つぶはだ)」は、瓦灯の焼き締め質を忠実に再現しつつ、炎を映したときの照り返しに深みを与えます。
4.瓦灯モチーフの歴史的背景
瓦灯は、屋根瓦と同じ土を用いて作られた寺院用の灯火器で、江戸〜明治期に広まったとされます。鐘形の火屋を被せて風を避け、連夜の勤行を支えた素朴な明かりは、瓦肌の景色をそのまま写す茶陶としても古くから好まれました。薬師寺東塔は「凍れる音楽」と讃えられる美しい三重塔で、令和2年に12年がかりの大修理を完了。基壇土はこの塔を千三百年支えた“静なる力”として、焼成炎によって再び“動なる灯”へ生まれ変わったと言えます。
5.茶席での取り合わせ
季節・趣向 | 道具組 | 推奨の香 | 演出効果 |
---|---|---|---|
寒中 炉開き後 | 軸「光明遍照」、花:寒椿、釜:鬼面風鐶付 | 白檀+龍脳 | 瓦灯の「篝火」に見立て、炉中の火と共鳴させる |
仲秋 観月茶事 | 軸「月輪光」、花:薄・吾亦紅 | 伽羅片 | 東塔に差す月光を想わせ、窓から洩れる陰影で幽玄を演出 |
修二会趣向 | 軸「不退転」、花:沈丁花 | 練香「修二会」 | 東大寺・薬師寺の松明行事に因み、祈りの灯を象徴 |
6.尾西楽斎様の作陶姿勢
尾西楽斎様は「奈良の記憶を次代へ繋ぐ器」を理念に掲げ、古瓦、鹿、梵鐘など土地固有のモチーフに加え、薬師寺東塔の基壇土という“歴史そのもの”を素材として甦らせる試みに挑戦しておられます。本蓋置では、瓦灯の簡素なフォルムに赤膚焼の温雅さと基壇土の荒々しさを同居させ、茶道具としての侘びと歴史の重みを巧みに融合なさっています。
7.まとめ
薬師寺境内の土100%使用、不純物を徹底除去した本作は、澄明な美しさが特徴。悠久の時を経た土は均質で、焼成により濁りのない艶と、焼締めでは古瓦のような穏やかな色合いを呈します。滑らかな肌理と歪みにくさも魅力。千三百年の歴史を宿す土の物語が、手に取るたびに安らぎを与えます。素材と美しさ、精神性を兼ね備えた特別な作品です。
「薬師寺東塔基壇土 瓦灯蓋置」は、千年超の時を抱いた土が炎と出会い、再び“灯”となって掌に蘇った逸品です。柄杓を置けば、瓦灯窓から炉の火が見え隠れし、東塔を照らし続けた祈りの光を茶室に呼び込んでくれることでしょう。歴史と信仰、そして奈良土の滋味を映す小宇宙を、ぜひ季節の茶事でご堪能くださいませ。
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