砧花入 　尾西楽斎

幅 : 11.5cm   高さ :21.1cm

尾西楽斎様が創り上げた「砧花入」は、伝統と革新が見事に調和した作品です。陶器という素材と花入れという用途において、安定感が求められる一方で、あえて不安定さを持つデザインに挑んだこの花入れは、ジャコメッティの細長い彫刻を彷彿とさせる独特の魅力を放っています。

不安定さと安定感の融合

一般的な砧形の花入れは、どっしりとした安定感が特徴ですが、この作品では、首を細く長くすることで、かすかな不安定さを感じさせる形に仕上げています。しかし、この形状は決して不安定さだけを追求したものではなく、陶器という素材においてもバランスが保たれており、その相反する要素を見事に調和させています。この花入れは目指した理想的な形に近づくための、創意工夫と熟練の技の結晶です。

「砧」の寂しさと侘びを表現

「砧花入」は、その名が示すように、「砧」という道具が持つ寂しさや侘びといった感情を見事に表現しています。青磁の名作「万声」や「千声」が風格を持つ姿を描く一方で、この花入れは、素地の土の上に白い化粧土が乗り、そこに焦げた灰と火の痕跡が残る、飾り気のない表情をしています。その無骨でありながらも繊細な表情は、日本の「砧」に込められた思いを具現化したかのようで、どこか侘しさを感じさせる一品です。

季節の移ろいと共に

この「砧花入」は、特に秋の始まりにふさわしい作品です。その寂しげな佇まいが、季節の移ろいと共に深まる侘しさを引き立て、花を入れることで、可憐な花の美しさが際立つコントラストを生み出します。能「砧」に詠まれた侘しさを思い起こさせるこの花入れは、花を飾るだけでなく、その背景にある日本文化の深い感情を感じさせてくれることでしょう。

尾西楽斎様との対談