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鉄釉窯変茶盌(線文) 岡田優

鉄釉窯変茶盌(線文) 岡田優

通常価格 ¥165,000
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幅 : 14.8cm 高さ : 7.0cm

鉄釉窯変茶盌(てつゆう ようへん ちゃわん|線文) 岡田優様作
――「青磁の息吹を宿し、夜風のように滑る一本の“線”が湧く」

起源と成立
天目茶碗の源流は、中国浙江省・天目山一帯の禅寺で用いられた黒釉碗にさかのぼります。鉄分を多く含む釉薬によって黒く発色する陶器は周代に萌芽を見せ、東晋期には徳清窯で本格的に焼かれました。やがて宋代(10〜13世紀)に入ると、福建省・建窯や江西省・吉州窯といった南方諸窯が黒釉技術を高度化させ、「建盞」「玳皮盞」など多様な景色を生み出します。

茶の湯との結びつき
北宋末〜南宋期には、点茶法に用いる白茶が流行し、湯色を際立たせる黒磁碗が大いにもてはやされました。文人官僚・陶穀が『清異録』に建窯茶碗を記したのが最初の文献とされ、以後、曜変・油滴・禾目・木葉といった窯変天目が高士や禅僧の憧憬の的となります。

日本への伝来と受容
鎌倉時代、天目山に留学した禅僧が喫茶の作法とともにこれらの茶碗を将来(もたら)しました。室町幕府八代将軍・足利義政の時代には『君台観左右帳記』に灰被天目や黄天目が登場し、天目茶碗は台子点前・貴人点など格式ある席で用いられる“格上の茶碗”となります。また瀬戸では天目への強い憧憬から鬼板化粧を施した写しが生まれ、後に菊花天目や白天目など独自の発展を遂げました。

江戸以降と近現代
江戸期には唐物賞翫の風潮が一段と強まり、曜変天目をはじめとする名碗が大名家や千家十職に伝わります。現在、曜変天目は龍光院・静嘉堂文庫・藤田美術館・MIHO MUSEUMに計4碗(国宝3、重文1)のみ現存し、その希少性は“陶磁界のモナリザ”とも称されます。近現代に入ると、京都・瀬戸・唐津・丹波などで黒釉研究が進み、窖窯薪焼成による再現実験や電子顕微鏡解析が行われる中、岡田優様のように「天目を現代の詩情で読み替える」作家が注目を浴びています。

 


1. 青黒の宙にゆらぐ“線文”の余韻

 本作の最大の見どころは、胴部中央に浮かぶ一本の水平帯――線文です。鉄釉が還元炎を受けてわずかに縮れ、釉厚の差から現れたこの細線は、雲間に伸びる薄月の光のように静かに輝きます。胴上部は青藍、胴下部は焦茶を帯び、線を境にグラデーションが分かれることで奥行きが一層強調されています。

2. 鉄釉窯変の深奥――“黒磁”から“青黒磁”への揺らぎ

 天目釉系の鉄釉は鉄分15%以上で黒く発色しますが、岡田優様は酸化・還元を巧みに揺らし、青みを帯びた青黒磁へと誘導しています。焼成終盤に窯内を微酸化状態へ切り替えることで、鉄イオンの一部を再酸化させ、表層にヘマタイト微結晶を析出させる手法です。これにより青紫〜緑青の構造色が生まれ、LED光下ではオーロラのような虹彩が浮かび上がります。

3. 造形の妙――瀬戸天目の系譜に連なる“平茶碗”の思想

口造り:外反を控えたわずかな張り出しが、口当たりに優しく触れます。

胴線:中央の線文が視覚的な“腰”を作り、器全体に締まりを与えます。

高台:筒状の高台は瀬戸窯の菊花天目や高麗天目に通じる意匠で、安定感と軽快な指離れを両立します。

 この平茶碗に近い浅い碗形は、抹茶の泡立ちを速めると同時に湯温を下げすぎず、薄茶の香りを素早く立ち上げます。また、広い見込みは茶筅の動きに制限を与えず、線文の周囲に泡が寄り添う視覚効果も生みます。

4. 歴史との対話――線文が語る宋窯から瀬戸への橋渡し

 宋代建窯の禾目天目では、釉の流れ止まりが稜線状に残り、箆(へら)彫りのような横帯を見せる例があります。一方、日本の瀬戸早期天目では土際を覆う“鬼板化粧”が帯化し、二層の色幅を強調しました。岡田優様の線文は両者の要素を踏まえつつ、現代的なミニマルデザインへ再構成したものです。

5. 掌で育む“景色”――使用と保管のポイント

薄茶点前では、泡のドーナツ状の輪の外側に線文が重なり、湖面の水平線を思わせる景色が楽しめます。

濃茶点前なら、暗褐色の湯面と青黒釉の対比が際立ち、静謐さが一層深まります。

使用後はぬるま湯のみで手洗いし、柔らかな布で水気を拭き取ってから自然乾燥してください。鉄釉が呼吸しやすくなり、経年で鈍銀の結晶が浮き上がります。

光源の選択で表情が激変します。行灯や蝋燭の暖光下では青緑が深く沈み、LED白色光下では紫がかって妖しく光ります。

6. 岡田優様の制作哲学――“線”が示す風の記憶

 清水五条坂で培ったフォルムの柔和さと、宇治・炭山の山肌を撫でる風の感覚――岡田優様はそれらを一本の線文に凝縮しました。「風が器の内外をゆったりと吹く」という作家の言葉どおり、線は風が刻んだ軌跡であり、釉の色幅は移ろう空の表情です。黒でもなく青でもない曖昧な“間(ま)”の色彩は、季節や時間帯によって異なる山の気配を映し込み、使い手の五感を静かに開きます。


結語
 青黒の宙に一本の風を描く“線文天目”。宋窯から瀬戸への歴史の潮流を背にしながら、岡田優様は現代の息吹を纏わせ、静寂の中に潜む風景を掌に届けてくれます。茶の湯の「一期一会」に寄り添い、時とともに色づく景色をどうぞご堪能ください。

略歴  
京都、清水五条に生まれる  
京都府立陶工訓練校成形科、京都市立工業試験場研修生を経て  
走泥社同人河島浩三氏の下で三年間陶技全般を学ぶ  
1987年、宇治市炭山にて独立、築窯  
2018年より 日本伝統工芸近畿展、鑑査審査委員  
2022年 日本伝統工芸陶芸部会展、鑑査審査委員

〈主な入選〉  
日本伝統工芸展、日本陶芸展  
菊池ビエンナーレ、  
茶の湯の現代展  
長三賞陶芸展、陶美展、  
益子陶芸展、  
伊丹国際クラフト展  
萩大賞展、  
神戸ビエンナーレ  
現代陶芸コンペティション、等

〈主な受賞〉  
1998年、使ってみたい北の菓子器展(優秀賞)  
2002年、京焼、清水焼展(KBS京都放送賞)  
2003年、BONSAIの器展(奨励賞)  
2008年、日本伝統工芸近畿展(日経新聞社賞)  
2009年、おおたき北海ライブ陶器展(NHK放送賞)  
2010年、おおたき北海ライブ陶器展(北海道新聞社賞)  
2012年、京都美術工芸ビエンナーレ(大賞)  
2013年、日本伝統工芸陶芸部会展(日本工芸会賞)  
 神戸ビエンナーレ現代陶芸展(準大賞)  
2014年、光州ビエンナーレ招待出品  
2016年、大阪工芸展(美術工芸大賞)  
2019年、大阪工芸展(準大賞)  
2022年、有田国際陶磁展(大賞、文部科学大臣賞)、等

現在、公益社団法人日本工芸会正会員、陶芸美術協会会員

 

 

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