とんぼ香爐 小川文齋
とんぼ香爐 小川文齋
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幅 : 13.0cm×10.0cm 高さ : 19.0cm
とんぼ香爐 ― 六代 小川文齋(興)作
まるで一瞬の夏の光景がそのまま器に封じ込められたかのような、躍動感と詩情に満ちた一作――それが、六代 小川文齋様による「とんぼ香爐」です。土味豊かな胴部の素朴な風合いの中に、ひときわ鮮烈な存在感を放つのが、蓋の上に羽ばたく一匹のとんぼ。その繊細でありながら大胆な意匠は、まさに小川文齋様の近年の創作を象徴する“とんぼのモチーフ”の集大成ともいえる作品です。
とんぼとの“邂逅”から生まれた造形
もともと、五代文齋が用いていた「赤」の色調とは対照的に、六代目は「緑」の探究を己の作陶の核心とし、平和への祈りや自然との共鳴を器に託してきました。そんな中、とんぼというモチーフを本格的に取り入れる契機となったのは、まさに私的な“啓示”でした。
ある夏の日、小川文齋様が庭先で制作中、ふと目の前に現れた一匹のとんぼが指に止まり、じっと見つめてきたといいます。その瞬間、「遠慮せんと使えよ」という亡き父・五代文齋の声を感じ取ったと語っています。この出来事以降、文齋様はとんぼを積極的に作品に取り入れるようになり、本作のような遊び心と精神性を融合させた造形が生まれることとなったのです。
動と静のあいだにある造形美
本作の最大の魅力は、香爐という静かな器に、「飛ぶ」存在であるとんぼをあえて象ることによって生まれる“動と静”のコントラストにあります。しかも、そのとんぼの羽には格子文様が大胆に施され、視覚的なインパクトと共に、工芸作品としての造形力の高さを見せつけています。胴体部分はあえて素地を見せるように釉薬を控えめに留め、表面には土の粒子が感じられるような荒さがあり、そこに蓋の上の精巧なとんぼが乗ることで、自然と人工、静と動、素朴さと華やかさが一体となった複合的な美を形作っているのです。
また、三輪の車輪を模した脚部の造形は、ややユーモラスでありながらも器としての安定感を高める構造的要素となっており、見た目以上に実用性にも配慮された設計となっています。
香爐としての機能と演出
香を焚く器である香爐は、その機能ゆえに「空間を設計する器」とも呼べます。本作は、香が蓋の小孔から立ち上ることで、とんぼの羽ばたきと香煙が重なり、まるで風に舞うとんぼが実際に飛翔しているかのような演出を可能にしています。香りとともに漂うのは、夏の記憶、自然の風景、そして陶工の想いです。
和室に置けば床の間に涼風の景をもたらし、現代の空間に置いても、一種の“対話するオブジェ”として鑑賞者の視線と感情を引き寄せる存在となるでしょう。
文齋窯の歴史と、六代文齋の歩み
初代小川文齋(文助)は九州で築窯の技術を習得し、1847年に鹿背山にて一条家より「齋」の字と家紋を拝領して創業しました。1873年には京都・五条坂に窯を構え、以来六代にわたり、150年以上にわたって京の地で作陶の火を灯し続けてきました。
現当主の六代 小川文齋(興)様は、大学院で彫刻を学んだのち、京都府陶工高等技術専門校で陶芸を学び、日展などで数多くの入選を果たした実力派です。代々受け継がれる京焼の伝統に加えて、彫刻的アプローチと現代的な造形感覚を積極的に融合させることで、新たな表現領域を開拓してきました。
「平和を願いながら、美しいと思う作品を全力で作っていく」――その信念のもと、緑という色彩を通じて、争いのない世界を願う姿勢が、この「とんぼ香爐」にも力強く息づいています。
一匹のとんぼがもたらした、記憶と再生の器。
六代文齋様の精神が静かに羽ばたく、心に残る一作です。
どうぞ、香りとともにその想いをお受け取りください。
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