翠緑茶盌 小川文齋
翠緑茶盌 小川文齋
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幅 : 14.0cm×14.0cm 高さ : 7.0cm
風を孕み、翠を映す ― 翠緑茶盌 六代 小川文齋(興) 作
六代 小川文齋(興)様が手掛けた「翠緑茶盌」は、静謐と清涼、そして造形の洗練を湛えた一碗です。本作は「風のひらき」ともいうべき、広がりの美をたたえた造形に仕上がっています。器としての機能性を極めながらも、彫刻的な造形と自然へのまなざしが融合し、ただの茶道具に留まらぬ、ひとつの芸術作品としての気配を放ちます。
広がる口縁、風の器形
本作においてまず目を奪われるのは、その口縁から胴にかけて緩やかに広がる流麗なプロポーションです。茶碗という形式の中にありながら、この造形は単なる造形美ではなく、機能と感性が見事に融合した“迎えるかたち”として成立しています。抹茶の香りが立ち上り、空間へとやさしく広がる様を想定してか、この形は、茶の湯における一服の所作を風と共に演出するように設計されているようです。
手にしたときの軽やかさと安定感も見事で、開放感ある造形ながら、底部に向けて絞り込まれた胴のつくりが手にすっと収まり、まるで長年使い込んだかのような馴染みを感じさせます。使用の実感に根ざしたつくりが、使い手との心地よい距離感を生み出しており、実用と美の均衡が精妙に取られていることがわかります。
翠の肌理、自然と時間の記憶
本作に施された釉薬の表情は、まさに小川文齋様が長年取り組んできた「緑色」の探究の真髄を示すものといえます。ひと口に“緑”といっても、それは単色ではありません。内から滲み出すような翡翠色、釉溜まりの深い青緑、焼成の際に現れた地の肌の鉄釉と交錯しながら、器全体に複層的な色彩のグラデーションが生まれています。
さらに細やかに貫入が入り、まるで水面に落ちた波紋のように繊細な表情を織りなしています。この貫入は、使用を重ねるうちに茶渋や手の脂が入り込み、時間と共に変化していくことでしょう。緑釉という自然の色が、使い手の歳月を受け入れ、器そのものが“時間の記憶”を宿してゆく—それは、茶道具における大きな魅力のひとつでもあります。
また、部分的に露出する土肌には、焼成時の火の痕跡とも言える窯変が見られ、自然現象がそのまま器の意匠となって息づいています。この“意図を超えた美”があるからこそ、文齋の器はただ美しいだけでなく、生きているような気配を帯びているのです。
茶の湯における「場」を演出する器
この茶盌は、茶を点てるための道具であると同時に“場をつくる器”でもあります。茶室において用いれば、その静謐な緑が周囲の景色や掛物、花、光の反射までも引き受け、全体を柔らかくまとめ上げる力を持っています。また、現代の住空間においても、棚に一碗置くだけで、その空間に「間」が生まれ、緑が空気を変えるのです。器が主張するのではなく、空間の一部として共鳴すること。これこそが、六代 小川文齋様の作品に共通する大きな魅力であるといえるでしょう。
伝統と革新 ― 文齋窯の精神
文齋窯は、初代 小川文齋(文助)が1847年に興し、以後150年以上にわたって京都・五条坂の地で技と美を継承してきた名門の窯元です。現当主である六代 小川文齋(興)様は、大学院で彫刻を学び、京焼の伝統技術に現代的な彫刻的造形感覚と深い色彩の探究を融合させることで、従来の「京焼」の枠にとらわれない柔軟な創作を展開してきました。五代の“赤”に対して、六代が選んだのは“緑”。それは単なる色の選択ではなく、制作の根底に流れる精神性そのものの転換でもあります。「平和を願い、調和とつながりを象徴する色」としての緑—その想いは、「人と人との輪」「争いのない世界」への祈りと重なり、一碗の中に深く沈潜しています。
「和を結ぶ」象徴としての翠緑茶盌
この翠緑茶盌は、六代 小川文齋(興)様の芸術観と精神、そして歴史的背景までもが一体となった、まさに“和を結ぶ”器といえるでしょう。伝統的な造形に倣いながらも、広がる口縁のフォルムや、釉薬の表現においては明確に現代の息吹が感じられ、時代を超えて愛される造形美を体現しています。一服の茶をいただくその一瞬に、この器は静かに、しかし確かにその存在を伝えてきます。手に取り、目で味わい、口をつけたとき、そこには緑のやわらかな光と、時間を超えてつながる人の思いが、確かに宿っているのです。
時の流れを包み込む、一碗の詩情
六代文齋様の「翠緑茶盌」は、ただの茶道具にあらず。祈り、自然、時間、空間、そして人との対話までもを受け入れ、共に生きていく“存在”としての器です。
今、ここに生まれた一碗が、使い手の歳月をまとい、数十年、数百年後の人々にまた別の表情を見せてくれる。そんな器があることの、なんと贅沢で、静かな感動でしょうか。
どうぞ、この一碗に込められた翠の世界と、小川文齋様の揺るぎない美意識に、心を委ねてみてください。
日常にひと匙の詩情を。
そして、日々の中にそっと訪れる“和”の瞬間を—。
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作品ごとに、出来るだけ詳細をご確認いただけるように画像を掲載しておりますが、ご不明な点はお問い合わせください。
作品の色合いなどは、画像を表示する環境により若干異なることがございますが、ご理解の程お願いいたします。
作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。