商品情報にスキップ
1 8

今焼黒ぐい呑 柳下季器

今焼黒ぐい呑 柳下季器

通常価格 ¥24,200
通常価格 セール価格 ¥24,200
セール 売り切れ
税込。 配送料はチェックアウト時に計算されます。

幅6.5cm   高さ5.6cm

柳下季器様による《今焼黒ぐい呑》は、桃山時代に生まれた黒茶碗「ムキ栗」に深く着想を得て、小型のぐい呑として現代に再構成された作品です。茶碗に込められた精神性と造形美を、酒器という日常に近いフォーマットに落とし込むことで、実用と芸術のあわいに静かに佇む逸品が生まれました。「ムキ栗」は、長次郎による四方黒茶碗として知られ、大阪の千種屋平瀬家に「千種伊羅保」とともに特に珍重されて伝来した名碗です。桐内箱蓋裏には、啼啄斎の筆で「長次郎黒四方茶わん 覚々銘ムキ栗 添状トモ 宗旦(花押)」と記されており、釉色にちなんで「ムキ栗」と命名されたものと考えられています。原叟の時代には、おそらく「長次郎 四方黒」と称されていたと思われます。また、外箱蓋表には「四角 長次郎作 利休所持」、さらに蓋裏には「利休好長次郎焼 四方黒茶碗」と記されており、この茶碗が千利休の好みであったことも確認できます。利休が晩年の茶会でしばしば用いたとされる「四方釜」と通じる意匠が、この四方黒茶碗にも見られ、初期の宗易形茶碗「大黒」や「無一物」などよりも、やや時代を下る作品として位置づけられる可能性もあります。


“景色としての黒”

《今焼黒ぐい呑》においても、この「ムキ栗」に見られる黒の美学がしっかりと受け継がれています。単なる漆黒ではなく、赤みを含んだ温かみのある黒が炭のような深みをもち、見る角度や光の加減によって表情を変えてくれます。

色としての“黒”というよりも、“景色としての黒”と呼ぶにふさわしく、使う人のまなざしと想像力を静かに喚起します。


焼成の記憶が刻まれた表情

本作は、伝統的な手法に則り、比較的低温で短時間の焼成がなされています。その結果、釉薬は微細に縮れ、わずかな凹凸や揺らぎが器肌に現れます。黒釉の濃淡には自然なむらがあり、ところどころ茶色みを帯びた素地が覗くことで、侘びた静けさが器に漂います。「ムキ栗」同様、厚手の釉掛けによる重厚な表情や、粗い貫入、気泡の跡、さらには鮮明なはさみ跡や高台の目跡まで、焼成の痕跡があえて見えるように残されており、見る者の感覚に働きかけてくれます。


手の中で味わう、落ち着きと美しさ

このぐい呑は、小ぶりでありながら、内包する存在感は際立っています。口縁はやや薄手に整えられており、口当たりの良さと酒の滑らかな流れを際立たせています。指先に自然と沿うフォルムは、使いやすさと視覚的な美しさを両立させています。

「ムキ栗」の形状が、上部を四方、下部を丸く構成していたように、本作もまたその作意をなぞりつつ、ぐい呑という用途に即した自然な調和が図られています。


歴史の記憶を継ぐかたち

「ムキ栗」は、かつて遠州時代に後藤三郎衛門が所持し、さらに遡ると「南のゆうかい老」という人物が所有していたとされます。その前段階では、利休自身の所持品であった可能性も示唆されています。宗左(原叟)の書簡には、「長次郎黒四角形茶碗 銘ムキ栗卜云…珍敷候御秘蔵可有候」と記されており、この茶碗が極めて大切に伝えられてきたことがうかがえます。さらに、一入による写しの四方黒茶碗が残されており、その手控えの記録には「形ハ上四角下丸ミ小服」とあります。この記述は《今焼黒ぐい呑》にも通じる構造であり、柳下季器様が古作の記憶を現代にどう昇華させたかを考えるうえで、きわめて興味深い手がかりとなります。


再解釈としての「今焼」

柳下季器様は、桃山陶の根底にある「一碗一会」の精神を現代にどう引き継ぐかを主題に、本作を制作されました。伝統の継承にとどまらず、今の素材と感性で新たな命を吹き込む姿勢こそ、“今焼”と名づけた所以です。柔らかな釉肌、確かな構造、揺らぎを含む景色——それらが静かに結びつき、ただの器に留まらない詩的な存在を生み出しています。伊賀の地に自らの窯を築き、焼締や織部といった多様な技法に取り組んできた柳下季器様。氏の作品に通底するのは、「使うための美」と「見るための美」の両立です。《今焼黒ぐい呑》は、日々の一献の中で自然に手に取られ、ふとした瞬間にその奥に潜む時間や物語を感じさせてくれる器です。静かに使い込まれ、少しずつ変化を重ねることで、使い手にとっての唯一無二の存在へと育っていくことでしょう。

 

柳下 季器(Hideki Yanashita) プロフィール
陶芸家 1967 –
東京都生まれ。現在は三重県伊賀市を拠点に活動。桃山時代のやきものに魅了され、陶芸の道へ進む。信楽での修行を経て三重県・伊賀に自ら穴窯を築窯し、「神田窯」を開窯。杉本貞光氏に薫陶を受け、侘び寂びの世界を独自の視点で深く探求しつつ、楽焼や焼締、井戸、織部など多彩な作品を制作しています。柳下氏の創作において重要なテーマとなるのは、先人の技法や精神を深く学びつつも、現代の素材や独自のアプローチを取り入れることで生まれる新たな極みへの探究です。その作品は時代に左右されない本質的な美を問いかけ、観る者をより深い芸術の世界へと誘います。

活動拠点
三重県・伊賀

略歴
1967年 東京都生まれ
1989年 専門学校桑沢デザイン研究所卒業
2002年 三重県伊賀市に穴窯を自身で築窯(神田窯)
2002年 高島屋横浜店にて二人展
2004年 高島屋横浜店にて個展(以降開催)
2007年 高島屋京都店にて個展(以降開催)
2007年 杉本貞光先生に薫陶を受ける(以降現在まで)
2008年 高島屋大阪店にて個展(以降開催)
2013年 JR名古屋タカシマヤにて個展(以降開催)
2023年 日本橋三越本店にて個展(以降開催)

 

 

詳細を表示する
  • 【丁寧に、お送りいたします】

    それぞれの商品に合った形態で、丁寧に梱包いたします。

    また、作品(器など)により、納期は変わります。

    作品の引渡時期は、ご注文確認後、共箱準備済み作品は7営業日以内に出荷させていただきます。共箱を新たに製作する作品は45営業日以内に出荷させていただきます。

    いずれも、ご注文を確認いたしましたら、当店より納期をメールにてご連絡いたします。

    梱包のこだわりについて

  • 【陶器をご購入の際のお願い】

    作品ごとに、出来るだけ詳細をご確認いただけるように画像を掲載しておりますが、ご不明な点はお問い合わせください。

    作品の色合いなどは、画像を表示する環境により若干異なることがございますが、ご理解の程お願いいたします。

    作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。

    作品の取り扱いについて