白丹波茶盌　正元直作

白丹波茶盌　― 正元直作様

高さ 8.5 cm × 口径 14.0 cm

１．白丹波釉が映す“早春の霞”

本作を覆う白丹波釉は、雪解けの光を想わせるやわらかな乳白色。その奥で釉薬が微かに桜色を帯び、淡い朝靄のような陰影を宿します。焼成中に散った鉄粉が点描のように輝き、素朴な土味の上に可憐な星屑を描き出しています。

２．お湯が呼び覚ます淡紅（うすべに）の景色

ぬるめの湯を注ぐと、見込みにほのかなピンク色がふわりと浮かび上がります。これは白釉に透ける微量の銅分と胎土の鉄分が温度によって再反応するため。茶事で湯通しを行う際、客は一瞬だけ現れる“桃の気配”を愛でることになり、静かな驚きと歓びが席中を包みます。

３．貫入（かんにゅう）の星雲が育む景色

器肌一面に走る細かな貫入は、時を重ねるほどに茶渋を含み、淡褐―墨色へと変化していきます。茶碗を使うほどに“星雲”が深みを帯び、持ち主の手の温もりとともに唯一無二の表情が育まれます。

４．掌に寄り添う端正フォルム

胴をやわらかく膨らませ、口縁へ向かって軽く絞った“筒形”は保温性に優れ、炉・風炉いずれの季節でも活躍します。高台は切高台を控えめに設え、見込みをやや深めに取ることで茶筅が自然に納まり、泡立ちを美しく整えます。指跡を柔らかく残した胴のゆらぎが掌に心地よくフィットし、長時間の稽古でも疲れを感じさせません。

５．正元直作様と直作窯の矜持

直作窯は丹波六古窯の精神を現代に伝える最古参の窯元のひとつです。赤松薪を用いる登り窯焼成を守り続け、偶然に委ねる部分を計算と経験で支える“用と美”の両立を徹底しています。本作でも、炎の流れを読み切った焼成管理により、白釉の中へ微妙な紅と星屑を閉じ込める繊細な発色を実現しています。

６．ご使用とお手入れの心得

初使用：軽く水通しして貫入を潤わせてからお点前ください。

洗浄：使用後はぬるま湯でやさしくすすぎ、柔らかな布で水気を拭き取ったうえで陰干しします。

避けたいこと：洗剤や長時間の浸水、硬いスポンジの使用は貫入の呼吸を妨げ、釉肌を傷めます。

７．歳月とともに深まる侘びの愉しみ

白丹波釉の清廉さ、淡紅の一瞬、貫入の星雲――それらはすべて、使い手の年月とともにゆっくりと変容します。茶渋が線を描き、釉肌がしっとりと落ち着く頃、茶碗は持ち主の心映えを映す“相棒”へと育つでしょう。

白丹波釉の静謐な白と、湯気の中にほのかに咲く桃色の景色。正元直作様の白丹波茶盌は、毎度の一服に小さな驚きとやさしい余韻を添え、茶席を品良く引き締めます。どうぞ末永くお手元で慈しみ、時が育む唯一無二の景色をご堪能くださいませ。