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青白磁銀彩香器 松川和弘

青白磁銀彩香器 松川和弘

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青白磁銀彩香器 松川和弘作(径:7.1cm 高さ:6.6cm)
――「掌の上の青白、銀の蓋に香のひと筋。小さな器が“静けさの密度”を極める」


Ⅰ 香器という“最小の宇宙”

香器は、香を焚くための道具であると同時に、目に見えない香気を空間の秩序へ変える器です。とりわけ本作のように径7.1cm・高さ6.6cmという小品は、サイズが小さい分、造形・質感・機能のどれか一つでも甘さがあれば、すぐに全体の緊張が崩れてしまいます。
しかし松川和弘氏のこの香器は、掌に収まるほどの小ささの中で、香が立つための構造と、見る者の呼吸を整える造形の静けさを、驚くほど高い密度で成立させています。


Ⅱ 青白磁――“白”よりも深い、澄んだ青み

青白磁の魅力は、単なる色の美しさではなく、光を受けたときに生まれる静かな階調にあります。本作の胴は、丸みを帯びたふくらみを基調としつつ、下部でわずかに絞られ、三つの脚へと静かに落ちていきます。
青白の釉調は、冷たい青ではなく、水面のように澄んだ青みです。照明の角度で、青白がわずかに深く沈んだり、ふっと明るく抜けたりする。その微細な変化が、香という不可視のものを扱う器にふさわしい「静けさの表情」をつくっています。


Ⅲ 銀彩の蓋――香の出口を“微光”として示す

本作の銀彩は、器の上部(蓋)に集約され、青白磁の柔らかな沈黙に対して、銀の微光が一点の緊張を与えています。
蓋面には同心円状の轆轤目が静かに巡り、中央の摘みは小ぶりで端正。さらに注目すべきは、蓋に設けられた細い開口(透かし)です。香は、強く噴き上がるのではなく、細く、整って、静かに立ち上るほど美しい。本作では、その“香の通り道”が、銀彩の面の中に凛と刻まれています。

銀は光を反射しつつ、見る角度で沈み、時に柔らかくくすむ——つまり銀彩は、器に時間の移ろいを映し込む皮膜です。昼は清澄、夜は幽玄。小さな香器でありながら、場の光を受けて表情を変え、香の気配に合わせて静かに呼応します。


Ⅳ 造形と機能――三脚が生む“清浄な浮遊”

胴はまるく豊かな量感を持ちながら、三つの脚によって床面からわずかに浮かせられています。この「少し浮く」という設計が、香器にとって決定的に効きます。
香は上へ立つものですが、器体が床に密着しないことで、視覚的にも心理的にも、香の立ち上がりが自然になります。脚が落とす小さな影が器体の丸みを引き締め、青白磁の柔らかさに、凛とした輪郭を与えています。小品であるほど、この影の締まりは効いてきます。


Ⅴ 歴史との響き合い――青白と銀、静けさを深める組み合わせ

茶の湯は華美を戒めながらも、必要最小限の光——たとえば月のひかりのような——を一点に宿すことで、かえって静けさを深めます。本作の銀彩はその在り方で、青白磁の沈黙を壊さず、静かな場に“微光の芯”を通します。
香の余韻は、派手な香りよりも、ふっと残る気配のほうが深い。本作は、まさにその余韻の美学を、最小のスケールで実現した香器と言えるでしょう。


Ⅵ 作家について――松川和弘氏(略歴・展覧会歴・受賞歴)

松川和弘氏は、奈良芸術短期大学で陶芸を学ばれ、京都府立陶工高等技術専門校修了後、近藤高弘氏に師事されました。2006年に独立し、河内長野市にて開窯。以降、百貨店・美術館を含む個展歴を重ね、第55回日本伝統工芸展にて日本工芸会総裁賞を受賞されるなど、確かな評価を築いてこられました。
この香器にも、青白磁の澄み、銀彩の節度、造形の精度が過不足なく統合され、掌に収まる小ささの中に、松川和弘氏の成熟した審美眼が凝縮されています。

略歴

1977 大阪府河内長野市生まれ
1998 奈良芸術短期大学陶芸コース卒業
2000 奈良芸術短期大学専攻科修了
2001 京都府立陶工高等技術専門校修了
   近藤高弘氏に師事
2006 独立・河内長野市にて開窯

主な個展・展覧会

2007 京都府美術工芸新鋭選抜展(京都文化博物館)
   二人展(松坂屋名古屋店美術画廊/名古屋)
   個展(京都高島屋美術工芸サロン/京都)
2008 個展(カンパニュール/千葉)
   個展(パラミタミュージアム小ギャラリー/三重)
2009 個展(ギャラリーエスパス/名古屋)
2010 個展(札幌三越美術ギャラリー/北海道)
   個展(松坂屋名古屋店美術画廊/名古屋)
   個展(アルパーク天満屋美術画廊/広島)
2011 個展(陶器ギャラリー風露/大阪)(’07)
2012 個展(ギャラリーおくむら/東京)(’07 ’09)
2013 個展(ラブリーホール開館20周年記念事業/大阪)
2014 個展(天満屋広島八丁堀店アートギャラリー/広島)(’11)
2016 個展(天満屋福山店アートギャラリー/広島)(’08 ’12)
   三人展(博多阪急ミューズ/福岡)
2017 個展(ピナコテーカ/東京)(’14 ’15)
   個展(天満屋岡山店美術ギャラリー/岡山)(’08)
   個展(アトリエヒロ/大阪)
2018 個展(日本橋三越本店美術ギャラリー/東京)
   個展(髙島屋大阪店ギャラリーNEXT/大阪)(’08 ’11 ’15)
2020 個展(花あさぎ/東京)
2021 個展(ギャラリーたちばな/奈良)(’15 ’17 ’19)
2022 二人展(花あさぎ/東京)
2023 二人展(アトリエヒロ/大阪)
2025 二人展(花あさぎ/東京)
   個展(緑ヶ丘美術館/奈良)

受賞歴

第36回日本伝統工芸近畿展(大阪府教育委員会賞)
第55回日本伝統工芸展(日本工芸会総裁賞)

パブリックコレクション

緑ヶ丘美術館


まとめ

青白磁銀彩香器 松川和弘作(径7.1cm・高さ6.6cm)は、青白磁の澄んだ静けさと、銀彩の微光を、掌の上の小宇宙に凝縮した香器です。香の出口を細く整え、三脚で清浄な浮遊を生み、光と時間を蓋に映す。茶席に置けば、香の気配は過剰に主張せず、しかし確かに空間の輪郭を澄ませ、静けさを一段深めてくれることでしょう。

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