飛青瓷下蕪花入(中) 諏訪蘇山
飛青瓷下蕪花入(中) 諏訪蘇山
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幅 : 11.5cm 高さ : 22.1cm
Ⅰ. 作品概要
「飛青瓷下蕪(しもかぶ)花入(中)」は、四代 諏訪蘇山様 が南宋・龍泉窯砧青磁の典雅さを踏まえつつ、独自の“飛青瓷(ひせいじ)”技法を用いて制作された花入です。“飛”の字が示すとおり、釉中に溶かし込んだ銅成分が焼成中に飛散し、淡い青磁の肌の上に釉裏紅(ゆうりこう)を思わせる微細な紅斑を散らしています。下部が蕪(かぶら)のようにふくらみ、上部へ向けてすっと絞り込まれるフォルムは、冬の土中に蓄えた滋味を想起させ、茶席に穏やかな温もりをもたらします。
Ⅱ. 造形とフォルム
蕪形胴部
胴は張りを持つ蕪形で、最下段に豊かな量感をもたせつつ、高台へ向けて緩やかに絞り込まれています。水を張った際に重心が下がり、安定感が高まる設計です。
緩勁な頸部
胴から頸へ移る肩は丸みを残し、頸はごく僅かに外反。花材を束ねるとき自然に中心へ寄り、一本挿しから複数挿しまで幅広く対応します。
口縁の控えめな輪花
口縁内側に浅い六弁輪花を施し、釉がわずかに溜まることで翡翠色が濃く映えます。花留めとしても機能し、華奢な花材を安定させます。
Ⅲ. 釉調――銅が描く「飛」の景色
飛青瓷の成り立ち
初代 諏訪蘇山様 が確立した“蘇山青磁”を基盤に、四代 諏訪蘇山様 は銅を釉に微量添加。還元炎中で銅が一部酸化還元を繰り返し、釉層内に紅点を形成します。これが夜空に散る星のように“飛”ぶ様相を呈し、青と紅の対比が生まれます。
色斑の分布
紅斑は頸部よりも胴下部に多く現れ、蕪形のふくらみを視覚的に強調。釉厚が1.4 mmを超える部分では斑点が淡く滲み、薄い部分では点状に鋭く発色します。光を受ける角度で紅が消え入り、翡翠色のみが浮かび上がるため、鑑賞者の位置によって表情が変わります。
Ⅳ. 機能美と茶席での取り合わせ
季節 | 推奨花材 | 器との相乗効果 |
---|---|---|
春 | 花筏(はないかだ)・木瓜 | 青と紅の対比が若芽の瑞々しさを際立たせる |
夏 | 露草・釣鐘人参 | 紅斑が涼感を損なわず、青磁の冷やかさを強調 |
秋 | 野葡萄・紫苑 | 紅斑が深まりゆく紅葉を先取りし、季趣を深める |
冬 | 寒牡丹・白侘助 | 胴の蕪形と紅斑が雪間から覗く蕪を思わせ、温かみを添える |
水際の景
厚釉により器壁がわずかに透け、水面の反射が青と紅の色調を柔らかく混ぜ合わせ、静謐なグラデーションを生み出します。
灯りとの相性
行灯や蝋燭の暖色光を当てると、紅斑がほのかに輝き、青磁肌に温かな星屑が浮かぶような幻想的効果が得られます。
Ⅴ. 歴史的背景と技法的意義
釉裏紅との対話
元・明代景徳鎮で発達した釉裏紅は、銅発色の難しさゆえ「窯変の花」と称されました。四代 諏訪蘇山様 は、その難易度を承知のうえで青磁釉と組み合わせ、安定と偶然の狭間にある美を探求されています。
砧青磁の継承
飛青瓷でも青磁釉の基本配合は初代由来のまま。銅添加による融点降下を補うため、石灰量を増し、焼成最高温度を調整して釉肌の透明度を保持しています。
下蕪形の象徴性
蕪は古来「蕪村」の雅号にも通じ、文人趣味の象徴とされました。宋代文人は蕪形器を冬の煎茶会で用い、寒気の中に潜む生気を愛でたと伝わります。本作はその精神を現代茶席へ移し替えたものです。
Ⅵ. 作家略歴と制作姿勢
四代 諏訪蘇山様(1970年京都市生まれ)は、三代 諏訪蘇山様 と塗師・十二代 中村宗哲様 を両親に持ち、2002年に四代を襲名。青磁研究を柱としながらも、練込青磁や蛍手、そして本作の飛青瓷など、常に新たな化学的アプローチを試みておられます。「作品には物語を宿し、使い手の物語と溶け合って初めて完成する」との信条から、制作段階で想定する茶席の季節・光源・客層までも細かくイメージされるのが特色です。
Ⅶ. 結語
「飛青瓷下蕪花入(中)」は、翡翠色の静寂と銅紅の情熱が一点で交差する、四代 諏訪蘇山様 ならではの挑戦作です。蕪形のふくよかな曲線が内に秘めた滋養を語り、散在する紅斑が冬空に瞬く星を思わせます。砧青磁の伝統を礎にしながらも、偶然性を孕む飛青瓷で新たな景色を拓いた本作は、茶席に置かれた瞬間、器と花と光が織り成す物語を静かに立ち上らせ、見る者の心を温かく潤してくれることでしょう。
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