辰砂香炉 藤平伸

幅９cm ×７ｃｍ 　高さ１３ｃｍ

藤平寧様との対談

詩情を宿す小さな塔

藤平伸様の「辰砂香炉」は、詩情豊かなデザインが特徴的な作品です。まるで小さな家や塔のような姿をした香炉は、見る者に親しみや温かみを感じさせます。その絶妙な小ささと手のひらに収まる形状は、思わず触れたくなる魅力を持ち、陶芸の詩人・藤平伸様の感性を存分に感じ取ることができます。

辰砂釉が生む深みと神秘

香炉の表面を彩る辰砂釉は、藤平様独特の技術によって施されています。この釉薬が生み出す緋色は、単なる赤ではなく、奥深い温かみと神秘的な雰囲気を兼ね備えています。光の加減や見る角度によって微妙に異なる表情を見せ、仄かな色の移ろいが香炉全体に不思議なオーラをまとわせています。この豊かな色彩が、作品の独自性を際立たせているのです。

空間を彩る存在感

この香炉は、書斎や玄関といった空間に飾るだけで、周囲の雰囲気を一変させる力を持っています。香を焚かずとも、置かれた瞬間にそこに一種の静けさと温もりをもたらします。壷と同様、香炉もまた花や香を必要としない芸術的な存在感を持っており、観る者の心を静かに揺さぶる力を備えています。

藤平伸様と「遊び心」

藤平伸様の作品には一貫して「遊び心」が感じられます。「辰砂香炉」もその例外ではありません。その造形には、形式にとらわれず自由に形を生み出していく制作スタイルが色濃く反映されています。轆轤を使わず、手捻りやタタラで形作ることで生まれる自然体のフォルムは、香炉という器物を超えた詩的な造形美を見せます。

陶芸家・藤平伸様の背景と功績

1922年、京都の五条坂に生まれた藤平伸様は、製陶業を営む家庭で育ちました。結核で京都高等工芸学校を退学するも、その療養期間に絵画や読書に没頭し、芸術への感性を磨きます。30歳で本格的に陶芸家としての道を歩み始め、日展への出品や京都陶芸家クラブでの活動を通じて、独自の作風を確立しました。彼は中国の明器に影響を受けながらも、日本的な軽妙洒脱さと詩情を作品に込め、「陶の詩人」として高く評価されました。

作品は器だけにとどまらず、動物や人物をテーマにした陶彫にも広がります。その一貫した特徴は、観る者を心地よい驚きで包むユーモアと詩的感性です。「辰砂香炉」もその精神を体現した一品であり、小さいながらも圧倒的な存在感を放っています。

辰砂香炉の技術と美学

辰砂釉の焼成は非常に難しく、窯内の酸化還元の微妙な条件が仕上がりを左右します。この難易度の高い技法を見事に駆使し、深みのある緋色と独特の質感を持つ香炉を完成させました。その色彩と造形美が一体となり、香炉そのものが観る者の心に語りかけるような存在になっています。「辰砂香炉」は、藤平伸様の陶芸の中でも特に詩的で親しみやすい作品です。その小さな家のような形状、辰砂釉の持つ深い緋色、そして置かれるだけで空間に静寂と温もりをもたらす存在感。これらすべてが調和し、この香炉は藤平様の陶芸哲学を象徴する一品となっています。玄関や書斎に飾りたくなるこの香炉は、日常に芸術の息吹を吹き込む力を持つ、唯一無二の作品と言えるでしょう。

藤平伸様 来歴
1944 京都高等工芸学校に入学 病気のため中途退学
1945 藤平陶芸にて作陶
1957 第13回　日展にて特選・北斗賞受賞
1960 イタリア・フィレンツェ国際陶芸展
1963 第6回新日展にて菊花賞受賞 京都府文化功労賞受賞
1968 現代陶芸の新世代展 陶芸の現在－京都から展
1970 現代の陶芸ヨーロッパと日本展
1973 日本陶磁協会賞受賞
1974 中南米巡回展
1976 東独巡回日本陶磁名品展
1978 西ドイツ巡回日本陶磁名品展
1982 アメリカ・カナダ巡回展
1983 現代日本の工芸展
1985 現代日本美術の展望展
1990 京都美術文化大賞受賞
1991 京都市文化功労賞受賞

「本作品は未使用の新作です。現在、藤平伸記念館で保管されています。ご購入の際はご子息である藤平寧様が真作の証明として共箱を制作いたします」