赤不二山ぐい呑 柳下季器
赤不二山ぐい呑 柳下季器
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幅7.2cm 高さ5.6cm
柳下季器(やなした ひでき)様による《赤不二山ぐい呑》は、江戸初期の巨匠・本阿弥光悦が遺した国宝「不二山」への深い敬意を出発点に、現代という時代と真正面から向き合いながら生み出された、再解釈としてのぐい呑です。光悦の「不二山」は、その造形と釉景によって、日本陶芸の歴史において孤高の存在とされています。柳下様は、その精神性を汲みながらも、「赤」と「黒」というふたつの強い色をぶつけ合うことで、現代に生きる私たちに新たな問いと美を投げかけてきます。
赤と黒の断絶が生む、造形の緊張感
このぐい呑の最大の特徴は、赤と黒が明確に二分される大胆な色彩設計にあります。ただのツートーンではありません。黒は沈黙の象徴としての“夜”や“地”を、赤は情熱や命の鼓動を象徴し、まるで対極的な自然の力が器の上で拮抗しているようです。両色の境界線は、グラデーションではなく、むしろ地層の断面のようにくっきりと分かれています。それにより、器の小さな面積の中に、空間的な奥行きと精神的な緊張が生まれています。この境界に立つことで、使い手はまるで山と空、火と闇、生と死の狭間に立つような不思議な感覚に包まれます。
「赤」の持つ生命の記憶
この器における「赤」は、単なる色彩の選択ではなく、命を感じさせる“呼吸する赤”です。わずかに揺らぎを含んだ赤は、溶岩のように熱を宿し、また、古代の朱土や赤楽のように、大地と火を経た記憶の色でもあります。この赤が、器の上部を覆うように存在していることにより、まるで逆さ富士のような構成が生まれ、赤富士とも呼びうる独自の風景を形づくっています。富士山が霊峰として日本人の心に在り続けるように、この器の赤もまた、深層に働きかける強さを持っています。
封じ込められた焼成の記憶
柳下様は、焼成という「炎との対話」によって器を生み出します。本作においても、赤と黒の境界に現れる細かな揺らぎや、釉薬のわずかな変化は、意図と偶然が交錯した焼成の記憶そのものです。とくに黒の部分には、ややざらりとした質感と微細な貫入が見られ、これが赤の艶やかさと対照的な触感・視覚をもたらしています。これにより器全体にリズムが生まれ、手に取るたび、そして光の角度が変わるたびに異なる表情を見せてくれます。
小さき器に宿る風景と精神性
ぐい呑という極めて小さな器でありながら、《赤不二山ぐい呑》はその中に壮大な風景と精神の広がりを内包しています。掌にすっぽりと収まるその形は、手捏ねによる自然な揺らぎと均衡を保っており、有機的であたたかみのある佇まいを見せています。この「手の中の山」は、単なる飲用器としてだけでなく、静かに語りかけてくる存在でもあります。酒を注ぎ、器を傾け、飲み干したときに現れる見込みの景色——その瞬間、赤と黒が、内と外、意識と無意識の境界を越えて溶け合うような感覚が訪れます。
余白と沈黙の中にある、語られざる美
このぐい呑において、「語られぬもの」が最大の魅力を生み出しています。たとえば、赤と黒の間にあるわずかな“無地の帯”や、色の境界がにじむ箇所において、視覚的な余白が沈黙のように器を包み込みます。それは俵屋宗達の金地に舞う風、光琳の余白に宿る静寂、水墨画における「描かれざるもの」の余情と同じく、日本美術の本質に通じる「余白の力」です。
時を味わう酒器として
《赤不二山ぐい呑》は、酒を飲むという行為を、ただの嗜好からひとつの時間体験へと変える器です。酒が注がれるたび、赤が熱を帯び、黒が深みを増す——そんな変化を楽しみながら、器とともに時間を味わう。そうした感覚は、まさに茶の湯の一碗にも通じる、一期一会の美意識そのものといえるでしょう。柳下季器様が手がける《赤不二山ぐい呑》は、赤と黒というふたつの色の対話によって、「在る」と「在らぬ」のあわいを静かに語る、小さくも深遠なる芸術品です。見るほどに、使うほどに、手のひらの中に自らの風景が浮かび上がってくる——それは使い手とともに生きる器であり、時間と感性を育む器なのです。
柳下 季器(Hideki Yanashita) プロフィール
陶芸家 1967 –
東京都生まれ。現在は三重県伊賀市を拠点に活動。桃山時代のやきものに魅了され、陶芸の道へ進む。信楽での修行を経て三重県・伊賀に自ら穴窯を築窯し、「神田窯」を開窯。杉本貞光氏に薫陶を受け、侘び寂びの世界を独自の視点で深く探求しつつ、楽焼や焼締、井戸、織部など多彩な作品を制作しています。柳下氏の創作において重要なテーマとなるのは、先人の技法や精神を深く学びつつも、現代の素材や独自のアプローチを取り入れることで生まれる新たな極みへの探究です。その作品は時代に左右されない本質的な美を問いかけ、観る者をより深い芸術の世界へと誘います。
活動拠点
三重県・伊賀
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