陶筥 市野年成
陶筥 市野年成
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「陶筥 市野年成様」
高さ:8.8 cm 幅:8.2 cm
Ⅰ.作品概要――〈直線と曲線〉が響き合う丹波モダニズム
本作は、丹波立杭の次代を担う作家・市野年成様が手掛けた陶筥(とうばこ)でございます。端正な立方体の胴部を艶やかな黒釉が包み、その頂には朱土色の蓋が柔らかな輪郭を描きます。直線が生む静けさと曲線が孕む揺らぎが一器の中で拮抗し、ミニマルでありながら強い存在感を放つ逸品と申せましょう。
Ⅱ.色彩と質感――漆黒釉×朱土蓋のコントラスト
胴部(黒釉)
鉄分を多く含む丹波赤土に、松灰と鉄を調合した黒釉を総掛けし、登り窯で1,280 ℃前後まで還元焚き。炎の揺らぎが褐色の“走り”を随所に残し、単なる黒ではなく深いこげ茶から漆黒へと移ろう陰影を創出しております。
蓋部(朱土無釉)
素地そのものの朱土色を活かしつつ、縁を不定形に面取ることで、溶けた蝋が固まったかのような有機的フォルムを実現。中央に立ち上がる角柱摘みは、胴の直線と呼応するシャープなアクセントです。
Ⅲ.技法解説――精緻な板作りと高温焼成
板作り成形
土板を正確に切り出し、角を落とした“面取り”で歪みを抑えながら接合。箱物ならではの難度高い工程を、年成様はわずかな隙もなく仕上げておられます。
素焼き・釉掛け
800 ℃で素焼き後、胴の内外を黒釉でコーティング。蓋は無釉のまま研ぎ出し、土肌の鉄分を酸化発色させる設計です。
本焼き
登り窯で約30時間、徐々に還元を強めることで黒釉の艶を引き出しつつ、蓋の朱土を鮮やかに固定。接合部の収縮差を見越した温度調整が要諦でございます。
Ⅳ.意匠の背景――「筥(はこ)」に込める守護と収蔵
古来より筥は、香・薬・経巻など大切なものを守り収める器として位置付けられてまいりました。四方を閉じる立方体は“結界”を象徴し、内に秘めた内容物を清浄に保つと同時に、外界の穢れを遮断する呪術的意味合いも担っております。年成様はこの伝統意匠を踏まえつつ、黒と朱という陰陽の対比で現代的な造形へ昇華されました。
Ⅴ.用途と愉しみ――自由度の高いコンテナブル・アート
茶席での喰籠(じきろう):干菓子を盛れば、朱蓋が菓子の彩りを際立たせます。
香筥(こうばこ):香木や練香を収め、蓋を開ける度に移ろう香気をお楽しみいただけます。
小物入れ・ジュエリーボックス:直線的な内部空間は整頓しやすく、漆黒釉が金銀の装身具を引き立てます。
花器:蓋を外し剣山を据えれば、小さな草花が黒釉の鏡面に映り込み、凛とした一景を演出。
コレクション価値――〈使える立体〉としての稀少性
立方体の完全平行を保ちながら、釉厚による収縮差を制御した箱物作品は制作難度が高く、流通量は極めて限られます。加えて黒釉と朱土の二重奏は、年成様独自のサインとも言える意匠。本作は作家初期の代表的“キューブ筥”として、将来の作歴を辿るうえで重要な基準作となり得ます。
「陶筥 市野年成様」は、丹波土の深みと幾何学的造形が織り成す〈静謐なるコンテナブル・アート〉です。何を収めるか、どこに据えるか――使い手の感性で物語が無限に広がります。どうぞお手元に迎え、黒と朱のコントラストが生む陰翳、そして経年で増す風合いを、日々の暮らしの中でゆっくりとご堪能くださいませ。
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