藁白釉茶盌　西端正

幅 : 14.4cm  　奥行14.6cm     高さ :10.8cm

藁白釉茶盌（わらじろゆうちゃわん）　西端正様作
――雪をまとった赤土が奏でる有機的リズム

雪紋のように浮かぶ藁白釉の景色

　本作を覆う藁白釉は、まるで降り積もった雪がところどころ融け、下層の大地をのぞかせる瞬間を封じ込めたかのようです。藁灰由来の柔らかな白は、素地の赤褐色を部分的に透かし、樹皮の隙間から差す冬陽のような温かみを帯びた陰影を描いています。白と褐のコントラストは単調さを避けつつ、静謐と野趣という相反する印象を巧みに両立させ、見る者の心に深い余韻を残します。

丸みを帯びた器形と星状の口縁

　胴は丸みを基調としながら、一か所を指で内に押し込む「くぼみ」を設け、星形に近い輪郭を形成しています。このわずかな変形が、静かな球体にリズムを与え、掌に包んだ際の安定感を高めています。また、口縁に現れる小さな波打ちは口当たりを柔らかくし、視覚的にも雪崩れ落ちた雪壁の稜線を思わせる優美な動きを添えています。

丹波土がもたらす深い呼吸

　素地には鉄分を豊富に含む丹波産の粗目土を使用しており、釉の薄い部分から赤土が透けることで、藁白釉の静かな白に温かな呼吸を吹き込みます。土粒子のざらつきが釉層の下でほのかに浮かぶため、滑らかな白釉の中にも自然素材ならではの生命感を感じ取ることができます。

茶盌としての機能美

　見込みはゆったりと丸く、やや深めに取られているため、茶筅の動きを妨げることなく薄茶・濃茶のいずれにも対応します。肉厚の胴が熱をゆるやかに伝え、手に持った際の温度を穏やかに保つため、冬場の茶席でも快適に使用できます。高台は低く控えめながらしっかりと削り出され、卓上での安定感を確保しました。

白と褐の対比が引き出す抹茶の緑

　藁白釉の柔らかな白は、抹茶の鮮やかな緑を一層際立たせます。濃茶を点てると暗褐色の液面に白い釉肌が静かに映り込み、薄茶では緑と白が織りなす淡い彩りが器内で揺らぎます。茶の湯の時間を通じて、雪の上に芽吹く若草を思わせる詩的な景色をお楽しみいただけるでしょう。

伝統と革新を繋ぐ造形

　丹波焼の長い歴史に根差しながらも、西端正様は大胆なくぼみや流麗な口縁で従来にない造形美を追求されています。藁白釉という古典的素材を用いながら、赤土との対比をこれほど鮮明に打ち出した作例は希少であり、伝統と革新の接点を示す意欲作と言えます。

時間が育む景色

　釉層に潜む細かな貫入は、使用を重ねるほどに茶の色をほんのりと含み、雪面に淡く夕映えが差すかのような温かい景色へと変化していきます。貫入に沿って生まれる自然な色変わりは、持ち主の歳月とともに器が成長する証しでもあり、まさに「用の美」を体現する喜びを味わえます。

　雪解けの大地と春を待つ息吹を同時に映し出す藁白釉茶盌です。掌に収め、茶を点て、時間とともに育つ景色をぜひ長くご愛蔵ください。白と褐の調和が紡ぐ静かな物語が、茶席のひとときをより深く豊かなものへと導いてくれることでしょう。

西端正　略歴

昭和二十三年 二月二十四日生
昭和四十四年 作陶を始める
昭和五十一年 兵庫県展奨励賞
昭和六十一年 日本伝統工芸展初入選
昭和六十三年 日本伝統工芸展入選 日本伝統工芸展日本工芸会総裁賞
平成元年 日本陶芸展入選半どんの会 乃川記念賞
平成三年 日本伝統工芸展入選 日本陶芸展入選 茶の湯の造形展大賞
平成四年 日本伝統工芸展入選 茶の湯の造形展優秀賞 兵庫県新進芸術家奨励賞 NHK主催 パリ―日本の陶芸 「今」一〇〇選招待出品 茶の湯の造形展優秀賞
平成五年 日本伝統工芸展入選 個展 そごう広島店 京都シュマン
平成六年 日本伝統工芸展入選 個展 日本橋三越本店
平成七年 日本伝統工芸展入選 個展 そごう広島店
平成八年 日本伝統工芸展入選 茶の湯の造形展優秀賞 個展 日本橋三越本店 
平成九年 茶の湯の造形展奨励賞
平成十年 日本伝統工芸展入選 個展 日本橋三越本店 日本伝統工芸展入選
平成十二年 個展 日本橋三越本店 個展 福岡三越
平成十三年 ギャラリー堂島 日本伝統工芸展入選
平成十四年 個展 日本橋三越本店 個展 ギャラリー堂島
平成十五年 個展 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン
平成十六年 父子展 そごう広島店 茶の湯の造形展大賞
平成十七年 明石市立文化博物館・兵庫のやきもの展出品 赤土部臺買上 兵庫陶芸美術館 個展 ギャラリー堂島 日本橋三越本店
平成十八年 茶の湯の造形展大賞　日本伝統工芸展入選 ボストン美術館及び ニューヨークジャパンソサエティギャラリー 個展 横浜高島屋 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン 父子展 松山高島屋
平成十九年 陶俊会展 そごう横浜店 茶の湯の造形展奨励賞 日本伝統工芸展入選
平成二十年 日本伝統工芸展入選 個展 横浜高島屋 日本橋三越本店 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン 陶俊会展 船橋 西武 そごう広島店 日本陶芸展招待出品
平成二十一年 個展 ギャラリー堂島 仙台三越
平成二十二年 そごう神戸店 智美術館大賞展現代の茶 出品 個展 横浜高島屋 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン
平成二十三年 日本陶芸展招待出品 個展 アメリカ・ニューヨーク・ジョーンBマービス 日本陶芸展招待出品
平成二十五年 菊池寛実記念智美術館『現代の名碗”出品 個展 日本橋三越本店 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン ギャラリーミヤザキ そごう神戸店 千葉そごう
平成二十六年 個展 個展 日本橋三越本店
平成二十七年 兵庫県文化賞受賞
平成二十八年 東広島市立美術館 生活を彩る陶―食の器 出品 アメリカ・ニューヨーク・ジョーンBマービス
平成二十九年 四十周年記念展出品 
平成三十年 個展 日本橋三越本店

西端正様との対談