松川和弘様との対談

【松川】→ 松川和弘(まつかわ かずひろ)様
【西村】→ 西村一昧(にしむら いちまい)甘木道 店主

【西村】松川様が「土作り」を大切にされている点は、農業だけでなく作陶にも通じると感じております。田畑の土と、陶の土(粘土)は別物でありながら、松川様の中ではどこで繋がっていますでしょうか。

【松川】私にとって田畑の土と陶の土(磁土)は性質も用途も異なりますが、「命を育む土」という点で繋がっています。

農業では、微生物や有機物の循環を整え、時間をかけて土壌を育てることで作物が育ちます。人が主役というより、自然の働きを信じて整え、待つ姿勢が大切です。

陶芸でも、粘土の粒子や水分、空気の状態を感じ取りながら向き合い、土の個性を生かして形をつくっていきます。

私の中では、「土は支配するものではなく、対話するもの」という感覚で繋がっています。

農の土は命を育て、陶の土は暮らしを支える作品になる。どちらも基礎となる土作りがすべての出発点だと感じています。

【西村】半農半陶として四季のリズムの中で暮らすことが、制作の判断(制作時期、窯のタイミング、心身の状態)にどのような影響を与えていますか。

【松川】半農半陶という暮らしは、私にとって制作環境そのものです。四季のリズムは、背景ではなく、制作の判断基準になっています。

まず制作時期についてですが、農作業にはどうしても集中すべき季節があります。田植えや稲刈り、収穫の時期は身体を農に預けます。その間、無理に制作を進めることはしません。農で感じた自然の気配や身体感覚が、落ち着いた時期の制作に自然と反映されます。

窯のタイミングも季節と関係はありますが、湿度や気温の影響を受けやすい乾燥とは異なります。私の窯は電気窯のため、登り窯ほど季節や天候に左右されることはありません。

そのため、農作業が一段落した時期や、自分の中で「焚きたい」と感じたタイミングで窯を焚けるのが、電気窯の特徴だと感じています。

心身は四季とともに変化するため、無理に一定に保たず季節に委ねることで判断に迷いが少なくなります。半農半陶の暮らしは効率的ではありませんが、自然の時間の中に身を置くことで、「今つくるべきもの」が自然と見えてくると感じています。

【西村】円の端正さを基盤にしながら、口を四角・三角にカットして緊張を入れ、同時に縁を抑えて柔らかさを残す造形が印象的です。境界線の見極め方を伺えますでしょうか。

【松川】私の中では、境界は「線」ではなく「幅」です。明確に分断するのではなく、緊張と柔らかさがゆるやかに行き交う領域。その幅をどこに置くかが、毎回の判断になります。

最終的には、理論よりも身体の感覚です。少し離れて眺めたとき、形が静かに呼吸しているかどうか。

円は私にとって最も自然で安定した形で、まず轆轤で円を整え、器として自立させます。そこから口を四角や三角にカットして緊張を加えますが、大切なのは芯に円の気配が残っていることです。

見極めは理屈ではなく、感覚で判断し、削りすぎず装飾にもならない一歩手前で止めます。縁をわずかに抑えることで、強さの中にやわらかさを残します。

最終的には、静けさと緊張が共に感じられるところで手を止めています。


【西村】青白釉は、釉の厚みのわずかな差で表情が大きく変わるように感じます。釉掛けの際、松川様はどんな指標で「いまの厚み」を決め、どんな透明感を設計されていますか。

【松川】青白磁は、厚み一つで大きく変わる釉薬だと感じています。だからこそ、どれくらい掛けるか。私の場合、掛けるのではなく塗る方が正しいですがいくつかの感覚の重なりで判断しています。

まず指標にしているのは、素地の吸い込み方です。塗った瞬間の水の引き具合、表面に残る艶の質、乾くまでの時間。その反応で、いま土がどれだけ吸い込んでいるかを見ます。

薄ければ透明感は出ますが、冷たく軽くなる。厚みを持たせれば、青みが深まるが、厚すぎると割れや垂れになる。

私が設計している透明感は、完全な透明ではありません。釉の表面に小さな粒があり、光にあたるとキラキラし色んな表情を見せてくれる状態です。覗き込むと深さがあり、離れると静けさがある。そんな層を目指しています。

最終的には、焼成後の変化まで想像します。炎の中で釉がどのように動き、溜まり、縮むか。それを思い描きながら「いまの厚み」を決めています。


【西村】近年は四季をイメージした作品や自然現象を具体化した表現、青白磁以外の技法にも挑戦されていると伺います。次の展開に向けて、いま松川様がいちばん賭けている問いがあれば、差し支えない範囲で教えてください。

【松川】四季を主題にしたり、自然現象を具体化したりすることは、一つの入口だと思っています。

たとえば、同じ釉でも光の当たり方で季節が変わるように見える器。

銀彩のように、使うほどに深みが増し、暮らしとともに変化していく在り方にも関心があります。

青白磁以外の技法に挑戦しているのも、その問いの延長です。

青白磁の色の変化や、装飾の有無、表面の模様といった要素も含めて、自然の多層性をどう造形に落とし込めるかを試しています。

もう一つは、「半農半陶」という自分の暮らしを、より率直に作品に滲ませることです。土に触れ、季節の循環の中で身体を使う生活。

完成形を目指すというより、問いを深め続けること自体が、いまの制作の中心にあります。

松川和弘 – 高級陶器の専門店【甘木道】