藁白釉茶盌　西端正

幅 : 14.8cm  　奥行15.8cm     高さ :10.2cm

藁白釉茶盌（わらじろゆうちゃわん）　西端正様作
――雪野にそびえる六稜の小峯

六つの稜線が描く建築的フォルム

　本作は、正方形を基調としながらも、外壁に六つの縦稜を設けた立体的な造形が大きな特徴です。稜線は鋭さを抑え、緩やかな曲面でつながっているため、視覚的な端正さと手取りの柔らかさが両立しています。器を回すごとに光と影が交互に現れ、茶席の静かな照明下では、雪原に立ち並ぶ小峯の連なりを思わせる陰影が浮かび上がります。

真雪を思わせる藁白釉の奥行き

　全面を覆う藁白釉は、降り積もった新雪のような純白の肌合いを湛えています。藁灰に含まれる鉄分が炎の作用で黒く結晶し、白地に墨色の斑点を散らすことで、単色では得難い奥行きとリズムが生まれました。釉層には細かな貫入がほのかに走り、使用を重ねるうちに茶が染み入り、雪面に淡い影が差すような景色が育っていきます。

丹波土が示す野趣と静謐の対比

　素地には鉄分を多く含む丹波産の荒土が用いられ、釉の薄い部分から赤褐色の粒子がのぞくことで、白釉の静けさに温かな呼吸を与えています。底部には軽い釉溜まりが見られ、釉薬と土が高温で融け合う瞬間を凝縮したような豊かな表情を添えています。

茶の湯に寄り添う機能美

　縁はさざ波のようにわずかに波打ち、口当たりを柔らかく整えます。見込みはゆったりとした平面と角部の落ち込みが共存し、茶筅を振る動きを自然にリードします。高台は低く切り込み、卓上での安定感を確保しつつ全体を軽やかに見せる設計です。

伝統と革新の融合

　藁白釉という古典的な素材と、建築的な稜線によるモダンなフォルムが交差する本作は、西端正様が丹波焼の未来像を提示する一碗です。白という最小限の色彩の中で、土と炎が紡ぎ出す多彩な表情を探り当てる姿勢からは、伝統を礎としながらも常に革新を求める作家の精神がうかがえます。

　雪原の静寂と大地の息遣いを同時に映し出す藁白釉茶盌です。掌に包み、四方の稜線を眺めながら茶を点てれば、白と黒、静と動が織りなす無限の物語がひらかれることでしょう。長くご愛蔵いただき、貫入と斑文が育つ過程をお愉しみください。

西端正　略歴

昭和二十三年 二月二十四日生
昭和四十四年 作陶を始める
昭和五十一年 兵庫県展奨励賞
昭和六十一年 日本伝統工芸展初入選
昭和六十三年 日本伝統工芸展入選 日本伝統工芸展日本工芸会総裁賞
平成元年 日本陶芸展入選半どんの会 乃川記念賞
平成三年 日本伝統工芸展入選 日本陶芸展入選 茶の湯の造形展大賞
平成四年 日本伝統工芸展入選 茶の湯の造形展優秀賞 兵庫県新進芸術家奨励賞 NHK主催 パリ―日本の陶芸 「今」一〇〇選招待出品 茶の湯の造形展優秀賞
平成五年 日本伝統工芸展入選 個展 そごう広島店 京都シュマン
平成六年 日本伝統工芸展入選 個展 日本橋三越本店
平成七年 日本伝統工芸展入選 個展 そごう広島店
平成八年 日本伝統工芸展入選 茶の湯の造形展優秀賞 個展 日本橋三越本店 
平成九年 茶の湯の造形展奨励賞
平成十年 日本伝統工芸展入選 個展 日本橋三越本店 日本伝統工芸展入選
平成十二年 個展 日本橋三越本店 個展 福岡三越
平成十三年 ギャラリー堂島 日本伝統工芸展入選
平成十四年 個展 日本橋三越本店 個展 ギャラリー堂島
平成十五年 個展 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン
平成十六年 父子展 そごう広島店 茶の湯の造形展大賞
平成十七年 明石市立文化博物館・兵庫のやきもの展出品 赤土部臺買上 兵庫陶芸美術館 個展 ギャラリー堂島 日本橋三越本店
平成十八年 茶の湯の造形展大賞　日本伝統工芸展入選 ボストン美術館及び ニューヨークジャパンソサエティギャラリー 個展 横浜高島屋 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン 父子展 松山高島屋
平成十九年 陶俊会展 そごう横浜店 茶の湯の造形展奨励賞 日本伝統工芸展入選
平成二十年 日本伝統工芸展入選 個展 横浜高島屋 日本橋三越本店 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン 陶俊会展 船橋 西武 そごう広島店 日本陶芸展招待出品
平成二十一年 個展 ギャラリー堂島 仙台三越
平成二十二年 そごう神戸店 智美術館大賞展現代の茶 出品 個展 横浜高島屋 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン
平成二十三年 日本陶芸展招待出品 個展 アメリカ・ニューヨーク・ジョーンBマービス 日本陶芸展招待出品
平成二十五年 菊池寛実記念智美術館『現代の名碗”出品 個展 日本橋三越本店 アメリカ・サンタフェ・タッチングストン ギャラリーミヤザキ そごう神戸店 千葉そごう
平成二十六年 個展 個展 日本橋三越本店
平成二十七年 兵庫県文化賞受賞
平成二十八年 東広島市立美術館 生活を彩る陶―食の器 出品 アメリカ・ニューヨーク・ジョーンBマービス
平成二十九年 四十周年記念展出品 
平成三十年 個展 日本橋三越本店

西端正様との対談