青瓷花入 多賀井正夫
青瓷花入 多賀井正夫
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幅 : 17cm×17cm 高さ :23.3cm
青瓷花入(せいじ はないれ)多賀井正夫様 作
1.作品概観
本作は、澄み切った空青をたたえる厚釉の下に、縦横の線が碁盤の目のように走る「方格貫入(ほうかくかんにゅう)」が印象的な青瓷花入です。丸みを帯びた胴に対し、頸(くび)から口縁へ向かってふくらみを残した独特のシルエットは、ひょうたん形の愛嬌と梅瓶(めいぴん)の端正さを併せ持ち、茶席はもちろん現代空間にも映える造形美を示しています。
2.造形とフォルム
部位 | 形状の特徴 | 美的・実用的効果 |
---|---|---|
口縁 | 小ぶりでわずかに外反し、鉄分が銀鼠色に発色 | 花留めが効き、淡青の世界を引き締めます。 |
頸部 | 胴からすっと立ち上がり、途中でふくらみをもたせる | 花材を支える重心を高め、軽やかな動きを演出します。 |
胴部 | 卵形に近い張りのあるボリューム | 周囲の光を柔らかく映し込み、空間と一体化します。 |
高台 | 低く抑えた碁笥(ごけ)底 | 安定感を確保しつつ、見た目を軽やかにします。 |
3.釉調と貫入の特徴
鉄粉を調整し、高火度還元で青を引き出した後、終盤に酸化寄りへ切り替える「還元落とし」により赤味を排した純青を獲得しています。
方格貫入:胎土と釉の膨張係数差を大きくとり、冷却時に釉層が面状に割れることで、四角形・多角形が連鎖する独自のパターンを形成。多賀井様は「静と動の共存」を意識し、線幅をそろえ過ぎず、あえてリズムをつけることで動勢を生み出しています。
墨染め処理:焼成後に茶褐色の色水を浸透させ、貫入線に染料を行き渡らせることで、墨画のような陰影を浮かび上がらせています。長年使うことで花水や湿度が加わり、線がさらに深みを帯びていきます。
4.技術的背景
多賀井正夫様は、日本工芸会正会員として青瓷厚釉の研究を重ね、「雨過天青」の透徹した青と貫入景色の制御に卓越されています。本作では、胎土に長石と微量のゼーゲルコーンを配合し、釉よりも膨張率を高く設定。これにより、厚釉でも剥離せず、方格貫入を意図的に発現させる調合を完成させました。また、鏡面仕上げを目的に低温還元で追い焚きし、釉表層を再溶融させることで、高い光沢と映り込みを実現しています。
5.歴史的・文化的文脈
青瓷の貫入を愛でる美意識は、中国・宋代の官窯に端を発し、日本では桃山〜江戸初期に侘びの装飾として独自の発展を遂げました。特に規則的な方格貫入は、宋官窯の「魚子紋」や「方勝紋」に連なる景色として知られ、静謐な青の中に人為と自然が交錯する象徴とされています。多賀井様はこの古典意匠を踏まえつつ、現代の素材科学と焼成制御で再構築し、モダンなフォルムへ昇華させました。
6.花材との取り合わせ
季節 | 推奨花材 | 見立てのポイント |
---|---|---|
春 | 山吹、雪柳 | 縦横に走る貫入が枝線と呼応し、清新な春風を演出します。 |
夏 | 藤袴、半夏生 | 涼感ある青が白花や薄紫を引き立て、床の間に涼を招きます。 |
秋 | 野紺菊、吾亦紅 | 方格線と花茎の直線が共鳴し、揺らぎを含む秋景を生みます。 |
冬 | 薄紅椿、南天 | 胴の映り込みが赤い実や花弁を鏡のように映し込み、静と華が交差します。 |
7.鑑賞・使用のポイント
映り込みの景
曲面が周囲の掛物や行灯の灯りを柔らかく映し出し、器自体が「景色を孕む鏡」となります。
方格貫入の陰影
強い斜光を当てると、線と面のコントラストが際立ち、抽象絵画的な奥行きを楽しめます。
鉄縁の経年美
口縁の銀鼠が花水や手触りで黒艶を帯び、青と墨線をいっそう引き締めます。
8.結び
本作「青瓷花入」は、透徹した空青と方格貫入の緊張感、そして柔和なひょうたん形の量感が見事に調和した逸品です。四季折々の花を一輪挿すだけで、静と動、侘と華のコントラストが空間に現れ、見る者の心を穏やかに揺り動かします。年月を経るほど貫入線に深みが増し、青がわずかに落ち着きを帯びる過程こそ、器と共に育む物語。ぜひ長い歳月をかけて、花と対話を重ね、ご自身だけの景色をこの青瓷に刻み込んでいただければ幸いです。
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