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白黒銀彩陶筥 松川和弘

白黒銀彩陶筥 松川和弘

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白黒銀彩陶筥 松川和弘作 (W5.2×D5.2×H5.2cm)
――「黒は沈黙、白は余白。銀はその境界に、月明かりのような気配を置く」


Ⅰ 陶筥という“しまう美”――蓋を閉じた瞬間に完成する器

陶筥(とうばこ)は、単に小物を収めるための容器ではありません。蓋を開ければ「中身を迎える器」、閉じれば「沈黙を保つ造形」として、一つの作品が二つの相を持ちます。茶の湯においては、香合や小さな棗(なつめ)に通じる“掌中の宇宙”として、道具の格を静かに支える存在です。

本作は正方形の端正な量塊を基本にしながら、蓋の継ぎ目のラインがきわめて精密に整えられており、閉じた姿に「箱であることの緊張」が宿っています。小さな平面の中に、面の角度・稜線の立ち上がり・釉の溜まりの抑制が凝縮され、視線が自然と“面と面の関係”へ誘導される構成です。


Ⅱ 白・黒・銀の三層――コントラストではなく「温度差」で魅せる

タイトルにある「白黒」は、単なる色の対比に留まりません。写真から受ける印象は、白が「明るさ」ではなく静かな反射の場として置かれ、黒が重さではなく深度のある沈みとして働いている点にあります。ここに銀彩が介在することで、白と黒の境界は硬く断ち切られず、むしろ淡い月光のように“滲む境界”として成立しています。

銀彩は、時間とともに表情を変えます。初期の澄んだ輝きから、やがて落ち着いた古色へ移ろうことで、作品が生活や茶席の時間と呼応していくのです。松川和弘氏の銀彩は、派手さで前に出るのではなく、面の陰影や輪郭を「一段だけ上品に持ち上げる」役割を担っており、白と黒の静かな緊張関係に、呼吸のような柔らかさを与えています。


Ⅲ 造形の核:立方体の“わずかな崩し”が生む、手の感覚

本作の魅力は、幾何学の端正さと、手で作る陶のわずかな“揺れ”が共存していることです。完全な工業製品の立方体ではなく、角にわずかな丸みがあり、面に微細な起伏が残ることで、視覚だけでなく触覚が想像されます。掌に収めたとき、硬質な直線の緊張のなかに、土が焼き締まった温度が確かに伝わる――その「触れて完成する感覚」が、陶筥という器種の美点です。

また、蓋と身の合わせは“隙の美”を含みます。過剰に密閉して音を立てるのではなく、静かに収まり、静かに離れる。その所作の中に、道具としての品格が生まれます。茶の湯における蓋物は、開閉の音・速度・呼吸までが景色になるため、こうした精度はそのまま“所作の美しさ”へ接続します。


Ⅳ 何を収めるか――香、金平糖、印、あるいは“言葉にならないもの”

サイズ感からすると、香木・練香・香片のような香道具、あるいは金平糖・小さな干菓子、薬味や塩の器としても魅力的です。ですが、陶筥が本当に似合うのは、用途が確定しきらない“個人的な小さな大切さ”かもしれません。印章、指輪、旅先の小石、短い手紙。そうしたものを収めたとき、白黒銀彩の静けさが、持ち主の時間をそっと守ってくれます。

茶席で用いるなら、香合として見立てるのが最も自然です。香合は「香そのもの」と同時に「季節の気配」を収める器でもあります。白と黒の境界に置かれた銀の光は、春の残雪、夜の月、あるいは冬の凛とした空気――そのどれにも寄り添い、季節の解釈を固定しません。解釈を押しつけないからこそ、亭主の意図や客の感受性が生きるのです。


Ⅴ 白黒銀彩が示すもの――対立ではなく、共存の作法

白と黒は、しばしば対立概念として語られます。しかし本作は、対立を強調するのではなく、両者を同じ器の中で同居させ、銀彩でその境界をやわらげています。これは、強い主張ではなく、成熟した感覚の表現です。華美を拒み、沈黙を愛しながら、それでも一点の光(銀)を手放さない。松川和弘氏が青白磁で培ってこられた“澄み”の感覚が、白黒の世界に移ってもなお、作品の芯として残っています。


Ⅵ 取り扱いの小さな注意(美しさを育てるために)

銀彩は経年で落ち着いた色味へ変化しますが、それこそが魅力でもあります。ご使用後は乾いた柔らかい布で軽く拭き、湿気の強い環境での長期密閉は避けていただくと、表情が安定しやすいです。変化を「劣化」ではなく「育つ景色」として受け止められる方に、本作はとても深く寄り添います。

略歴

1977 大阪府河内長野市生まれ
1998 奈良芸術短期大学陶芸コース卒業
2000 奈良芸術短期大学専攻科修了
2001 京都府立陶工高等技術専門校修了
   近藤高弘氏に師事
2006 独立・河内長野市にて開窯

主な個展・展覧会

2007 京都府美術工芸新鋭選抜展(京都文化博物館)
   二人展(松坂屋名古屋店美術画廊/名古屋)
   個展(京都高島屋美術工芸サロン/京都)
2008 個展(カンパニュール/千葉)
   個展(パラミタミュージアム小ギャラリー/三重)
2009 個展(ギャラリーエスパス/名古屋)
2010 個展(札幌三越美術ギャラリー/北海道)
   個展(松坂屋名古屋店美術画廊/名古屋)
   個展(アルパーク天満屋美術画廊/広島)
2011 個展(陶器ギャラリー風露/大阪)(’07)
2012 個展(ギャラリーおくむら/東京)(’07 ’09)
2013 個展(ラブリーホール開館20周年記念事業/大阪)
2014 個展(天満屋広島八丁堀店アートギャラリー/広島)(’11)
2016 個展(天満屋福山店アートギャラリー/広島)(’08 ’12)
   三人展(博多阪急ミューズ/福岡)
2017 個展(ピナコテーカ/東京)(’14 ’15)
   個展(天満屋岡山店美術ギャラリー/岡山)(’08)
   個展(アトリエヒロ/大阪)
2018 個展(日本橋三越本店美術ギャラリー/東京)
   個展(髙島屋大阪店ギャラリーNEXT/大阪)(’08 ’11 ’15)
2020 個展(花あさぎ/東京)
2021 個展(ギャラリーたちばな/奈良)(’15 ’17 ’19)
2022 二人展(花あさぎ/東京)
2023 二人展(アトリエヒロ/大阪)
2025 二人展(花あさぎ/東京)
   個展(緑ヶ丘美術館/奈良)

受賞歴

第36回日本伝統工芸近畿展(大阪府教育委員会賞)
第55回日本伝統工芸展(日本工芸会総裁賞)

パブリックコレクション

緑ヶ丘美術館

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