青白磁銀彩振出し 松川和弘
青白磁銀彩振出し 松川和弘
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青白磁銀彩振出し 松川和弘作(径:6.4cm 高さ:9.1cm)
――「淡い水色の静けさに、銀の景色がふっと立ち上がる。小さな所作が、茶席の気配を整える器」
本作は、松川和弘氏による「青白磁銀彩振出し」です。径6.4cm・高さ9.1cmという取り回しのよい寸法に、青白磁の澄明な釉調と、銀彩のほのかな艶、そして振出しという道具が本来もつ“所作の美”が、端正に凝縮されています。棚に置けば静物として凛と佇み、手に取れば、軽やかな緊張感とともに自然に背筋が伸びる――そんな作品です。
Ⅰ 振出しという小道具の格――「少量」を美しく扱うために
振出しは、茶の湯の周辺で用いられる小さな容器の一つで、少量のものを清潔に、そして美しく扱うための道具です。内容物は場や流儀、趣向によって異なりえますが、共通するのは「出しすぎない」「乱さない」「手元の所作が美しく見える」という要件です。
本作は、その要件を満たすための形の理性がよく働いています。胴のふくらみは手の収まりを導き、口縁から栓へ至る流れは、視線を自然に上へと導きます。振出しは“脇役”に見えて、実は茶席の呼吸を整える道具ですが、松川氏の仕事は、その役割を決して誇張せず、むしろ静けさとして強めています。
Ⅱ 青白磁の釉調――「白」と「青」のあいだの透明感
青白磁は、白磁の清潔感に、青磁の含みをひとさじ加えたような領域にあります。真っ白ではなく、しかし青々ともしていない。光を受けると、釉の層がわずかに透け、水の底を覗くような静かな奥行きが立ち上がります。
本作の青白磁は、写真からも分かるように、面の陰影が柔らかく回り込み、輪郭を尖らせずに保っています。これは、器の“端正さ”を生むだけでなく、茶席の光(障子越しの光や、夜の柔らかな灯り)に馴染むための資質でもあります。道具としての品位が、釉の静けさそのものから滲んでいます。
Ⅲ 銀彩の「景色」――金属の華やかさではなく、余韻としての光
胴上部に施された銀彩は、単なる装飾ではなく、器の気配を切り替える界として働いています。青白磁の静かな面に対し、銀彩の部分は微細な揺らぎをもち、光の当たり方で明度がわずかに変わります。
ここで重要なのは、銀彩が“派手”に見せるためではなく、むしろ落ち着いた余韻の光として扱われている点です。銀彩は経年で表情が変化しやすい技法でもあり、使い方・環境によって、艶が深まったり、少し渋みを帯びたりします。その変化もまた、茶の湯が好む「時間の景色」として受け止められるでしょう。新品の輝きだけで完結しない、育っていく美しさが宿っています。
Ⅳ 造形の要点――胴の張り、肩の締まり、そして“栓”の存在感
この振出しの魅力は、シルエットが非常に明快であることです。胴の張り:手のひらの中で安定し、扱う動作を滑らかにします。肩の締まり:視覚的に重心が上がり、器全体が間延びしません。栓(木栓)の佇まい:陶の静けさに、木の温度が一点入ることで、道具としての現実味が増します。金属でも陶でもない“木”があることで、手元の所作がより人間的になるのです。
また、口元の造りが端正で、境界線(蓋合わせのライン)がきれいに出ているため、閉じた姿も美しく成立しています。使う以前に、閉じた状態がすでに完成した景色であること――これは小品において決定的な美点です。
Ⅴ 取り合わせの発想――静けさを基調に、季節の一線を入れる
青白磁×銀彩は、取り合わせの幅が広い一方で、主張が強すぎないため、他の道具の格を邪魔しません。
たとえば、青白磁の涼やかさは春・夏に映えますし、銀彩の落ち着きは秋冬の光にも馴染みます。季節の中で「涼」を演出したい時には青白磁の面を、逆に「冴え」を引き締めたい時には銀彩の面を意識して置く――そんな具合に、置き方ひとつで表情が変わるのも本作の魅力です。
まとめ
松川和弘氏の「青白磁銀彩振出し」は、青白磁の澄んだ釉調に、銀彩の景色を重ねることで、静けさの中にわずかな華やぎを宿した小品です。振出しという道具が本来持つ“少量を美しく扱う”機能に、造形の理性と素材の余韻が加わり、使っても、置いても、空間の呼吸を整える器となっています。
小さな器ほど、誤魔化しが利きません。本作はその厳しさに正面から応え、寸法以上の密度を備えた一点です。
略歴
1977 大阪府河内長野市生まれ
1998 奈良芸術短期大学陶芸コース卒業
2000 奈良芸術短期大学専攻科修了
2001 京都府立陶工高等技術専門校修了
近藤高弘氏に師事
2006 独立・河内長野市にて開窯
主な個展・展覧会
2007 京都府美術工芸新鋭選抜展(京都文化博物館)
二人展(松坂屋名古屋店美術画廊/名古屋)
個展(京都高島屋美術工芸サロン/京都)
2008 個展(カンパニュール/千葉)
個展(パラミタミュージアム小ギャラリー/三重)
2009 個展(ギャラリーエスパス/名古屋)
2010 個展(札幌三越美術ギャラリー/北海道)
個展(松坂屋名古屋店美術画廊/名古屋)
個展(アルパーク天満屋美術画廊/広島)
2011 個展(陶器ギャラリー風露/大阪)(’07)
2012 個展(ギャラリーおくむら/東京)(’07 ’09)
2013 個展(ラブリーホール開館20周年記念事業/大阪)
2014 個展(天満屋広島八丁堀店アートギャラリー/広島)(’11)
2016 個展(天満屋福山店アートギャラリー/広島)(’08 ’12)
三人展(博多阪急ミューズ/福岡)
2017 個展(ピナコテーカ/東京)(’14 ’15)
個展(天満屋岡山店美術ギャラリー/岡山)(’08)
個展(アトリエヒロ/大阪)
2018 個展(日本橋三越本店美術ギャラリー/東京)
個展(髙島屋大阪店ギャラリーNEXT/大阪)(’08 ’11 ’15)
2020 個展(花あさぎ/東京)
2021 個展(ギャラリーたちばな/奈良)(’15 ’17 ’19)
2022 二人展(花あさぎ/東京)
2023 二人展(アトリエヒロ/大阪)
2025 二人展(花あさぎ/東京)
個展(緑ヶ丘美術館/奈良)
受賞歴
第36回日本伝統工芸近畿展(大阪府教育委員会賞)
第55回日本伝統工芸展(日本工芸会総裁賞)
パブリックコレクション
緑ヶ丘美術館
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