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青白磁緋流丸合子 松川和弘

青白磁緋流丸合子 松川和弘

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青白磁緋流丸合子 松川和弘作(径:7.8cm  高さ7.0cm)
――「淡青の静けさに、緋の一閃。球体の内に“景色”を封じる器」

本作「青白磁緋流丸合子」は、球体という最も純粋なかたちを基調に、青白磁の澄んだ釉調と、緋流(ひながし)のあたたかな痕跡とを一つに結んだ、松川和弘氏ならではの“静と動”の合子です。直径7.8cm、高さ7.0cmという掌中に収まるサイズ感は、道具としての扱いやすさと、鑑賞物としての密度の高さを同時に成立させています。合子は「蓋をする」ことで香や小さな菓子、あるいは大切なものを“守る”器でもありますが、本作はその意味がいっそう深く、まるで景色そのものを封じ込め、必要なときにだけ静かに開示するような気配を宿しています。

Ⅰ “丸合子”という造形――球体がもたらす、無言の完成度

球体は、どの方向から見ても破綻がなく、視線を受け止める面が常に柔らかく回り込むため、器でありながら彫刻のような存在感を持ちます。しかも合子としては、身と蓋の境が一周の線となって現れます。この“境界線”は、ただの合わせ目ではなく、外界と内界、見えるものと見えないもの、香り立つ前と後――そうした二つの世界を分ける「結界」のようにも見えてきます。球体の滑らかな面は光を受けて淡く陰影をつくり、どこか月の表面のように静かな量感を漂わせます。過度に主張する装飾ではなく、形そのものの必然性が美として立ち上がる点に、松川和弘氏の造形感覚の確かさが感じられます。

Ⅱ 青白磁の釉調――“白より澄み、青より柔らかい”色の領域

青白磁は、白磁の清潔さと青磁の深みの中間に位置するようでいて、実際には別の次元に属する色味です。白ほど硬質に見えず、青ほど濃密に沈まず、光を含んだ淡い水色が、器の表面に“呼吸”のような余白を生みます。写真からも、面がつるりと均一に整うだけでなく、極めて細かな陰影が溜まり、丸みの中で色が薄く濃く揺れていることが分かります。これは釉の厚み、焼成の温度帯、素地の緻密さが揃って初めて出る表情で、青白磁の魅力が「色」ではなく「光の状態」として立ち現れることを示しています。

Ⅲ 緋流(ひながし)の意味――偶然ではなく火の書としての痕跡

本作の最大の見どころは、青白磁の静寂を横切る緋の流れです。緋流は、釉上(あるいは釉際)に現れる赤み・橙みの痕跡で、焼成の熱と成分の反応が生む“火の筆致”です。ここで重要なのは、緋がただ目立つアクセントとして置かれているのではなく、球体の曲面に沿いながら、流れが「走り」「途切れ」「重なり」をつくっている点です。まるで一筆で描かれた線が、途中で呼吸し、速度を変え、最後にふっと消える――そうした運動感が残っています。
青白磁が「水」「空気」「朝靄」といった冷たく澄んだ要素を想起させるのに対し、緋流は「火」「夕映え」「土の鉄分」といった温度のある要素を連れてきます。つまり本作は、磁器という極めて清澄な素材の上に、炎の記憶を一点だけ、しかし決定的に刻むことで、器の表情を“無限に静かなだけではない”領域へ押し広げています。

Ⅳ 合子としての用――香・菓子・小品を包む、掌の小宇宙

合子は、茶の湯においても日常においても、用途の幅が広い器です。たとえば香合に近い感覚で、香木片や香彩堂の小さな香、練香などを収めれば、蓋を開けた瞬間に“香りの場”が立ち上がります。また、薄茶席の干菓子を少量収める小器として用いると、青白磁の淡い青みが菓子の色を引き立て、緋流がひとさじの華やぎになります。あるいは、旅先で手に入れた小さな石や金平糖、指輪や印章のような私的な小品を入れてもよいでしょう。
球体の合子は、四角い合子よりも内部空間が柔らかく感じられ、蓋を開ける行為がどこか儀式的になります。「しまう」「守る」「開く」という器の動作そのものが、美意識の一部として成立する点が、この作品の魅力です。

Ⅴ “景色”を持つ磁器――静謐の中に、季節が一瞬よぎる

松川和弘氏の青白磁は、単に端正で美しいだけではなく、見る人に「季節の気配」を想起させる力があります。ここに緋流が加わることで、その季節感はさらに具体性を帯びます。たとえば、淡青の面は冬の朝の冷気や、春先の霞を思わせ、緋は夕焼け、あるいは紅葉の名残、火鉢の熾火のようにも見えます。球体は天体を連想させ、緋流はそこを巡る軌道のようにも読めます。
つまりこの合子は、掌の中に小さな宇宙をつくり、青白磁という“静けさの質”の上に、緋という“時間の痕跡”を走らせた作品です。蓋を閉じれば静寂が戻り、開ければ内側の青みがふっと現れる――その反復が、持ち主の時間をゆっくり整えていきます。

Ⅵ 取り扱いの所作――銀彩ではない緋の“繊細さ”を生かすために

本作は緋流の表情が繊細なため、強い摩擦や研磨で無理に艶を出す必要はございません。基本は柔らかな布で乾拭きし、汚れが気になる場合は中性洗剤を薄めて優しく洗い、よく乾燥させるのが安心です。合子は蓋と身の合いが作品の美に直結しますので、開閉の際は片手で無理に捻らず、両手で“水平を保つ”ように扱うと、道具としても美しく長くお使いいただけます。


青白磁緋流丸合子は、華美な意匠で魅せるのではなく、静けさの中に一筋の温度を忍ばせることで、見る人の感覚を深いところから呼び覚ます作品です。松川和弘氏の青白磁が持つ透明な気配に、火の記憶が触れた瞬間――その“わずかなドラマ”を、掌の上で何度でも確かめられる合子と言えます。

略歴

1977 大阪府河内長野市生まれ
1998 奈良芸術短期大学陶芸コース卒業
2000 奈良芸術短期大学専攻科修了
2001 京都府立陶工高等技術専門校修了
   近藤高弘氏に師事
2006 独立・河内長野市にて開窯

主な個展・展覧会

2007 京都府美術工芸新鋭選抜展(京都文化博物館)
   二人展(松坂屋名古屋店美術画廊/名古屋)
   個展(京都高島屋美術工芸サロン/京都)
2008 個展(カンパニュール/千葉)
   個展(パラミタミュージアム小ギャラリー/三重)
2009 個展(ギャラリーエスパス/名古屋)
2010 個展(札幌三越美術ギャラリー/北海道)
   個展(松坂屋名古屋店美術画廊/名古屋)
   個展(アルパーク天満屋美術画廊/広島)
2011 個展(陶器ギャラリー風露/大阪)(’07)
2012 個展(ギャラリーおくむら/東京)(’07 ’09)
2013 個展(ラブリーホール開館20周年記念事業/大阪)
2014 個展(天満屋広島八丁堀店アートギャラリー/広島)(’11)
2016 個展(天満屋福山店アートギャラリー/広島)(’08 ’12)
   三人展(博多阪急ミューズ/福岡)
2017 個展(ピナコテーカ/東京)(’14 ’15)
   個展(天満屋岡山店美術ギャラリー/岡山)(’08)
   個展(アトリエヒロ/大阪)
2018 個展(日本橋三越本店美術ギャラリー/東京)
   個展(髙島屋大阪店ギャラリーNEXT/大阪)(’08 ’11 ’15)
2020 個展(花あさぎ/東京)
2021 個展(ギャラリーたちばな/奈良)(’15 ’17 ’19)
2022 二人展(花あさぎ/東京)
2023 二人展(アトリエヒロ/大阪)
2025 二人展(花あさぎ/東京)
   個展(緑ヶ丘美術館/奈良)

受賞歴

第36回日本伝統工芸近畿展(大阪府教育委員会賞)
第55回日本伝統工芸展(日本工芸会総裁賞)

パブリックコレクション

緑ヶ丘美術館

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