薬師寺東塔基壇土 鉄釉茶碗 尾西楽斎
薬師寺東塔基壇土 鉄釉茶碗 尾西楽斎
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幅 : 11.1cm 高さ : 6.6cm
薬師寺東塔基壇土 鉄釉茶碗 ― 尾西楽斎様
1.胎土──古塔の礎を抱く土味でございます
本作には、奈良・薬師寺東塔の基壇を令和の大修理で解体した際に採取された古土が調合されております。鉄分と珪酸を豊富に含むこの土は千三百年の風化を経て鉱物結晶を宿し、焼成後も石英粒が星屑のようにきらめきます。掌に取りますと、大和の大地と古塔の祈りがそっと伝わってまいります。
2.鉄釉と窯変──苔黒から翡翠へと揺らぐ景色でございます
外面を覆う鉄釉は高火度還元焼成によって、①口縁部にざらつく銀灰結晶 ②胴上部は苔黒~墨黒の重厚な光沢 ③胴下部には深いオリーブ色に流れる釉筋 という三層の色調を生み出しております。自然降灰がガラス化した銀粒が点在し、夜露に濡れる基壇石を思わせる幽玄の表情を見せております。
3.造形──筒茶碗の端正さと量感でございます
口縁をごく僅かに外反りに取り、胴を垂直に近いラインで立ち上げた筒形により、抹茶の泡が均一に立ちやすくなっております。胴に残る柔らかな轆轤目が釉流れを受け止め、景色にリズムを与えています。低めに削り出したリング状高台が重心を落ち着かせ、手取りは軽快でございます。
4.機能美──抹茶を引き立てる実用性でございます
内面にも鉄釉が鏡面状に溶け、抹茶の緑を鮮やかに映えさせます。口縁は薄く研ぎ上げられており、唇当たりが軽やかですので、点前の際に抹茶の切れが良く、香りがふんわりと立ち上ります。胎土の保温性により、冬席でも程よい温度を保ってくれます。
5.薬師寺の歴史──“凍れる音楽”の祈りを映しています
薬師寺は天武天皇の発願(680年頃)に始まり、和銅3年(710)頃には現在の西ノ京へ遷座いたしました。南都七大寺の一つとして隆盛を極めましたが、度重なる戦乱と火災により諸堂を失い、その都度再建を重ねてまいりました。東塔は養老4年(720年)頃に完成したとされ、創建当初の姿を保つ唯一の奈良時代塔として「凍れる音楽」と讃えられております。1998年には世界遺産「古都奈良の文化財」に登録され、令和の大修理(2009〜2022年)を経て甦ったその基壇土が、本作の胎土として新たな命を得ております。
総括
苔黒の鉄釉に銀灰の結晶がきらめき、深いオリーブ色が静かに揺らぐ――尾西楽斎作「薬師寺東塔基壇土 鉄釉茶碗」は、侘びの静寂と千年の祈りを同時に宿す珠玉の一碗でございます。一服の抹茶を点てれば、炎と土と古塔の法音が碗の中から立ち上り、茶席に深い余韻と敬虔な物語をもたらしてくれることでしょう。
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作品ごとに、出来るだけ詳細をご確認いただけるように画像を掲載しておりますが、ご不明な点はお問い合わせください。
作品の色合いなどは、画像を表示する環境により若干異なることがございますが、ご理解の程お願いいたします。
作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。