青瓷香爐 多賀井正夫
青瓷香爐 多賀井正夫
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幅 : 15.7cm×15.7cm 高さ : 11.5cm
青瓷香爐(せいじこうろ)多賀井正夫 作
1.作品概観
本作は、雨上がりの空を思わせる澄んだ青釉をまとい、三段に波打つ肩の意匠が印象的な青瓷香爐です。ふっくらとした胴を持つ瓢形(ひさごがた)を基調としつつ、頸部に設けられた段差がリズミカルな陰影を生み、香煙が立ち上る情景を視覚的にも際立たせます。鏡面のような釉肌の下には細かな氷裂貫入(びかんにゅう)が潜み、光を受けると淡い霞となって器面に奥行きを添えています。口縁には釉を薄く掛け残し、鉄分が銀鼠色(ぎんねずみいろ)に発色しており、淡青の世界を引き締める端正なアクセントとなっています。
2.造形と意匠
部位 | 形状の特徴 | 美的・機能的効果 |
---|---|---|
口縁 | 小ぶりで内反気味の円口。鉄縁が黒味を帯びる | 香蓋(こうぶた)を安定して載せ、器形をきりりと締めます |
頸部〜肩部 | 緩やかな三段の稜線を設けた段付意匠 | 光の反射面が増え、青釉のグラデーションと香煙の揺らぎを豊かに演出します |
胴部 | 洋梨形にふくらむ量感 | 空間のボリュームを受け止め、香爐単体でも十分な存在感 |
底部 | 低い碁笥(ごけ)底で素地を見せる | 炭を安全に置ける断熱性を確保し、侘びの景色を示唆 |
3.釉調と焼成技術
雨過天青の発色
鉄粉を抑え、高温還元で焼成した後、終盤に軽く酸化雰囲気へ切り替える「還元落とし」を採用しています。これにより赤味を排した澄明な青が得られ、内部に乳濁レイヤーが生じることで奥行きある色調となっています。
氷裂貫入の制御
胎土と釉層の膨張係数をほぼ一致させつつ、冷却速度を緩やかに調整して微細な貫入を生成。使用を重ねると香の油分や煤(すす)がわずかに染み込み、雲霞(うんか)のような景色へと育ちます。
鏡面仕上げ
焼成後に低温還元で追い焚きを行い、釉表層を軽く再溶融させることで艶を際立たせ、周囲の光や掛物を柔らかく映し込みます。
4.香爐としての設計意図
香爐は茶の湯だけでなく禅寺の法要や香道の聞香席でも用いられ、「清浄・鎮静」を空間にもたらす道具です。本作では、胴の量感が熱を穏やかに循環させ、香木の薫りを安定して拡散。段付頸部が煙の立ち昇りを視覚化し、香雲(こううん)が揺らぐ様子を強調。鉄縁と素地見せが炭火の熱による温度差を緩和し、割れや歪みを防ぎます。また、瓢形は古来「無病息災・福徳招来」の吉祥意匠とされ、香を焚く場に安寧と瑞気をもたらします。
5.歴史的・文化的背景
青瓷香爐のルーツは中国北宋期の龍泉窯や汝窯に求められ、日本へは鎌倉期の禅僧を介して伝来しました。室町時代には唐物香爐として珍重され、桃山期の茶人たちは貫入や鉄縁を侘びの景としてとらえ、香爐を「景色を育てる器」として愛玩しました。多賀井正夫様は、こうした歴史的背景を踏まえつつ、現代性を備えた軽やかな段付意匠で再解釈し、茶室のみならず現代リビングでも映える造形に昇華されています。
6.鑑賞・使用のポイント
段差に映る光のリング
行灯やスポットライトを当てると、段ごとに光の帯が生まれ、香煙の揺らぎと相まって幻想的なリズムが浮かび上がります。
微貫入の霞景
焦点を近づけると、釉下に雲母片のような裂紋が見え隠れし、使い込むほどに淡い黄味を帯びて表情が深まります。
鉄縁と高台の素地
口縁と底部の黒味が淡青と対比を成し、古典官窯の「鉄口・鉄足」を想起させる渋みを演出します。
7.結び
多賀井正夫様の「青瓷香爐」は、吉祥を宿す瓢意匠と雨過天青の静謐が織り成す“澄心の器”です。香木を一片焚くだけで空間に瑞々しい薫りと安らぎが広がり、氷裂貫入が月日とともに育つことで、器そのものが時を刻むパートナーとなります。どうぞ末永くご愛用いただき、香とともに流れる静かな時間をこの青瓷香爐に託していただければ幸いです。
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作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。