黄灰釉水指 岡田優
黄灰釉水指 岡田優
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幅 : 16.8cm 高さ : 16.3cm
黄灰釉水指(きばいゆう みずさし) 岡田優様作
――刈り取りを終えた稲穂の香りをまとい、淡い夕影を器肌に映す水指です。
Ⅰ 水指とは――茶の湯に潤いをもたらす要(かなめ)の道具
水指(みずさし/水差)は、点前で茶釜へ水を継ぎ足したり、茶碗・茶筅を清めるための水を蓄えておく器です。侘び茶が確立した桃山以降、茶碗や釜と同様に茶席の景色を構成する重要道具となりました。
形状と置き方:円筒形が基本ですが、四方形・鼓形・瓢形などもあります。茶事では、風炉時分には客付けに、炉時分には点前畳中央や棚の中など、季節や点前によって置き場所が変わります。
蓋の種類:焼物と同胎で作られた**共蓋(ともぶた)と、木地に漆を施した塗蓋(ぬりぶた)**があり、本作は同釉仕立ての共蓋です。
皆具(かいぐ):水指・杓立・建水・蓋置を一組にして飾る形式を指し、水指は座の中心的存在として季節感と格調を示します。
Ⅱ 黄灰釉の景色――平安期の灰釉陶器へのオマージュ
黄灰釉は、草木灰を融剤に用いる灰釉の一種で、酸化焼成によって穏やかな黄褐色を呈し、ところどころ藁灰由来の緑青・黒味がにじむのが特色です。
灰釉の系譜:灰釉陶器は平安時代の猿投窯に始まり、全国へ広がりました。当時は「白瓷(しらし)」とも呼ばれ、貴族・寺院へ納める高級品として珍重されましたが、時代が下るにつれ庶民にも普及し、日本陶磁史における“施釉のはじまり”として位置づけられます。
黄瀬戸への連なり:室町末期〜桃山にかけて尾張瀬戸で花開いた黄瀬戸も、根底には灰釉の技術があります。本作のやわらかな鶯茶(うぐいすちゃ)は、黄瀬戸の温かな趣と平安灰釉の素朴さを合わせ持つ色調です。
墨景(ぼくけい)の魅力:胴の縦鎬に沿って垂れる黒味は、薪灰が釉中の鉄分と溶け合い、自然生成されたもの。平安灰釉壺に見られる“降灰の景”を想起させ、器面に深い陰翳を添えます。
Ⅲ 造形と意匠――稲束と竹節を思わせる力強い立ち姿
本作の口造りはわずかに外反しており、蓋をそっと受け止める安定感があります。口径は広過ぎず、柄杓で釜水をすくいやすい寸法に整えられているため、蓋置きを添えずとも杓の扱いが自然と安定し、所作をいっそう滑らかに演出いたします。
胴全周には八面取りの縦鎬(しのぎ)が巡らされ、竹節や稲束を思わせるリズムが生まれています。鎬の谷間に釉薬が溜まることで濃淡の陰影が際立ち、造形美に深みを加えると同時に、手掛かりとして優れるため湯返しの際にも滑りにくいという実用的な利点を備えています。
共蓋は胴と同じ黄灰釉で成形され、一体感のある景色をつくり出します。中央に据えられた控えめな小摘みが素朴なアクセントとなり、席中で蓋を取った際には胴との調和を保ちながら、あたたかな趣が立ち上がります。これにより、見込みから立ち上る湯気と相まって、客前にほのかな親しみと安らぎを届けてくれることでしょう。
Ⅳ 茶席への取り合わせ――実りの季節を映す水指
秋の夜咄(よばなし)
合わせる茶碗:黒楽、瀬戸黒など暗色系
趣向:篝火や燈心を思わせる墨景が、闇の中でほのかに浮かび、収穫祭の余韻を演出します。
立春大吉の初釜
合わせる茶碗:白釉・青磁系や淡緑志野
趣向:冬枯れの大地へ差す陽光を想起させる黄釉が、新年の瑞兆を象徴します。
花季の口切り
合わせる棗:溜塗に桜蒔絵など華やかな意匠
趣向:柔らかな黄に花弁の色が映え、鎬の稜線が若竹の勢いを示唆します。
Ⅴ 岡田優様の制作思想――土地の色を器に映す
京都・清水五条坂に生まれ、宇治・炭山に窯を構える岡田優様は、日々目にする山肌の陰影や田園の色味を器形に読み替えることを信条とされています。本水指では、
黄灰釉で“実り”と“暖かさ”を、
墨景と鎬で“遠山の影”と“秋風のリズム”を、
どっしりとした円筒胴に“豊穣への安心感”を封じ込めました。
茶席に据えれば、客の視線を柔らかく受け止めつつ、自然の時間の流れをそっと呼び込むことでしょう。
古窯灰釉の素朴さと黄瀬戸の洗練を一身にまとい、秋の稲田を思わせる穏やかな黄金を湛えた黄灰釉水指。掌で撫でれば、釉の温もりが伝わり、鎬の陰影が夕陽に揺れる山影を映し出します。茶の湯の「一期一会」に、実りの季節が運ぶ静かな悦びを添える一器として、末長くご愛用くださいませ。
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作品ごとに、出来るだけ詳細をご確認いただけるように画像を掲載しておりますが、ご不明な点はお問い合わせください。
作品の色合いなどは、画像を表示する環境により若干異なることがございますが、ご理解の程お願いいたします。
作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。