阿闍梨餅本舗「満月」の魅力

はじめに――私と阿闍梨餅

甘木道の店主である私が、学生時代からもっとも頻繁に通った和菓子店が「阿闍梨餅本舗 満月」でした。

味の良さや価格の手頃さもさることながら、通っていた大学の最寄りにあったため、昼休みのおやつにふらっと買いに行っていました。

大学の後輩を連れて行くと、「へぇ、こんなところにこんなお店があるんですね」と他人事のように感動してくれました。

阿闍梨餅を一つプレゼントすると「熱々っていいですね」と感動する――そんな光景を何度も見てきました。

ちなみに店名は「阿闍梨餅」ではなく「満月」。ここを訂正すると、たいていの後輩は「それはどっちでもいいですよ」とそっけなく返すのもご愛敬です。


阿闍梨餅とは

阿闍梨餅(あじゃりもち)は、京都・出町柳に本店を構える老舗「京菓子司 満月」を代表する銘菓です。丹波産大納言小豆の粒餡を、餅粉に卵や砂糖、水飴を合わせた生地で包み、鉄板で香ばしく焼き上げています。

食感:薄皮はもちもち、しっとり。

賞味期限:常温で約5日。半生菓子なので生菓子より日持ちし、常温で持ち運びができます。


名称と形の由来

「阿闍梨」とはサンスクリット語に由来し「高徳の僧」を意味します。比叡山の過酷な修行「千日回峰行」を成し遂げた阿闍梨が被る網代笠をモチーフに、生地の中央をふっくらと盛り上げた独特の形が生まれました。包み紙にも網代笠と高僧の姿が描かれ、故事来歴を今に伝えています。


歴史――誕生から約100年

阿闍梨餅が誕生したのは大正11年(1922年)。二代目当主・林光助が考案し、発売当初から「安くておいしい」と評判に。昭和初期に名称が整備された“半生菓子”の先駆けとして、その地位を確立しました。

戦後の混乱期には主力商品を阿闍梨餅など少数に絞り込み、職人の技と品質を守り抜く経営方針を徹底。この選択が、今日まで変わらぬ味を継承する礎となっています。五代続く当主たちは「より良いものを」という信念のもと、配合や製法を少しずつ改良しながらも、創業時の風味を保ち続けています。


半生菓子としての日持ちと楽しみ方

半生菓子は水分量10〜30%ほどの“生と干の中間”にあたる菓子です。阿闍梨餅は保存料を用いない伝統製法のため日持ちは5日程度。購入後はできるだけ早く味わうのがおすすめです。もし硬くなった場合は、軽くトースターで温めると焼きたてのような柔らかさが戻ります。


素材と製法のこだわり

餅粉生地

一般的な饅頭皮が小麦粉主体なのに対し、阿闍梨餅は餅粉が主役。石臼式の製餅機で餅米を直接搗き潰す独自の工程が、粘りと軽やかさを両立させています。

丹波大納言粒餡

大粒で風味豊かな丹波大納言小豆を使用。粒残り具合まで綿密に調整し、甘さ控えめで後味すっきりに仕上げています。

限定された商品ライン

満月が販売するのは阿闍梨餅を含むわずか4種類のみ。「一種類の餡で一種類の菓子」というモットーを守り、各菓子ごとに最適な餡と生地を追求している証です。


阿闍梨餅が愛される4つのポイント

もちもち&しっとりの皮
餅粉ならではの弾力と薄焼きの軽やかさ。時間が経ってもしっとり感が続きます。

上品な甘さの粒餡
丹波大納言のコクとほくほく感が生地と絶妙にマッチ。甘さ控えめで何個でも食べられるおいしさです。

ユニークな形と物語性
高僧の笠を模した愛らしい姿は話題性抜群。仏門由来のロマンも感じられます。

適度な日持ちと手頃な価格
常温で5日保存でき、1個150円程度。贈答用にも自分用にも選びやすい魅力的な菓子です。


おわりに――本店で味わう格別の一口

京都を訪れる際には、ぜひ出町柳の本店で焼きたての阿闍梨餅をお試しください。口に広がる餅生地の柔らかさと香ばしさ、そして丹波大納言餡のやさしい甘み――その一口には京都の歴史と職人の矜持が詰まっています。物語に想いを馳せながら味わえば、和菓子が持つ奥深さにきっと感動することでしょう。

 

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