芸術生成論28「細見美術館の魅力」
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細見美術館とは
細見美術館は、京都市左京区岡崎エリアに位置する私立美術館です。公益財団法人 細見美術財団が運営し、平成10年(1998年)に開館しました。収蔵品は、大阪の実業家であり日本美術コレクターだった初代・細見良(号:古香庵、1901-1979)をはじめ、細見家三代が情熱を注いで蒐集してきた貴重な日本美術コレクションを基盤としています。平安・鎌倉時代の仏教美術から室町時代の水墨画、桃山期の茶陶、江戸時代の琳派・若冲など、幅広い時代と分野をカバーしており、重要文化財や重要美術品も多数含まれていることで知られています。
建物とロケーションの魅力
美術館が建つのは、京都市美術館や京都国立近代美術館など文化施設が集まる岡崎エリア。周辺には平安神宮、ロームシアター京都といった観光スポットも数多くあり、美術と歴史、自然を同時に楽しめる人気の地域です。
館の設計は建築家・大江匡(おおえ ただす)氏によるもので、京都の町家の意匠をモチーフに取り入れた現代的なデザインが目を惹きます。地下2階から地上3階までの吹き抜け空間を中心にカフェやレストラン、ショップ、さらに屋上庭園や茶室などが配置され、来館者にとって安らぎと発見の場を同時に提供しています。
コレクションの特徴
細見家三代が長年にわたって蒐集してきた美術作品は、日本美術のほとんどの分野を網羅するといわれるほど多彩です。仏像・仏画・神道美術をはじめ、茶道具、根来塗、七宝工芸、そして伊藤若冲や酒井抱一、神坂雪佳など江戸時代の絵画に至るまで、その内容は非常に充実しています。
特に平安・鎌倉時代の仏教美術における重要文化財「愛染明王像」や、桃山時代の絵画として名高い「豊公吉野花見図屛風」は見逃せません。近世以降では琳派の優品が数多く含まれ、細見美術館を「琳派美術館」と呼ぶファンもいるほどです。
細見家三代と初代 古香庵の足跡
初代 細見良(ほそみ りょう)=古香庵
細見美術館の礎を築いた初代・細見良は、兵庫県美方郡浜坂町栃谷(現・新温泉町)に生まれました。わずか十代で大阪に奉公に出て毛織物業界に入り、24歳で独立。泉大津で「泉州毛織物株式会社」を興し、30代で大きく事業を拡大しました。
そんな中、古美術の奥深さに目覚め、最初のうちは偽物をつかまされるなど苦い失敗を経験しつつも、専門家や研究者から学びながら真贋を見極める目を養っていきます。京都・嵯峨の天龍寺 関精拙老大師から「古香庵(いにしえの香りが満ちる庵)」という号を授かったのもこの頃です。
茶の湯釜への強いこだわり
古香庵が特に熱を注いだのが「茶の湯釜」の蒐集です。最盛期には150点ほどの茶釜を所有していたともいわれ、それらすべてを実際に使い込むことで理解を深めました。また、釜師に替え蓋を作らせるなど、単なるコレクションではなく“道具”として生かす姿勢が特徴的です。研究成果をまとめた著書『茶の湯釜』(雄山閣)は、国内における茶釜の重要文献として評価を受けています。
「世界最高の美術品は日本の藤原時代の仏画である」という理念
古香庵は、藤原期(平安時代後期)の仏教絵画をこよなく愛しており、とりわけ“神や仏に捧げられた造形にこそ、日本の美の真髄がある”という考えを持っていました。重要文化財「愛染明王像」などを代表とする仏教美術を多数収集した背景には、この強い信念があります。その結果、同館には仏像・仏具、そして平安仏画をはじめとする宗教美術の名品が数多くそろいました。
企画展と展示スタイル
細見美術館は常設展を行わず、年に4~5回ほど企画展を開催しています。四季折々のテーマに合わせて収蔵作品を入れ替え展示するため、来館のたびに新鮮な発見があるのも魅力のひとつです。
また、茶会やもてなしの場で古美術を“使って”楽しんできた初代・古香庵の精神が反映されており、展示室のしつらいには「鑑賞するだけでなく、道具としての美術品を感じてほしい」という思いが感じられます。ときには茶の湯釜をはじめ、貴重な作品が実際に使われている映像や写真を紹介する企画もあり、日本の文化を体感できるよう配慮されています。
館内施設と楽しみ方
茶室「古香庵」
館内には、初代細見古香庵の号を受け継いだ茶室「古香庵」が併設されています。東山を眺めながらお抹茶をいただける貴重な空間ですが、現在は一般営業が休止中となっています。利用希望の場合は事前に美術館へ問い合わせが必要です。
ショップ「ARTCUBE SHOP」
美術館がオリジナルで企画するアートグッズや、展示に関連した図録・書籍、美術館限定のお菓子やアクセサリーなどを豊富に取りそろえています。展覧会鑑賞後の記念品やお土産探しに最適です。
カフェ「CAFÉ CUBE」& レストラン「trattoria en」
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CAFÉ CUBE(10:30~17:00 / L.O.16:30)
展覧会帰りにひと休みするのにぴったりのカフェスペース。コーヒーや紅茶、スイーツなどを楽しみながら、吹き抜けのスタイリッシュな空間でくつろげます。 -
trattoria en(18:00~21:30 要予約)
夜間に利用できるレストラン。完全予約制のため、特別感があります。展覧会の余韻を感じつつ、ゆったりディナーを楽しむのもおすすめです。
利用案内
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開館時間
- 美術館:午前10時~午後5時
- 茶室 古香庵:午前11時~午後4時(不定休・要問合せ)
- ARTCUBE SHOP:午前10時~午後5時
- CAFÉ CUBE:午前10時30分~午後5時(L.O.16時30分)
- trattoria en:午後6時~午後9時30分(要予約)
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休館日
- 月曜日(祝日の場合は翌日)
- 展示替期間
- 年末年始(2024年12月26日~2025年1月6日)
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入館料
企画展ごとに異なるため、公式サイトまたは美術館へご確認ください。 -
所在地
京都市左京区岡崎最勝寺町6-3
(最寄り:地下鉄東西線「東山駅」から徒歩約10分、または市バス「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ) -
問い合わせ先
- TEL:075-752-5555(代)
- FAX:075-752-5955(代)
公益財団法人 細見美術財団の活動
もともと文部省(現・文部科学省)所管の財団法人として設立され、平成24年(2012年)に内閣府より公益財団法人として認定を受けています。
財団は、「古典に息づく美の魂を未来に生かしたい」という理念のもと、展覧会開催だけでなく、国内外の美術館・研究機関との連携や講演会などを通じて日本の伝統文化や美術に関する普及・啓蒙活動を推進。細見家三代が残した大切な文化遺産を保存・継承することを使命とし、より多くの人に正しい理解を深めてもらえるよう尽力しています。
まとめ
細見美術館は、日本美術の豊かな世界を一度に体験できる貴重な場所です。初代・細見古香庵が「茶の湯釜」や仏教美術にかけた情熱、息子や孫の世代へと受け継がれた蒐集のこだわりが、展示作品の数々から存分に感じられます。幅広いジャンル・時代を網羅するコレクションは、まさに日本美術の“生きた教科書”ともいえるでしょう。
さらに京都・岡崎の文化ゾーンに位置し、周辺には複数の美術館や名所が集まっています。散策を兼ねて足を運べば、より深く京都の芸術や文化に浸れるはずです。
独特の美意識が詰まった建築空間も含め、五感で楽しめる細見美術館。次回の京都訪問の際には、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。懐かしくも新しい日本美術の魅力を再認識する、特別な時間を過ごせることでしょう。