芸術生成論11「日本の美術館」
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日本には博物館と美術館がひしめいている。その数は全部で5,800館以上とされる。しかも、美術館はその5分の1以上を占めている。(残りを大別すれば、歴史・文化博物館、科学博物館、自然史博物館・動植物園、産業技術博物館などである)日本の美術館は、19世紀後半に入って西欧との交流が盛んになったのをきっかけに発展した。海外の大国と肩を並べようとして急速に西欧の文物を採り入れた本国では、政治や科学技術、文化の面でさまざまな変化があった。そのひとつとして、美術館という概念が輸入されたのだ。日本初の美術館は1872年に創設された。これがのちの東京国立博物館である。
日本の美術館の歴史は比較的浅いにもかかわらず、驚くほど多くの美術館が誕生してきたといえるだろう。国立の美術館が9館あり、加えてさまざまな規模の私立美術館が全国いたるところにある。個人コレクター、企業などがつくったもので、独自の個性が強く打ちだされ、高い評価を得ている。
(床の間は最も四季を尊重した設えが求められる場所であろう)
伝統的な日本家屋や一部の美術館で作品を飾る場合、大切にしなくてはならない要素が二つある。それはまず季節感を出すことだ。日本では昔から季節感が重視されてきた。四季を大切にするという習慣から、コレクターは今が一年のどの時季かを考えたうえで伝統に則り美術品を飾り、美術館では季節に合わせて展示替えを行う。期間限定の展示というのが、何世紀にもわたって常識だったのである。個人宅の掛物なども一年壁に掛けっぱなしにしておくのではなく、行事に合わせ、あるいは、客に合わせて選び、床の間と呼ばれる奥まった一角に掛けることになっている。
次に、期間を限定することである。期間の限定は、美術品の保存・保護のためであり、特に絵画や古文書、繊細な工芸品などは、光、湿度、温度の変化に非常に敏感である。長期間の展示はこれらの要因による劣化を引き起こす可能性がある。紙や布を使った作品は、光に当たり続けると色あせたり、素材が脆くなったりする。そのため、美術品を保護し長期間にわたって保存するために、展示期間を限定し、展示の合間に適切な保管環境で美術品を休ませている。
美術館の数が急激に増えたのはここ40年のことである。近年の傾向として、実業家がスポンサーとなる場合が多い。こうした新しい美術館はどこも躍動感にあふれた展示やイベントを行っており、時には、型破りな手法に非難が集まることもある。それでも、美術館は文化の発信地となり、旅行者を惹きつける場所となってきたのである。
(犬と共に鑑賞できる美術展がある)
(水中に設置された美術展もある)
日本では美術だけでなく文化そのものが中国から大きな影響を受けている。たとえば、絵画の技巧・主題・形式は、その多くが中国を手本としていた。それがやがて日本風にアレンジされ、変化して、独特の和の様式へと発展していったのである。日本古来の宗教である神道はアニミズムを土台とし、さまざまな儀式や慣習や信仰心が多面的な宗教を発展させてきた。古代の人々は神羅万象に、精霊の姿を見ていた。そのため、宗教儀式や神社のためにつくられた品々には、美しい自然が繊細に表現されたのだ。6世紀に入ると仏教が伝来した。(538年または552年とされている。正確な年には諸説あるが、仏教が伝わったきっかけは、朝鮮半島にあった百済の聖明王が、日本の大和朝廷に仏像や経典を贈ったことによる)時の流れのなかで仏教は神道と融合し、さらに凝った表現が生まれることとなった。何世紀にもわたってさまざまな仏教の宗派が誕生するなかで、美術品の制作にもその影響が広く見られるようになる。仏像の種類が増え、複雑なシンボルが急増していった。それらのシンボルの真の意味を理解するのは至難の業だが、そこには人目を惹くデザインが数多く見受けられる。精緻な儀式が特徴の密教が9世紀に発展を遂げた。
今ではミニマリズムと静謐の代名詞になっている禅宗が日本に伝わったのは12世紀後半である。瞑想によって真理に到達することを基本とするこの宗派は、やがて絵画、書、建築、庭園など文化の面にも影響を及ぼすようになった。様式化された茶道は、いうなれば、幾多の芸術と人間の五感すべてから成り立つ、躍動に満ちた多元的な芸道である。禅の考えを受け16世紀に美意識の面で発展を遂げ、現在知られているような茶道が完成する。お茶を点てるにはさまざまな道具が必要なため、茶道の世界にはつねに、茶道具づくりという文化が息づいている。点前の中心となるのは茶碗であり、五感の全てでそのよさを味わえるようにつくられている。手ざわりと重みが大切な要素であり、点てられたお茶の泡立った鮮やかな緑色は、茶碗の釉薬とみごとなコントラストをなす。茶道具には、茶杓、花入、棗、釜、漆塗りの盆などがあり、何世紀にもわたってコレクションの対象となってきた。しかし、名高い茶人が愛用してきた道具を目にしても、その価値がよくわからないことは度々あるだろう。
茶道文化の根底には、簡素なもの・不完全なものに価値を見いだす美意識がある。茶道は教養ある嗜みとして、現代の日本においても再び人気を盛り返している。多くの人が習い、稽古を重ねているこの文化はまた日本という国を世界に知ってもらうための重要な一翼を担っているだろう。日本が優れた陶磁器生産国のひとつとして評価されているのは、しごくもっともなことだ。世界最古の窯跡が青森県で発見されている。ご存知の通り、大阪から千利休の豊かな美意識が生まれ、やがて全国に広がり、洗練された形へと発展し、今日まで続いているのだ。(土器がつくられていたのは約1万4千年前で、紀元前4世紀からは紙器がつくられるようになった。しかしながら磁器が初めてつくられるには、17世紀を待たなければならない。)
(奈良美智の作品は日本の最も有名な現代アートの一つである)
日本の現代アート美術館の多くは、芸術と文化の世界で野心的な取り組みをしている。質の高い作品を展示し、斬新なデザインの建物には時代の最先端をいく設備をそろえている。最高の評価を得ている美術館は、館内のデザインがすばらしく、展示品の美しさを引き立てるために、ライティングにもこまやかな配慮がなされている。このように、日本で公開されている美術品全体についていえば、信じられないほどレベルが高く、多種多様で、芸術を心から愛する人々を惹きつけるのだ。
東京国立博物館 - Tokyo National Museum
東京国立博物館の開館は1872年(明治5年)で、日本の博物館としてもっとも長い歴史を持ちます。 国宝88件、重要文化財634件を含む、約11万6,000件もの文化財が収蔵されています。 総合文化展では、3,000件の展示物を常時見ることができます。 館内の混雑状況はサイトで確認できます。
皇居のほど近くに建つ、日本で最初の国立美術館です。 横山大観や岸田劉生らの重要文化財を含む約13,000点の近現代美術の作品を有し、時宜に適ったテーマや切り口で会期ごとに約200点を展示されています。 19世紀末から今日に至る日本の美術の流れを一気にたどることができます。
京都国立博物館とは、主に平安時代から江戸時代にかけての京都ゆかりの文化財を中心に、展示・保存・研究を進める国立博物館です。 日本および東アジアの美術品・文化財など約14,600件を収蔵しており、考古・陶磁・彫刻・絵画・書跡・染織・漆工・金工の分野ごとにテーマを設け、紹介しています。
奈良国立博物館といえば、秋に行われる「正倉院展」が有名ですが、常設展示の目玉といえば、飛鳥時代から鎌倉時代にいたる優れた仏像群です。 国内の博物館で最も充実した仏像の展示を誇る「なら仏像館」、中国古代青銅器のコレクションを収めた青銅器館、絵画・書跡・工芸品・考古遺品の名品を1か月ごとに展示替えしながら紹介する西新館も見どころです。
九州国立博物館は、周囲の山並みに溶け込む穏やかな 曲線を描いた外観が特徴です。 各フロアには展示室やホール、カフェ、 ショップ、研究室、収蔵庫などがあり、 様々な施設で構成されています。 また、建物周辺は建設前からの自然を 多く残しており、四季折々の表情を 楽しむことができます。
皇居三の丸尚蔵館 The Museum of the Imperial Collections, Sannomaru Shozokan
国立文化財機構が所管する博物館施設です。昭和天皇崩御後の1989年(平成元年)6月に遺族の明仁と香淳皇后から寄贈され国庫に帰属した美術品を保存、研究、公開するための施設として、1992年(平成4年)9月に宮内庁所管の博物館「三の丸尚蔵館」として皇居東御苑内に建設され、1993年(平成5年)11月3日に開館しました。開館以後も皇族からの寄贈により収蔵品が度々追加されており、現在の収蔵点数は9,800点になります。
石川県金沢市の中心に移転開館した近現代工芸・デザイン専門の美術館。 陶磁、ガラス、漆工、木工、竹工、染織、人形、金工、工業デザイン、グラフィック・デザインなどの各分野にわたって、総数約4,000点を収蔵しています。 明治後期の洋風建築は国登録有形文化財の旧陸軍施設を移築・復元したもので、近代の歴史を伝えています。
京都国立近代美術館 | The National Museum of Modern Art, Kyoto
日本の近代美術史全体に配慮しながら、京都を中心に関西・西日本の美術に比重を置き、京都画壇の日本画、洋画などを積極的に収集、展示し、河井寛次郎の陶芸、染織など工芸作品のコレクションも充実しています。現在の建物(新館)はプリツカー賞建築家の槇文彦による設計で1986年(昭和61年)に竣工しました。隣接する平安神宮の大鳥居より低く設計されました。
東京都台東区の上野公園内にある、西洋の美術作品を専門とする美術館です。独立行政法人国立美術館が運営。本館は「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」の構成資産として世界文化遺産に登録されています。1959年(昭和34年)に発足・開館した西洋美術全般を対象とする美術館としては日本で唯一の国立美術館です。実業家松方幸次郎が20世紀初めにヨーロッパで収集した印象派などの19世紀から20世紀前半の絵画・彫刻を中心とする松方コレクションがコレクションの基礎となっています。
大阪市北区中之島にある、独立行政法人国立美術館が管轄する美術館です。収蔵品は第二次世界大戦以後の国内外の現代美術が中心だが、現代美術以外の企画展なども開催しています。設立は1977年(昭和52年)。当初は大阪府吹田市の万博記念公園にあったが、2004年(平成16年)に現在地へ移転。主に1945年以降の国内外の現代アートを国内最大規模の約8,000点所蔵しています。年に数回魅力あるテーマで展示替えをする所蔵作品展では、現代美術を語る上で重要な作家や作品を紹介しています。
国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO
展示スペース14,000平方メートルと日本最大級の国立新美術館は、一般的な美術館と異なり収蔵作品を持たないため、常設の展示はありません。 その代わりに、同美術館独自の企画展や、様々な団体が主催する展覧会が常時開催され、あらゆる種類のアート作品が入れ替わりで紹介される場となっています。