黒釉新月茶盌 諏訪蘇山
黒釉新月茶盌 諏訪蘇山
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幅 : 10.6cm 高さ : 7.6cm
本作「黒釉新月茶盌」は、四代 諏訪蘇山様が制作された茶盌であり、その名が示すとおり、夜空にひそやかに浮かぶ新月(ブラックムーン)をモチーフとした作品でございます。黒一色の釉調は、ただの「色」ではなく、宇宙そのもの、あるいは「不可視の月」ともいえる新月の静けさを象徴的に表しています。
この作品は一見すると、装飾性を廃した素朴な印象を与えるかもしれません。しかし、その実、造形と釉薬の対話、そして「見えないものを写す」という作家の思想が深く込められており、青瓷や白磁といった光を纏う器とは対照的に、闇を纏う茶盌として唯一無二の存在感を放っています。
新月とブラックムーンの象徴性
新月は、太陽と地球の間に月が入り、その照らされた側が地球から見えないため、夜空から姿を消します。この「見えない月」は、東洋では古来より、再生・浄化・内省の象徴として尊ばれてきました。そして「ブラックムーン」はその中でも特別な意味を持ちます。
月は約29.5日周期で満ち欠けを繰り返しますが、暦上のズレにより、稀にひと月に新月が二度巡ることがあります。その2度目の新月こそが「ブラックムーン」と呼ばれる現象で、数年に一度しか現れない天文の静寂です。
西洋占星術や神秘思想の文脈では、ブラックムーンの時期は「心の深奥に向き合う時間」とされており、日常の喧騒を離れた祈りや瞑想、あるいは精神的なデトックスに適した時間と考えられてきました。
蘇山様はこの神秘的な天文現象にインスピレーションを得て、**「可視の美」ではなく、「不可視の美」**をテーマに、静かに光を抱える器を作り上げられました。
黒釉という選択:光を吸収する表面
釉薬には深くマットな黒が用いられておりますが、これは単なる単色の黒ではなく、鉄分を含む自然釉がもたらす濃密で多層的な黒でございます。細かく見れば、黒の中に小さな釉の動きや粒子感があり、まるで夜空にかすかな星々が瞬いているかのような趣があります。
焼成中に表面に現れた鉄粉や結晶も、意図しない装飾として器に命を与えており、無装飾でありながら、極めて豊かな視覚体験をもたらします。これはまさに、静かな夜空をじっと見つめたときに感じる「見えないものへの気配」そのものでございます。
造形と精神性:月をたたえる器のかたち
造形は端正な丸みを帯びた輪郭と、やや高めの高台により、穏やかで安定感のある立ち姿を見せています。高台まわりの無釉部分は、焼き締められた素地の色が素朴な土の温もりを残し、あたかも「地球」から「月」を仰ぐかのような視点を観る者に与えます。
また、見込みの奥行きがやや深めに取られていることも特徴的で、茶を点てた際、泡の中に月影が浮かぶような詩的な情景を楽しむことができます。静かなる月を手の中に迎え、心を澄ませる。それがこの器の本質でありましょう。
美とは「見えないもの」を映す力
この茶盌の最大の魅力は、「月が見えない」という視覚的不在を、逆説的に最も雄弁に語っている点にあります。見えないものに美を見出し、闇に光を感じ、器に宇宙の深淵を重ねること。これは、古来より東洋の美意識が育んできた「余白の美」「無の美」とも通じるものでありましょう。
「光を映す器」が青瓷であるならば、「闇を湛える器」がこの黒釉新月茶盌である。諏訪蘇山様の表現は、まさに可視と不可視、存在と不在、光と闇のあわいに立つ美を探求するものであり、現代においてもなお新鮮な感動を呼び起こします。
結語:新月の器に祈りを込めて
「黒釉新月茶盌」は、単なる器を超えて、ひとつの宇宙であり、瞑想の場であり、祈りの象徴でございます。日常の喧騒を離れ、静けさに耳を澄ます時間のために、これほど相応しい茶盌はありません。
ブラックムーンの晩、灯りを落とした茶室で、この茶盌を手に取り、抹茶の静かな香りとともに心を澄ませるならば、そこに浮かび上がるのは、もうひとつの「内なる宇宙」かもしれません。
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