練込青瓷蓋置 諏訪蘇山
練込青瓷蓋置 諏訪蘇山
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幅 : 6.1cm 高さ : 5.8cm
蓋置とは何か――小さき器に込められた大いなる機能と美意識
蓋置(ふたおき)は、茶道における点前の中で茶釜の蓋や柄杓(ひしゃく)を一時的に置くための道具です。日常の中の一瞬の所作に寄り添うこの小さな器は、実用性とともに、茶人の美意識や季節感、趣向の演出を担う重要な役割を果たします。
その素材は多岐にわたり、竹製や金属製、そして本作のような陶磁器製が古くより珍重されてきました。特に陶磁の蓋置には、造形的な自由度と釉調による表情の豊かさがあり、作家の個性や哲学がより深く投影される領域でもあります。
本作の特性――三色の磁土が奏でる宇宙的旋律
本作「練込青瓷蓋置」は、白磁・青磁・藍磁の三種の磁土を練り合わせて轆轤成形した作品です。この技法は「練込」と呼ばれ、磁器では非常に高い技術と感性が求められる制作法です。
器表には、淡くやわらかな流線が旋回するように現れ、渦巻く空気や水のような有機的な文様が現れています。白磁の明るさ、青磁の透明感、藍磁の深みが絶妙に調和し、静かに揺らぐ天空や大海のような景色を想わせます。
意匠に作為を見せないのがこの技法の真髄であり、諏訪蘇山様はこの練込のリズムを自然の生成と調和の象徴として捉え、あえて余白を残した構成によって、茶席に穏やかな空気の流れを導いています。
造形の簡潔と緊張
形状は至って簡潔で、円筒形の端正なフォルムを基調としています。この静かな造形美の中にこそ、茶の湯にふさわしい緊張感と安定感が宿っています。
高さと直径のバランスは、柄杓の羽口や釜蓋との接地面を自然に受け止める理想的な設計であり、指先で持ち上げやすい厚みと重心も備えています。蓋置としての機能を損なわず、同時に視線を誘う陶磁の景色がそこにあります。
茶席における演出と象徴性
本作の蓋置は、炉・風炉の両用としても使用可能であり、建水に仕込む際、あるいは棚に飾る際にも端正で詩的な趣向を醸す道具として茶席を引き立てます。
茶の湯では、蓋置の持つ形状や色彩が季節や茶会の趣向に即して選ばれるため、本作のような抽象的かつ自然な風合いの作品は、「清明」「涼風」「霜月」など、気象や宇宙をテーマとする茶会において、季節感の演出に極めて効果的です。
技法と思想――練込という宇宙の在り方
練込という技法は、異なる磁土を重ね、切り、伸ばし、回転させながら再構築する過程で、まさに偶然と必然の美を引き出す作業です。この「自然に現れる美」を尊ぶ精神は、まさに茶の湯の理念と響き合っています。
四代 諏訪蘇山様は、この練込を単なる模様表現ではなく、**星の生成、風の動き、時の流れといった「宇宙の構造そのもの」**としてとらえておられます。
その証左として、同様の練込技法によって制作された「練込青瓷茶盌・曙」「星誕」などの作品群では、天体や夜明け、銀河などの象徴が随所に散りばめられており、本作の蓋置もその系譜の中に確かに位置づけられています。
作家略歴と継承
四代 諏訪蘇山様は1970年、京都市に生まれ、父・三代 諏訪蘇山様および、母・十二代 中村宗哲様の薫陶を受けて育ちました。2002年に四代を襲名され、初代が完成させた「砧青磁」の再現とともに、現代の茶の湯文化に響く革新性を青磁の領域で追求されています。
「作品には物語を宿すべし」との母の教えを受け継ぎながら、作品一つひとつに使い手と器の交感、そこに宿る時間を込めて制作されています。
結語――「小宇宙」としての蓋置
この「練込青瓷蓋置」は、小さな器の中に、宇宙的な時間の層と自然の律動が織り込まれた、まさに小宇宙のような道具です。柄杓をのせるという単純な機能を超えて、茶室の空気をやわらかく震わせる詩的装置としての力を宿しています。
控えめながら深遠。静謐ながら躍動。
それはまさに、茶の湯が理想とする「用の美」の体現者と申せましょう。
この蓋置を通して、使い手は一つの景色と出会い、ひとときの宇宙を掌に感じることになるのです。
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