白不二山ぐい吞み 柳下季器
白不二山ぐい吞み 柳下季器
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幅7.2cm×6.4cm 高さ5.7cm
柳下季器 作 — 掌に宿る静寂と余白の造形
光悦「不二山」への深い敬意から生まれた掌中の再構築
柳下季器様による《白不二山ぐい吞み》は、江戸初期の美術巨匠・本阿弥光悦の傑作「不二山」への深い敬意と、現代における造形的再解釈とが交錯して生まれた作品です。光悦の「不二山」は、国宝に指定される楽茶碗の中でもとりわけ象徴性が強く、乳白色の釉薬が富士山の雪を思わせることからその名が与えられました。侘びと華やぎ、静と動を併せ持つその名碗の精神性を、独自の審美眼によってぐい呑というより小さな器形に凝縮し、まさに“掌の中の不二山”を創出しました。
このぐい呑は、単なる茶碗の縮小や模倣ではなく、あくまでもぐい呑としての独立した設計思想のもとに作られた作品です。そこにあるのは、楽焼の自由な造形美と、手捏ねの即興性、そして焼成によって偶然と必然が織りなす静かな景色です。
白という景色が語る、静けさと奥行き
本作最大の特徴は、その釉肌に現れる「白」の景色にあります。単に明るさや清潔感を喚起する白ではなく、幾層にも折り重なった乳白釉の奥から、やわらかく滲み出るような「沈黙の白」が立ち現れています。その質感はまるで手漉きの和紙のように繊細で、見る者の視線を器肌の奥へと引き込みます。
光を受けてふわりと霞むような釉のかかり具合は、釉薬の厚みと焼成の変化が生み出したものであり、手捏ねによる柔らかな形状と相まって、静謐でありながらも豊かな動感を湛えています。器の内外には微細な貫入が走り、使用とともに時の経過を映し出す「育つ器」としての側面も備えています。
炭化によって刻まれる“時間の痕跡”
器の下半には、焼成中に自然発生した炭化による濃淡が控えめに現れています。黒とも灰ともつかぬ色味は、ただのコントラストではなく、かつて窯の中で過ごした時間そのものを表現しているようです。これらの景色は、柳下氏が長年にわたって研究してきた焼締技法や、登窯・穴窯での繰り返しの試行錯誤の成果によるものです。
偶然性の中に意図を織り込むその技法は、単なる実用器にとどまらない芸術的価値を器に宿らせ、使う者が時を重ねるごとにその景色はより複雑に、より深く変化してゆくでしょう。
造形の自立性——ミニアチュールではない、ひとつの完結したかたち
《白不二山ぐい吞み》は、あくまでもぐい呑という独自の器種として成り立っており、茶碗のミニチュアではありません。成形は楽焼本来の手捏ね技法によるもので、掌にすっと収まりながらも、造形には明確な輪郭と豊かな肉付きが与えられています。
器の口縁はごくわずかに締まり、液体を適切に受け止め、口当たりも柔らかく設計されています。見込みの奥行きと幅のバランスは、酒を注いだときに釉薬の透明層が美しく反射し、味覚と視覚の両面から味わいを深めてくれます。飲むための器であると同時に、見るための彫刻としての側面も備えており、まさに“用の美”の体現といえるでしょう。
日本美術の核心にある「余白」としての白
このぐい呑における白は、単なる色彩ではなく、むしろ“語らぬもの”としての存在感を持ちます。そこには、俵屋宗達の金地における風の流れ、尾形光琳の銀泥に宿る静寂、水墨画のなかの空白、そして書における余白といった、日本美術の中核をなす“余白”の思想が反映されています。
音と無音、存在と不在、形と空間——そうした二項の間に浮遊する美を、柳下様は白釉と造形の中に静かに封じ込めました。その姿は、使う者の心の在りように応じて多様に変化し、まさに“共に時間を過ごす器”として成熟してゆきます。
結語──掌に咲く小さな富士の白
《白不二山ぐい吞み》は、本阿弥光悦「不二山」への敬意を出発点としながらも、茶陶の精神を踏襲しつつ、ぐい呑というフォーマットに昇華した作品です。その静けさと深み、掌におさまる風景としての完成度は、まさに造形哲学と焼成美学の結晶といえるでしょう。
掌に載せ、酒を注ぎ、口をつける。そんなささやかな所作のなかに、時間と自然、記憶と景色がそっと立ち現れてくる──その豊かな余白を宿した器です。
柳下 季器(Hideki Yanashita) プロフィール
陶芸家 1967 –
東京都生まれ。現在は三重県伊賀市を拠点に活動。桃山時代のやきものに魅了され、陶芸の道へ進む。信楽での修行を経て三重県・伊賀に自ら穴窯を築窯し、「神田窯」を開窯。杉本貞光氏に薫陶を受け、侘び寂びの世界を独自の視点で深く探求しつつ、楽焼や焼締、井戸、織部など多彩な作品を制作しています。柳下氏の創作において重要なテーマとなるのは、先人の技法や精神を深く学びつつも、現代の素材や独自のアプローチを取り入れることで生まれる新たな極みへの探究です。その作品は時代に左右されない本質的な美を問いかけ、観る者をより深い芸術の世界へと誘います。
活動拠点
三重県・伊賀
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