卯香合 尾西楽斎
卯香合 尾西楽斎
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幅 : 3.8cm×5.0cm 高さ : 4.8cm
卯香合(う‐こうごう) 尾西楽斎様 作
――月に跳ねる白兎、その瑞兆を掌に――
1.作品概説
本作は、奈良・赤膚焼(あかはだやき)の名匠、八代 尾西楽斎様 が手掛けられた卯(うさぎ)形の香合でございます。直径五センチ余りの小品ながら、ふくよかな胴とつぶらな赤い双眸(そうぼう)が愛らしく、蓋身と胴身の二分割構造により練香や伽羅片を納められる実用性を備えております。乳白釉(にゅうはくゆう)の柔らかな光沢と、赤膚土由来のほのかな薄紅(うすべに)が相まって、月光に照らされた雪兎を思わせる気品に満ちた逸品です。
2.造形と意匠
視点 | ディテール | 鑑賞ポイント |
---|---|---|
正面 | 丸みを帯びた額と口元 | 口角にごく浅い刻線を施し、笑みをたたえたような柔和さを演出しています。 |
側面 | 胸元から腹への張り | 兎の鼓動を感じさせるふっくらとした量感を誇張し、親しみやすさを醸成。 |
背面 | しっとりとした臀部と小尾 | 尾を低く収めることで安定感を高め、茶卓に置いた際の転倒を防いでいます。 |
蓋合わせ | 腰の皺に見立てた境界線 | 分割線を意匠化し、蓋物であることを忘れさせる一体感を実現。 |
3.釉調と技法
乳白釉の淡雅
長石主体の透明釉に微量の錫を加え、やや低温(1220〜1230℃)の還元焚きで白濁させています。その結果、光を和らげる絹のようなマット性が現れ、兎の柔毛を想起させる質感となっております。
薄紅の発色
胎土に含まれる鉄分が還元炎によって赤味を帯び、鼻梁や頬、耳裏にほんのりと桜色の「肌合(はだあい)」を生じさせています。これは赤膚焼特有の景色で、生命感と温もりを添える役割を果たします。
彫塑的成形
外形は手捻りで大まかに形取り、半乾きの段階で竹べらを用い耳・鼻・口・足先を彫り起こし、柔らかな起伏を残しています。蓋身切り分け後は合わせ面を研ぎ合わせ、気密性を確保しつつも開閉しやすい精度に仕上げられています。
4.兎モチーフの文化的背景
兎は古来より月宮殿で餅を搗(つ)く姿に擬せられ、「月と再生」「飛躍」「多産」 の象徴として親しまれてきました。十二支では卯年にあたり、安寧・温順を司(つかさど)るとされます。茶の湯では
観月の茶事(十五夜・十三夜)
立春大吉の初卯(初午)
雛祭り前の弥生席
など、春の訪れや月を愛でる趣向で兎香合が多用され、客人に飛躍・吉祥への願いを示す道具立てとして重宝されてまいりました。
5.茶席での取り合わせ例
季節・趣向 | 軸・花 | 推奨の香 | 演出効果 |
---|---|---|---|
仲秋・観月 | 軸「兎月遊」、花:薄・吾亦紅 | 伽羅の切片 | 月光に躍る白兎の情景を室中に呼び込む |
立春・初釜替り | 軸「前途洋洋」、花:白梅一枝 | 練香「瑞雲」 | “跳ねる”兎で新年の飛躍を願う |
卯年歳暮 | 軸「笑門来福」、花:南天 | 白檀+龍脳 | 多福と長寿への祈りを示す締め括り |
6.尾西楽斎様の作陶理念
尾西楽斎様は「奈良の歴史と吉祥を掌上の茶陶へ」という信念をお持ちで、鹿や梵鐘、鴟尾に加え四季折々の瑞獣を積極的に題材にされています。本作では、赤膚土の温かさを活(い)かしつつ、乳白釉と淡紅の対比で月夜に浮かぶ兎 の幻想を巧みに表現。掌中で愛でる彫塑作品としての繊細さと、道具としての堅牢さを両立されています。
7.まとめ
「卯香合」は、ほのかな薄紅を帯びた乳白の釉景と、愛くるしい造形が相まって、月下の静寂と春の芽吹きを同時に感じさせる逸品でございます。蓋を開くと漂う香煙が兎の鼻先をかすめ、まるで山野を駆ける白兎が虹のような気流を残すかのよう。季節の節目や吉祥の趣向に、ぜひ掌中の兎をご活用いただき、客人との和やかな対話をお楽しみくださいませ。
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