宮川香斎様との対談
今回は、宮川香斎様の真葛(まくず)にお伺いして、お話をお伺いしました。
【宮川】→ 宮川香斎(みやがわ こうさい)様
【西村】→ 西村一昧(にしむら いちまい)甘木道 店主
【西村】本日はよろしくお願いします。作品がどのように作られているのかお聞きしたいのですが、こちらは信楽の土を使っているのですか?
【宮川】はい、滋賀県の信楽の土を使っています。野々村仁清も京焼の制作で信楽の土を使っていました。彼なりの水指もあります。真葛初代の長造さんは仁清写しの妙手でありました。藁灰を使った釉薬も使用しています。信楽の土を使うのは珍しく、他の京焼ではあまり使われない土なので、特別な感じがします。
【西村】信楽の土には何か特徴がありますか?
【宮川】緋色のある土は他とは違います。信楽の土には細かい砂が含まれていて、荒々しい質感が特徴です。粘り気が少なく、作る時に口元が切れやすいなどの難しさもあります。
【西村】高台の部分が特に印象的でした。雰囲気が良く、見どころの多い作品だと思いました。写しの技法についても興味があります。たとえば、乾山や仁清の「写し」という言葉は、そもそもどのような意味で使われるのですか?
【宮川】「写し」とは、オリジナルの技法やスタイルを参考にして作ることを指します。釉薬の上に絵を描くのを「仁清写し」、釉薬の下に技法を施すのが「乾山写し」といいます。技術的な面も重要ですが、作品を通して自分の想いを表現することが大切です。
【西村】なるほど。「写し」という言葉は単なるコピーやレプリカを意味するのではないんですね。
【宮川】そうです。「写し」とは必ずしも模倣ではなく、オリジナルに敬意を払いながら新しい形で表現することです。
【西村】たとえば、クリスマス柄の茶碗も乾山写しとして作られているんですね。面白い発想です。
【宮川】そうですね。もし乾山が今の時代に生きていたら、どんな茶碗を作るだろうと考えながら作っています。
【西村】花七宝のデザインは、京焼らしい印象を受けます。典型的な京焼のスタイルに見えますね。
【宮川】このデザインは伝統的な七宝の図案ですが、配置は私自身が考えています。
【西村】新しいデザインを取り入れることは自由なんですか?何か決まりごとはありますか?
【宮川】特に明文化されたルールはありませんが、長年の経験で自然と守るべき枠が身についていると感じます。
【西村】職人としての環境は、幼少期から身近にあったのですか?
【宮川】はい、工房は日常の一部でした。特に興味を持ったわけではありませんが、自然とその環境の中にいた感じです。
【西村】ろくろは幼いころから触っていましたか?
【宮川】いいえ、本格的に土を触るようになったのは大学に入ってからです。
【西村】大学では海外留学も経験されたとか?
【宮川】はい、アメリカで彫刻や造形を学びました。大学卒業後、萩で1年間釉薬の修行をしました。
【西村】留学で得た経験は、どのように作品に活かされていますか?
【宮川】アメリカの陶芸は非常に自由度が高く、釉薬の色が思い通りにならない場合はペンキを塗ることもあるようです。しかし、私はそれに対して異議を感じました。陶芸は技法を大切にするものですので、私にとっては技法に忠実であることが大事です。
【西村】確かに悪い見本というわけではないですが、その方向性は避けた方がいいと感じたんですね。ところで、楽茶碗のような手び練りの作品も作られていると思いますが、作り方はどう違うのでしょうか?
【宮川】楽茶碗の手び練りと私の手び練りは、まったく作り方が違います。
【西村】どういった違いがあるのでしょうか。
【宮川】楽さんは手で茶碗を起こしますが、うちは薄い粘土の板を型に合わせて使います。石膏の半球に粘土を貼り付け、後で高台をつけるという方法です。造形が強すぎると絵付けと合わなくなるので、絵付けの妙も大切にしています。ぜひ絵付けを見てほしいですね。
【西村】光悦の茶碗のように、上がすぱっと切れているデザインもかっこいいですね。
【宮川】そうですね、でもその形だと絵付けが映えないんです。
【宮川】楽茶碗を作るときは、常に意識しています。同じように締める形がありますが、私はこの形がとても好きです。
【西村】その形の難しさとは何ですか?
【宮川】中の形と外の形が違うところですね。
【西村】使っていて、その違いを意識したことはなかったです。
【宮川】外から見るよりも、中が広いのが良い茶碗と言われています。お茶の「懐の深さ」がある茶碗が良いとされますね。外からは引き締まって見えますが、内側の土が薄いため、中が広く感じられます。口元には少し多めに土を残して、腰の部分を薄くすると、持ったときに軽く感じます。食器は全体の厚みが一定ですが、茶碗は部分ごとに厚みが変わっているんです。
【西村】シンプルに見えますが、意外と違いがあるんですね。
【宮川】はい。京焼の茶碗を作る際には、仁清の技法を意識しています。これはまさに「仁清写し」ですが、今の時代にどうアウトプットするかが重要です。
【西村】香道には二種類あると聞いたことがあります。乾燥した香と、練った香ですよね?
【宮川】そうですね、茶道では練香を入れる香合を使います。今では海外のコレクターが多いですね。ジョルジョ・クレマーソンという人物は、日本の香合の大コレクターでした。
【西村】見た目の審美性が評価されているんですね。根付のコレクターも皇族の方がいらっしゃいますし。
【宮川】はい、細かい絵付けは時間がかかりますね。
【西村】作品は同時進行で作られるんですか?
【宮川】そうです。だいたい二つを同時に作ります。香合は型を使って作りますが、昔からの型を使い、江戸時代のものも修理しながら使っています。
【西村】型を修理するとはどういうことですか?
【宮川】木材の型は角が取れてくるので、定期的に修理が必要なんです。
【西村】昔は石膏がなかったので、素焼きの土や粘土で型を作っていたんですよね。
【宮川】そうです。うちの香合の魅力は、立ち上がりの薄さです。それが瀟洒に見え、手に取ると軽く感じます。
【西村】少し言葉が悪いかもしれませんが、歩留まり(出来高)はどのくらいでしょうか?
【宮川】半分くらいですね。
【西村】それはなかなか品質基準が厳しいですね。どこが一番難しいのでしょうか?
【宮川】例えば、素焼きをするともう土には戻せないので、素焼き前に形が悪ければ土に戻します。また、素焼きや本焼きでヒビが入ったり、釉薬の色がうまく出なかったり、土の状態に問題があることもあります。うちの最大の特徴は「わら灰釉薬」で、長石を原料にしていて、200年以上続く萩焼の伝統で青白く発色させるのが特長です。
【西村】わら灰釉薬は、厚く塗るんですか?
【宮川】この釉薬は縮れます。青が強すぎると品が悪く見えてしまうので、鉄分の含有量が多いと、釉薬をかける前に「脱鉄」といって、磁石で鉄分を取り除きます。釉薬の層を落として鉄を取り除くんです。畑によって鉄分の量が違うので、それを取り除いて基準を一定に保っています。
【西村】技術や伝統を尊重しつつも、新しい挑戦もされていますね。
【宮川】新しいことに挑戦することで、それが新たな伝統となっていくと思っています。
【西村】確かに、京都は新しいことに挑戦する土地柄でもありますね。
【宮川】その挑戦が、伝統を壊さずにどこまで革新できるかが重要です。