粉引茶盌 諏訪蘇山
粉引茶盌 諏訪蘇山
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幅 : 12.7cm 高さ : 7.3cm
本作「粉引茶盌」は、四代 諏訪蘇山様によって制作された、温もりと静謐を湛えた白の器でございます。粉引(こひき)は、古来より日本に伝わる陶芸技法のひとつであり、白い化粧土(白泥)を施し、その上に透明釉をかけて焼成するという三層構造(素地+白化粧+透明釉)によって成り立っています。やわらかく、やや灰みを帯びたその白の肌は、完璧な白磁とは異なり、どこか朧げで、土のぬくもりと手仕事の気配を色濃く残しています。
この技法は、朝鮮半島の李朝白磁に影響を受けながら、日本独自のやきもの美学のなかで育まれてきました。白の中に「無作為の作為」を宿す粉引の器は、古くは茶人たちに愛され、「見立て」の器としても重用されてまいりました。
粉引とは何か――素地と化粧土が生む景色
粉引とは、本来灰色や赤褐色などの色をもつ陶土(素地)を用い、その上に白い泥状の化粧土をかけて、さらにその上から透明釉を施して焼成したものを指します。この白化粧の技法によって、素地の色味を包み隠し、やわらかな白の表情を器全体にまとわせることができるのです。
透明釉のかかった白化粧の表面には、微細な貫入やざらつき、焼成による色のゆらぎなどが生まれ、決して均一ではない「生きた白」とでも呼ぶべき表情が現れます。これは、白磁や染付とはまったく異なる、土と火と手業による「肌理(きめ)」の美であり、手に取ったときのぬくもりや、茶を含んだ際のしっとりとした表面の質感が、他にない魅力を生んでいます。
造形の特徴――端正とやわらかさの共鳴
諏訪蘇山様の手によるこの粉引茶盌は、腰にゆるやかな膨らみをもたせ、口縁部はわずかに端反りしています。全体に緊張感を持たせつつも、直線的ではなく、どこか「呼吸」を感じさせる柔らかなシルエットを描いています。高台は控えめながら、やや外反し、全体の安定感を支えると同時に、見込みから高台に向けて視線が流れるよう、造形的なリズムが意識されています。
また、成形時のロクロ目がそのまま残されており、手仕事の痕跡としての「造形の筆跡」が、茶碗という実用器の中に、作者の息遣いを宿しています。このわずかな「揺らぎ」は、完璧な形よりもはるかに深い美を表現しており、日本の美意識の根幹にある「不完全の美」「侘びの美」を如実に体現しているといえるでしょう。
李朝粉引の系譜と現代性
このような粉引の技法は、15世紀から16世紀にかけて朝鮮半島で焼かれた李朝後期の白磁や粉青沙器(ふんせいさき)にその源流を見ることができます。特に素朴な風合いを持ちつつもどこか気品のある李朝の器は、日本の茶人たちに見出され、千利休をはじめとする茶の湯文化の中で重宝されました。
蘇山様は、こうした李朝的な美意識を現代に受け継ぎつつ、粉引という伝統技法に新たな息吹を与えておられます。単なる写しではなく、あくまで現代の生活や感性に寄り添う造形とし、同時に静かに語りかけるような「白」の精神性をそこに込められているのです。
粉引の茶碗に宿る「用の美」
この粉引茶盌は、見た目の美しさ以上に、「用いることでこそ真価が現れる器」です。抹茶を入れたときの緑とのコントラスト、湯気を受けたときにしっとりと変化する釉薬の表情、さらには使い込むうちに生まれる「貫入への茶染み」など、時間とともに変化していく「器の生」を味わうことができます。
まさに、柳宗悦が唱えた「用の美」の具現として、粉引は今も多くの人の暮らしの中で愛されているのです。
結語:静けさの中にある豊かさ
諏訪蘇山様によるこの粉引茶盌は、ただ美しいだけでなく、見る者・使う者に「静けさの中の豊かさ」「素朴のなかの深み」を感じさせてくれる作品でございます。白という色に宿る精神性と、土のぬくもり。過ぎたることなく、足りないこともない、ただ「そこにある」ことの美。
手に取ったとき、口元に触れたとき、まるで雪が溶けてゆくようにやさしく寄り添うこの器は、現代の喧騒の中においても、変わることなく心に安らぎを与えてくれるでしょう。
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【陶器をご購入の際のお願い】
作品ごとに、出来るだけ詳細をご確認いただけるように画像を掲載しておりますが、ご不明な点はお問い合わせください。
作品の色合いなどは、画像を表示する環境により若干異なることがございますが、ご理解の程お願いいたします。
作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。