唐津土茶盌 諏訪蘇山
唐津土茶盌 諏訪蘇山
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幅 : 13.6cm 高さ : 7.3cm
本作「唐津土茶盌」は、四代 諏訪蘇山様が、佐賀県唐津市に根差す伝統的な陶土を用い、唐津焼本来の素材感を最大限に活かして制作された抹茶碗です。青瓷や白瓷に代表される精緻な磁器表現とは異なり、本作においては「土もの」と呼ばれる粗質な陶土特有の素朴さと力強さ、そして素材そのものが持つ温もりが前面に押し出されています。
素材と風土――唐津土の魅力
使用されている土は、唐津市岸岳山系より採掘された天然の砂質土でございます。唐津の土はきわめて個性豊かで、粘り気の少ないざらついた質感を持ち、焼成後には温かな赤味を帯びた灰褐色の発色を呈します。微細な鉄分や鬼板(おにいた)と呼ばれる鉄の塊が随所に含まれており、それが焼き上がりに点在して独特の表情を生み出すことも魅力のひとつです。
このような土は可塑性に乏しく、轆轤成形や削りの際にちりめん皺(しわ)が入りやすい傾向にありますが、それゆえに土そのものの息遣いや作家の手跡がありありと残る、豊かな有機的表情を獲得します。
造形と機能――日常と茶の融合
本作の形状は、いわゆる井戸型の流れを汲みながらも、やや高めの高台と張りのある胴部によって、堂々たる佇まいを呈しております。見込みの深さと口縁のひらき具合も、茶筅の動きを妨げず、使い心地を重視した設計となっております。
「作り手八分、使い手二分」と言われる唐津焼の精神を、蘇山様はまさに体現されています。土と炎によって形作られたこの茶盌は、使い手が抹茶を点て、手に取り、眺めることで、はじめて完成する器でありましょう。
美と実用の調和――用の美の本質
唐津焼は、決して技巧の誇示や装飾の華やかさを主とせず、「使われること」を前提とした器であることが最大の魅力です。そのため、あらゆる茶席において他の道具との調和を図り、周囲の景色を引き立てる“脇役の美”として評価されてきました。
本作もまた、抹茶の鮮やかな緑色を背景に引き立てつつ、素朴な土肌が空間に落ち着きと温もりを添える造形となっております。釉薬の施しは極めて控えめであり、表面にうっすらと見える白濁した光沢は、焼成中に自然に現れた灰被りの名残でありましょう。このような自然現象を受け入れ、制御しすぎない美的態度こそが、唐津焼の精神であり、蘇山様の創作信念でもあります。
歴史と継承――唐津焼の背景
唐津焼の始まりは、16世紀後半、豊臣秀吉による朝鮮出兵をきっかけに連れて来られた朝鮮陶工たちがもたらした技術といわれております。そのため、朝鮮陶磁との親和性が高く、装飾や造形においても東アジア的な文脈が色濃く残されています。とりわけ、土味を重視する風潮は、当時の侘茶の潮流とも合致し、古田織部・小堀遠州といった茶人たちに重用されました。
また、「唐の津(つ)」すなわち“異文化との交差点”として栄えた地名が示すとおり、唐津は交流と融合の文化圏であり、そこで生まれた唐津焼は「受容と創造」の器とも言えましょう。諏訪蘇山様の本作もまた、その伝統を尊重しつつ、現代的な造形感覚と使用性を兼ね備えた新たな唐津焼のかたちを提示しています。
結語――土に還る美
「唐津土茶盌」は、ただの器ではありません。土と向き合い、火と語らい、形となったその存在は、自然との共生と人間の手仕事の尊さを静かに語りかけてくれます。諏訪蘇山様の丁寧な眼差しと、唐津の風土に根差した素材への敬意が、この一碗に凝縮されているのです。
使い込むほどに馴染み、経年変化の中で美しさが深まる唐津の器。その素朴でありながら滋味深い佇まいは、まさに現代の喧騒を静め、日々の茶の時間に深い安らぎをもたらすことでしょう。
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作品ごとに、出来るだけ詳細をご確認いただけるように画像を掲載しておりますが、ご不明な点はお問い合わせください。
作品の色合いなどは、画像を表示する環境により若干異なることがございますが、ご理解の程お願いいたします。
作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。