富士に松茶碗 尾西楽斎
富士に松茶碗 尾西楽斎
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幅 : 14.3cm 高さ : 7.5cm
尾西楽斎様が手掛けられた本作は、日本人の心象風景を象徴する「富士」と「松」を一碗に収め、瑞祥と景勝を同時に語り掛ける意匠が秀逸な作品です。荒土の素朴な質感を活かしつつ、金彩や緑青を巧みに用いて絵付けを施すことで、侘びと雅が響き合う独自の世界観を創出しています。以下、五つの視点から魅力を詳説いたします。
1.造形と胎土
端正な鉢形
胴がやや張り、口縁に向かって控えめにすぼまるフォルムは、茶筅が自然に回転して泡が均一に立つ理想的なプロポーションです。
荒土の景色
鉄分を多く含む胎土を還元気味に焼成したことで、細かな斑点と焦げが生まれ、山肌や松皮を思わせる野趣を器全体に漂わせています。
見込みの金霞
内側には淡金の雲母金彩が刷かれ、雪を戴く富士山を背景の曙光で照らし出す舞台を形成。抹茶の緑が入ると、金の霞越しに富士の紫が映え、一服の景観が完成します。
2.意匠 ― 富士と松の吉祥
松の群景
外側全面に松が連なり、幹は赭土と金泥で力強く描かれ、葉は緑青と緑釉で立体的に表現されています。松は常盤木として「長寿・不変」の象徴であり、茶席に永続と安寧をもたらします。
富士の遠景
見込み奥に紫がかった雪冠の富士を描き込み、器を飲み干した瞬間に視界が開ける“顕現の趣向”を演出。外側の松が近景、内側の富士が遠景となり、一碗の中に遠近法的な奥行きを生み出しています。
黄金の曙光
見込みの金彩は旭光を、外側の点描金は松に降り注ぐ木漏れ日を示唆し、静と動の光を巧みに分配しています。
3.技法 ― 釉下彩と上絵の重奏
掻き落としと色差し
荒土に白化粧を薄く掛けてから線彫りで松枝を掻き落とし、その溝へ赭土絵具を差すことで、幹の凹凸がリアルに浮かび上がります。
緑青盛り
松葉には緑青を厚めに盛り、再焼成で艶と透明感を付与。葉脈に金泥を挿し込み、瑞々しい中にも雅を宿らせています。
雲母金の刷き付け
見込みの金彩は雲母金を刷毛で曙光状に薄掛けしており、光源に応じて淡く揺らぐ効果が得られます。
4.茶席での機能美
抹茶映え
内壁の金彩が抹茶の緑を柔らかく照り返し、富士山の紫と相まって、茶面に日の出の景を演出します。
語りの愉しみ
亭主は「松は千年、富士は万年」といった故事を添え、客人と長寿・繁栄を寿ぐ対話を楽しめます。
季節を問わぬ汎用性
松と富士は通年の吉祥モチーフであり、正月の初釜から秋の名月席まで幅広く活躍します。
5.文化的背景と現代性
富士は古来「不二=唯一無二」「不死=永生」に通じ、松は常盤の緑で長寿を象徴します。尾西楽斎様はこの古典的組み合わせを、荒土の侘びと金彩の雅で再構成することにより、現代茶席でも映える軽やかさを獲得しています。さらに、見込み奥に富士を潜ませる設計は、飲み干す行為そのものを“景色を開示する儀式”へと昇華し、器と所作を一体化させています。
荒土の大地に根を張る松、遙かに聳える紫の富士、そして朝日を思わせる金霞――尾西楽斎様の富士に松茶碗は、掌のなかで悠久の自然と吉祥を味わうことのできる珠玉の一碗です。茶席に据えれば、客人は碗を回し、抹茶をいただきながら、日本の美意識が凝縮された景勝の旅を楽しむことでしょう。
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