線条黒釉茶盌 小川文齋
線条黒釉茶盌 小川文齋
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幅 : 14.0cm×14.0cm 高さ : 6.0cm
闇に浮かぶ線の余韻 ― 線条黒釉茶盌 六代 小川文齋(興)作
漆黒の闇を想わせるこの茶盌は、六代 小川文齋(興)様による「線条黒釉茶盌」。一見して静謐な黒の世界に包まれながら、よく見ると胴部にうねるような緩やかな線条文が施され、その上にわずかに現れる緑や赤の釉の流れが、まるで闇夜に漂う墨線のように浮かび上がります。
そこには、単なる黒では終わらない、視覚の奥行きと精神の深みが共存しており、黒釉という素材に秘められた無限の可能性と、文齋窯の革新の息吹が力強く刻まれています。
静謐なる黒 ― 鎮魂と集中の色
黒釉は、日本陶芸において「沈黙の色」であり、同時に「精神の色」でもあります。無彩に近いその色彩は、余計な装飾を拒み、観る者の視線を器そのものの造形、そして手触りへと引き戻す力を持っています。
この茶盌においても、釉薬は深く艶やかで、吸い込まれるような黒が全体を覆っています。しかしその黒は“空虚”ではありません。光をわずかに受けた時、緩やかな轆轤目と釉のムラによって微細な表情を見せ、まるで夜空に浮かぶ雲のように動的な質感を纏っています。
線条文のリズムと、釉の舞い
胴部には、手仕事による緩やかな線条文が巡らされています。この線はただの装飾ではなく、器に触れたときの指先の感触を変え、触覚としての記憶を深く刻むための造形的配慮でもあります。その凹凸が、黒釉の濃淡を変化させ、まるで墨の筆致のような余韻を生み出します。
さらに、その線上には焼成中に偶然生まれた釉の流れが現れ、ほんのりとした緑や赤がにじむように浮かび上がります。この“予測できない美”こそが、陶芸における真の表現であり、黒という制約の中に多彩な表情を封じ込めた文齋様の巧みな技の証でもあります。
引き締まったフォルムと白の高台
造形は非常に安定感のある広口低重心のスタイルで、手取りの軽やかさと重心の安心感を両立しています。輪郭は直線的でありながら柔らかく、全体に静かな緊張感が宿っています。
特筆すべきは、高台の白土が露出している点です。器全体を覆う黒釉の中にあって、この白が唯一の“開口部”のように機能しており、まるで夜明け前の光の兆しを象徴するかのような効果を生んでいます。黒と白、陰と陽、その対比が器の佇まいに明確な秩序と詩的余韻をもたらしているのです。
黒に込められた思想 ― 小川文齋の探求
六代 小川文齋(興)様は、父・五代の赤に対して、自身の作品の主題として緑や青、そして黒を選び取ってきました。争いや主張よりも、調和と沈思を重視するその姿勢は、黒という色がもつ“受容”の力と深く共鳴しています。
この茶盌においても、華やかさや技巧を競うのではなく、黒という「無」を通して“心を澄ませる器”としての役割を見事に果たしています。そこには、どこまでも静かで、けれど確かな存在感を持つ作品にしか備わらない「芯」があるのです。
沈黙の器が語るもの
茶室に据えられたこの茶盌は、他のいかなる茶道具よりも周囲の空気を引き締めます。黒という色が持つ引力、そして線条文と釉の揺らぎが織りなす微細な表情が、見る者の視線を一心に惹きつけ、そこに“無言の対話”が始まります。
光の強さ、茶の緑、空間の静けさ。すべてがこの器に呼応し、茶の湯における一瞬の「間(ま)」が立ち現れるのです。
存在の余白を抱く黒 ― 永遠にして未完成の美
「線条黒釉茶盌」は、完成されすぎた美の対極にある器です。その黒の奥には無限の表情が眠り、見るたびに、使うたびに、新たな発見をもたらしてくれます。
それは、まさに六代 小川文齋様が追い求める「平和を祈り、静謐を讃える」美のあり方そのもの。目立たず、奪わず、ただそこにあるという器の理想形が、ここに具現化されています。
どうぞその手で、この深き黒の世界を確かめてください。
そこには、言葉を超えた“沈黙の詩”が、たしかに息づいています。
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作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。