志野茶盌 柳下季器
志野茶盌 柳下季器
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幅12.8cm×12.3cm 高さ9.2cm
やわらかな白に包まれながらも、そこに静かに燃えるような緋の気配。
柳下季器様による《志野茶盌》は、白という無限の世界を、静かに、しかし力強く切り拓く作品です。桃山時代に生まれ、日本で初めて“白”を主調としたやきものとして知られる志野焼。その本質は、「白とは何か」「白の中にいかなる景色を見いだすか」という問いにあります。本作もまた、その問いに対する柳下様なりの応答であり、志野の伝統と、現代的な感覚が静かに融合した一碗となっています。
長石釉の流れが描く、白の動き
この茶盌にかけられた長石釉は、たっぷりと厚く、しかし一切の重たさを感じさせず、器全体をやさしく包み込んでいます。
白という色が、時に無機質に見えがちな中で、本作は“白の流れ”を見せてくれます。釉薬が施された軌跡がそのまま意匠となり、釉だまりや流れ落ちた跡が、まるで雪解け水の痕跡のように、静かに器の景色を描いています。
白とは本来、何色にも染まらない存在。けれどもこの茶盌における白は、さまざまな表情を持ちながら、見る角度や光によって、その意味を柔らかく変えていきます。
緋と白の余白がつくる対話
土味の強い胴部には、志野特有の“緋色(ひいろ)”が美しく現れています。これは、焼成中に器と火とが交わることで生まれる、まさに“炎の記憶”とも呼ぶべき色彩。鉄分を含んだ土が赤く発色するこの緋色は、単なる装飾ではなく、器の深層から浮かび上がる、内なる命のような存在です。
そして、その緋の上から食い込むようにかかる白釉の厚み。そのコントラストが、茶盌の造形に奥行きとリズムをもたらし、まるで火と雪が共存するような、不思議な調和を生み出しています。釉薬の下には、視線を引き寄せる静かなアクセントとなっています。まるで枯れた草の影、あるいは風にゆれる細枝のように、詩的な気配を添えているのです。
土と触れ合う感触の美学
五斗薪土を主とし、百草土や黄土を混ぜた土は、小石を含み、素朴でありながら奥深い表情を見せてくれます。表面にあらわれる微細な気泡、ぼこぼことした肌理は、掌にしっとりと馴染み、視覚と触覚の両方で“土”の力を感じさせます。
特にこの作品は、全体的にやや色白に焼き上げられており、伝統的な志野釉の白さを際立たせながら、釉の透明感と厚み、そしてその奥に潜む鉄絵や土の風景を、静かに見せてくれます。
静寂の中に宿る生命
柳下季器様の作品は、一見すると静かで控えめな佇まいをしています。けれども、そこには確かに「生きた土」と「燃えた火」とが宿っており、使い手が器を手にしたとき、その存在感は内側から湧き上がってきます。
《志野茶盌》もまた、視線を逸らせなくなるような不思議な引力を持っています。それは、器が語りかけてくるからです。釉薬のたまりに映る光、緋のにじみに含まれる時間、土が奏でる静かな鼓動——
それらすべてが、この茶盌をただの「白い器」ではなく、「語る器」として存在させています。
柳下 季器(Hideki Yanashita) プロフィール
陶芸家 1967 –
東京都生まれ。現在は三重県伊賀市を拠点に活動。桃山時代のやきものに魅了され、陶芸の道へ進む。信楽での修行を経て三重県・伊賀に自ら穴窯を築窯し、「神田窯」を開窯。杉本貞光氏に薫陶を受け、侘び寂びの世界を独自の視点で深く探求しつつ、楽焼や焼締、井戸、織部など多彩な作品を制作しています。柳下氏の創作において重要なテーマとなるのは、先人の技法や精神を深く学びつつも、現代の素材や独自のアプローチを取り入れることで生まれる新たな極みへの探究です。その作品は時代に左右されない本質的な美を問いかけ、観る者をより深い芸術の世界へと誘います。
活動拠点
三重県・伊賀
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作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。