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志野ぐい呑 柳下季器

志野ぐい呑 柳下季器

通常価格 $138.00
通常価格 セール価格 $138.00
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税込。 配送料はチェックアウト時に計算されます。

幅8.2cm×6.4cm   高さ4.7cm

柳下季器(やなした ひでき)様による《志野ぐい呑》は、桃山陶の粋ともいえる志野焼の精神を現代に継承しつつ、独自の造形美を加えた小さな名品です。中でも、あえて取り入れられた「割り高台」のデザインが、古典と現代を静かに交差させる視覚的な装置として働いており、見る者の感覚を研ぎ澄ませます。このぐい呑は、美濃の土が持つ温かみと、志野釉の持つ豊かな表情を最大限に生かしながら、「今」を生きる志野としての気配を湛えています。


志野焼の起源と美濃陶の中での位置づけ

志野焼は、美濃焼の中でも特に重要な技法であり、日本で初めて白を主調とした陶器として確立された焼物です。その起源は安土桃山時代末期、16世紀後半にさかのぼります。この時代、織田信長や豊臣秀吉らによって茶の湯文化が武家社会に広まり、美濃(現在の岐阜県)では瀬戸黒・黄瀬戸・織部などと並び、茶陶を中心とする革新的な焼物が次々に生み出されていきました。中でも志野焼は、室町時代の茶人・志野宗信(しのそうしん)が美濃の陶工に依頼したのが始まりともされ、当初は「志野天目」とも呼ばれたと言われています。志野焼の成立には、東山文化の美意識や禅の思想、「侘び・寂び」といった日本独自の美学が深く関わっています。白磁や青磁など中国陶磁の写しではなく、日本人の手によって生まれた初めての本格的な白い陶器として、志野焼は日本陶芸史の中でも特異な地位を占めています。


もぐさ土と志野釉——白の質感が語るもの

志野焼の素地に使われる「もぐさ土」は、美濃地域特有の鉄分が少なく、やや紫がかった色を持つ白土です。この土は耐火性が高く、焼き締まりが少ないため、素朴ながらも上品な風合いをもたらします。これにかけられるのが、「志野釉」と呼ばれる長石釉。長石を砕いて精製し、厚くたっぷりと施すことで、釉膚にぽってりとした厚みが生まれ、焼成時の縮れやゆらぎが美しい表情を作り出します。その釉肌には、柚子の皮のような微細な凹凸「柚肌(ゆずはだ)」や、きめ細かな「貫入(かんにゅう)」が自然に浮かび上がり、見る角度や光の加減によって、柔らかな陰影が器全体に広がります。
また、釉薬のかかりが薄い口縁や胴の一部には、赤みがかった「火色(ひいろ)」と呼ばれる焼成痕が現れ、白の中に炎の記憶が刻まれたような、情緒ある景色が生まれています。


国産陶芸の頂点「卯花墻」に通じる精神

志野焼の中でも特に知られるのが、三井記念美術館に所蔵されている国宝《志野茶碗 銘 卯花墻(うのはながき)》です。この茶碗は、国産の茶陶としては本阿弥光悦の《不二山》と並び、唯一国宝に指定されている存在であり、志野焼の頂点に位置づけられています。その魅力は、文様の鉄絵の発色、釉薬の柔らかな膚、そして火色の繊細な変化にあり、茶の湯の精神「侘び・寂び」を最も端的に表現した器のひとつとされています。柳下季器様の《志野ぐい呑》も、そうした志野の精神性を踏襲しながら、酒器という別の形式の中に凝縮して焼き上げられた作品です。


割り高台に込められた造形の遊び

この作品のもうひとつの特筆すべき点は、「割り高台」と呼ばれる独自の脚部の意匠です。円形の高台の一部が切り落とされたような構造は、茶陶にはあまり見られない大胆な造形であり、器の視覚的なバランスを意図的に崩しつつも、しっかりと自立性を保っています。こうした“ズラし”の美学は、まさに現代に生きる作家・柳下季器様ならではの表現であり、古典の中に新しさを息づかせるための、静かな挑戦でもあります。見る角度や置き方によって印象が変わるこの高台は、器に動的な魅力と詩的な余韻を与えてくれます。


使い込むことで育つ、白の景色

志野焼のぐい呑は、使えば使うほど、その表情を変えていきます。
釉薬に含まれる貫入に酒が染み込み、温度差や湿度の変化に反応しながら、器は少しずつ「育って」いきます。新品のときには見えなかった微細な変化が、日々の晩酌の中でふと現れ、その都度使い手に新たな発見と感動をもたらしてくれます。それは、器が“完成品”ではなく、時間とともに変化する“生きた存在”であることを教えてくれる美の在り方。柳下季器様の《志野ぐい呑》は、まさにそうした「日々を積み重ねることで成熟していく器」として、使う人の生活に静かに寄り添います。


志野の歴史を継ぎ、いまを生きる器

《志野ぐい呑》は、16世紀末に誕生した美濃の焼物文化を背景に持ちながら、現代の暮らしと美意識に応じて再構成された、まさに“いまを生きる志野”です。それは単なる古典の踏襲ではなく、伝統の精神と素材に向き合いながら、造形や焼成において柳下季器様独自の感覚が注ぎ込まれた、静かな革新の器です。

古くて新しい。荒々しくもやさしい。素朴でありながら緻密。
志野という焼物の本質が、この小さなぐい呑の中に、見事に息づいています。

 

柳下 季器(Hideki Yanashita) プロフィール
陶芸家 1967 –
東京都生まれ。現在は三重県伊賀市を拠点に活動。桃山時代のやきものに魅了され、陶芸の道へ進む。信楽での修行を経て三重県・伊賀に自ら穴窯を築窯し、「神田窯」を開窯。杉本貞光氏に薫陶を受け、侘び寂びの世界を独自の視点で深く探求しつつ、楽焼や焼締、井戸、織部など多彩な作品を制作しています。柳下氏の創作において重要なテーマとなるのは、先人の技法や精神を深く学びつつも、現代の素材や独自のアプローチを取り入れることで生まれる新たな極みへの探究です。その作品は時代に左右されない本質的な美を問いかけ、観る者をより深い芸術の世界へと誘います。

活動拠点
三重県・伊賀

略歴
1967年 東京都生まれ
1989年 専門学校桑沢デザイン研究所卒業
2002年 三重県伊賀市に穴窯を自身で築窯(神田窯)
2002年 高島屋横浜店にて二人展
2004年 高島屋横浜店にて個展(以降開催)
2007年 高島屋京都店にて個展(以降開催)
2007年 杉本貞光先生に薫陶を受ける(以降現在まで)
2008年 高島屋大阪店にて個展(以降開催)
2013年 JR名古屋タカシマヤにて個展(以降開催)
2023年 日本橋三越本店にて個展(以降開催)

 

柳下季器様との対談

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    作品により貫入などによる、茶碗への染み込みが発生することがございますが、それも経年変化の味わいとしてご理解いただきますようお願いいたします。

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