鉄釉水指 小川文齋
鉄釉水指 小川文齋
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幅 : 17.0cm×17.0cm 高さ : 17.0cm
鉄釉水指(てつゆうみずさし)
― 六代 小川文齋(興) 作
この「鉄釉水指」は、六代 小川文齋(興)様の手による、静けさと力強さが同居する気品高き一作です。鉄釉の持つ重厚な光沢に、緑釉がわずかに滲み流れる様が相まって、まるで深山にひそむ泉のような気配を漂わせています。蓋に施された縄目の把手は実用性を超え、古の器物を想わせる造形的なアクセントとなっており、茶室の空間に独自の陰影と風格を添えてくれることでしょう。
艶やかでありながらも、決して華美に陥らず、しっとりとした肌合いが視覚的にも触覚的にも落ち着きをもたらします。鉄釉の黒と茶の中間的な発色は、焼成の加減によって自然に現れるものであり、その不確かさの中に「一期一会」の精神を見出すことができます。表面に現れたごく細やかな轆轤目の痕跡もまた、機械的な均質とは異なる、“人の手”による呼吸を感じさせ、茶の湯の道具としての本懐を十二分に果たす造形美となっています。
茶の湯の中で生きる器
水指は、茶の湯において「清め」の象徴です。点前の間、常に客の正面に位置し、その姿が空間全体の印象を左右します。本作に見られる抑制された佇まいと豊かな釉景は、まさにその役割にふさわしい品格を備えており、目にする者に“澄んだ気”を届ける力を秘めています。
とくに注目すべきは、蓋の縁にかけて柔らかく溶け出す翠釉の扱いです。六代文齋様が長年にわたり探究してきたこの色彩は、ただ美しさを演出するためだけではなく、彼の精神性――すなわち「平和を願い、命の循環を感じる」視点から生まれた色です。その翠が黒褐色の鉄釉と溶け合う様子は、まさに“陰と陽”“剛と柔”の共演といえるでしょう。
文齋窯の系譜と革新
この器に込められた造形美と思想性は、150年以上の歴史を持つ文齋窯の伝統を礎としています。
初代・小川文齋(文助)は1809年に加賀に生まれ、陶業の道を志して九州や肥前有田などを巡り、築窯の技術を習得。その後、京都・鹿背山にて窯を開き、一条家に認められ「齋」の字と家紋を賜ったことから、“文齋”の名がはじまりました。1873年には京都五条坂に窯を移し、以降六代にわたってその技術と精神を継承してきました。
六代 小川文齋(興)様は、大学院で彫刻を学んだのち陶芸の道に入り、日展や京展で数々の受賞を重ね、現代的な感性と伝統技法とを融合させた作品群で注目を集めています。近年では「緑色の人」として知られ、翠釉の表現を軸に平和への祈りを形にする創作活動を展開しています。
平和と美の“器”
六代文齋様が語るように、「争いのない世界への願いを、器というかたちに込めたい」。
本作のような静謐な水指においてこそ、その想いはひときわ明確に表れています。黒の中に広がる光、釉薬の流れが作る偶然の風景。これらは決して作為では得られず、炎と土と水、そして人の手と心がひとつに結ばれて生まれる“焼き物の奇跡”です。
そしてその奇跡を受け止めるのが、茶の湯の場――つまり、人と人とが向き合い、心を交わす空間です。そこにこの水指があることで、空気が静まり、時間がゆるやかに流れ始める。まさに、用の器でありながら精神性を深く内包した“象徴”といえるでしょう。
鉄釉水指――それは、静けさの中に宿る強さ、
そして翠の一滴に込められた平和への願いを湛える、文齋窯の結晶。
今この時代にこそ求められる、美と祈りの形。
ぜひ茶室にて、その気配と存在感をお確かめください。
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