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青瓷桃香合 諏訪蘇山

青瓷桃香合 諏訪蘇山

Regular price ¥132,000
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幅 : 6.1cm 高さ : 4.2cm

はじめに――「香合」とは何か

 香合とは、茶道において香を納めるための蓋物であり、炉の季節には炭手前の際、風炉の季節には主に客前で拝見に供される、最も小さく、最も精神性の高い茶道具のひとつです。
 器の小ささゆえに、作家の審美眼や造形力、また遊び心が凝縮される領域でもあり、香合は単なる香料容器ではなく、四季や祝祭、神話、自然界の象徴を造形として写し取ることで、茶席に物語と詩情を運ぶ特別な存在となります。


桃という主題――瑞兆と長寿の象徴

 本作「青瓷桃香合」は、その名の通り“桃”をかたどった作品であり、ただの写実にとどまらず、香合という象徴的器形の中に、桃が持つ吉祥性と精神性を丁寧に溶け込ませた意匠です。

 桃は古来中国において、長寿・魔除け・春の到来を象徴する果実として尊ばれてきました。神話の中では西王母が不老不死の仙桃を育てる場面が語られ、仙界の果実としての意味も備えています。とりわけ宋代以降は陶磁の意匠においても頻繁に扱われる主題となり、桃型香合は文人たちの愛玩の対象でもありました。


造形と構成の妙

 四代 諏訪蘇山様によって制作された本作は、単なる模倣を超えた再解釈による写実の到達点にあります。
 まず全体のフォルムは、丸みを帯びた果実のふくらみを自然に表現しながらも、左右の稜線にはごくわずかな陰翳が設けられ、視覚的な立体感と安定感が両立されています。

 蓋部と身部の接合線は桃の割れ目に巧みに沿って設計され、継ぎ目が目立たず、一体感を持った造形が保たれています。葉のかたちを模した突起があしらわれており、器に対する視線の導線を自然に誘導するとともに、器物に命を宿す詩的アクセントとなっています。


蘇山青磁――静けさの中にある発色の奇跡

 釉調は、初代 諏訪蘇山様が25年をかけて完成させた「砧青磁」の再現を基礎に、四代目によってさらに洗練された蘇山青磁特有の淡く澄んだ翡翠色が全体を覆っています。
 桃の稜線や葉の起伏部分には、釉薬がやや厚く溜まり、柔らかい翳りと色の濃淡が生じており、まるで光と影が器表でたわむれているかのような景色が立ち上がります。

 また、釉層の透明感と深みのある青味は、器物のサイズが小さくとも、その存在に静かな荘厳さを与えています。茶席において香を納めるその一瞬、蓋を外した手元に一つの宇宙が生まれる――それこそが、蘇山青磁の力です。


茶の湯空間と香合の演出

 茶席において本作が用いられた際、その意味と演出は多層的です。
 春には「桃の節句」や「百花繚乱」の趣向のもと、花や草木との取り合わせにより生命の兆しを演出し、秋には実りを予感させる瑞果として、落ち着いた景色の中にほのかな華やぎを添えます。

 また、抹茶の豊かな香気とともに香合を拝見する場面では、器が語る物語が、茶人と客との間に静かな会話を生み出すのです。香合がもつ「沈黙の力」こそが、茶席の密やかな美を支える根幹なのです。


歴史的意匠と現代の継承

 宋代龍泉窯には、かつてこのような写実造形の青磁香合が実在しましたが、多くは断片的に伝わっているにすぎません。本作は、そうした伝世品の構造と美意識を綿密に研究しながら、現代的な完成度と精度で蘇山様が再構成したものです。

 再現ではなく、継承と創造。そこにこそ四代目の作陶思想が凝縮されています。


作家略歴と思想

 四代 諏訪蘇山様は1970年、京都市に生まれ、父・三代 諏訪蘇山様と、母で塗師の十二代 中村宗哲様のもとで育ちました。2002年に四代を襲名されて以降、伝統的な青磁作品に加えて、宇宙や星・暁・春霞などをモチーフとした自由な作風も展開し、練込や蛍手、飛青瓷など、多彩な技法で現代の青磁表現に挑戦されています。

 また、作陶にあたっては常に「使い手の物語を想像しながら器を作る」という母からの教えを大切にし、「使われてこそ完成する器」を信条とされています。本作もまた、使い手の心に静かに寄り添うことを宿命づけられた器物なのです。


結語

 「青瓷桃香合」は、単なる陶磁の工芸品ではありません。それは、古代中国の思想・南宋の器物文化・日本の茶の湯の精神・そして現代の美意識が一つに融け合った、静かな芸術です。

 掌に乗せたときの滑らかさ、光に透ける釉の揺らぎ、そして桃というかたちに託された物語――そのすべてが、香を納めるという静寂の所作のなかで、器と人、そして時代を超えた対話を生み出します。

 この小さき一器の中に宿るのは、古より変わらぬ、美と祈りのかたちなのです。

 

四代諏訪蘇山 略歴

1970年 京都市に生まれる 父 三代 諏訪蘇山・母 十二代 中村宗哲 三女
1988年 京都市立銅駝美術工芸高等学校漆芸科卒業
1992年 成安女子短期大学造形芸術科グラフィックデザインコース映像専攻卒業・専攻科修了
1996年 京都府立陶工高等技術専門校成形科・研究科修了
1997年 京都市伝統産業技術者研修陶磁器コース本科修了 父と共に陶磁器の制作活動 各地にて中村宗哲展に出品、哲公房に参加
2002年 四代諏訪蘇山を襲名
現在 各地にて諏訪蘇山展を開催
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