鳴海織部ぐい吞 柳下季器
鳴海織部ぐい吞 柳下季器
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幅6.9cm 高さ4.9cm
柳下季器 作 — 色と土が交わる、記憶の断層を掌に宿す器
ひとつの小さな器のなかに、いくつもの景色と記憶が折り重なる。
柳下季器(やなした ひでき)様による《鳴海織部ぐい呑》は、まさにそうした“視覚の多層性”と“造形の調和”を手のひらの中で味わうことのできる、現代の織部焼の傑作です。
それは桃山陶の自由闊達な精神を継承しながら、現代の静けさと洗練をともなって生まれた、濃密な「小宇宙」と言えるでしょう。
鳴海織部という“複合的な焼物”の魅力
鳴海織部(なるみおりべ)は、織部焼の中でもとりわけ高度な技法と構成力が求められる表現形式です。
それは、異なる土、異なる釉、異なる描線が器の上で共存しながら、決して混乱せずに調和を保つという、まさに“焼物における総合芸術”とも言える存在。
単一の美しさではなく、異なる要素が響き合いながら共鳴することで、新たな景色を生み出す——それが鳴海織部の美の本質です。
柳下様は、その鳴海織部の本質を見事に掌の中に封じ込めています。
ぐい呑という限られた空間の中で、釉・土・絵・造形が静かに、しかし確かな主張をもって交錯し、飲み手の目と手と感覚に、織部の世界をひとつひとつ丁寧に語りかけてきます。
色彩と質感のレイヤー──「見る」ことの豊かさ
このぐい呑は、まず視覚的にとても豊かな表情を見せてくれます。
器の一部には、白泥が化粧掛けされ、その上に軽やかな筆致で鉄絵が施されています。線はあくまで簡潔で、抑制されながらも、土と対話するように描かれており、その線が釉薬の下で微かにゆらぎ、静かな息づかいを感じさせます。
一方で、器の別の面では、銅緑釉がしっとりと流れ落ち、「織部緑」の深く豊かな色彩が広がります。
それは、まるで苔の湿り気を感じさせるような、または庭園の木陰に沈む光の気配のような、抑えられた緑。飾りではなく、呼吸する風景として器に染み込んでいます。
土そのものの赤褐色もまた美しい役割を果たしています。そこには釉のかからなかった素地のざらつきや、焼成によって浮かび上がった火色が自然に表れ、緑・白・赤土の三者が、対話するように共存しているのです。
ぐい呑という形が語る“掌の風景”
ぐい呑という器は、茶碗や鉢のような“見せる器”とは異なり、手に取り、唇に運び、口中に伝わる感覚までが評価の対象となる、極めて身体性の高い器です。
柳下様のこの《鳴海織部ぐい呑》も、視覚的な要素に加えて、器としての「使われる喜び」に満ちています。
口縁はやや薄めに仕上げられ、口当たりが非常に滑らかです。胴はふくらみがありながらも、指が自然と収まるような柔らかなくびれをもち、手のひらに吸い付くような収まりの良さ。
そうした“使うための美”が、単なる観賞用の器とは一線を画す、生活の中にある芸術を形づくっています。
焼物における“記憶の断層”としての鳴海織部
この器において、特筆すべきはその「表面の複層性」です。
白泥・鉄絵・釉薬・素地——それぞれが重なり合いながらも、互いに溶け合わず、ひとつの層として存在し続けている。
それは、まるで考古学の地層のように、ひとつの表面が“過去と現在の交差点”となっているかのようです。
この鳴海織部ぐい呑は、まさに「記憶の断層」。
一見すると抽象画のようでありながら、どこか風景画のようでもあり、見る者の記憶や感情を静かに揺さぶります。ある人には苔の庭に、ある人には古地図の断片に、またある人には夢の中の建築物のようにも映るかもしれません。
柳下様は、そうした「個々人の記憶と呼応する余白」を、この小さな器に巧みに織り込んでいます。
現代における“織部”のかたち
織部焼は、千利休の侘び茶に対して、自由さ・変化・色彩・装飾を重視した、桃山陶の象徴です。
そのなかでも鳴海織部は、もっとも構成的で複雑な美を追求したスタイルといえるでしょう。
柳下季器様は、その鳴海織部の精神を、過剰な主張にせず、あくまで静かな調和として表現しています。
それはまるで「和音のように響き合う造形」。主役は定めず、すべての要素が同格でありながら、器としての統一を損なわない——それは、異なる価値観が共存することの美しさを教えてくれます。
共に育つ器——色と土と、あなたの時間と
この器のもう一つの魅力は、「育つ器」であることです。
使い込むうちに、釉薬の表面には貫入が入り、微細な染みがあらわれ、酒の成分が器に浸透していきます。
それは劣化ではなく、「共に過ごした時間の記録」。
織部緑も、白泥も、赤土も、少しずつその表情を変えていきながら、**使い手だけの“風景”**となっていくのです。
この鳴海織部ぐい呑は、そうした「器と人との関係性の深化」を予め織り込んだ、時間と共に歩む美しい道具です。
一献ごとに、見える景色が変わる。まさにそれは、器が使い手の人生に寄り添うことを前提とした、柳下様の静かな構想です。
柳下 季器(Hideki Yanashita) プロフィール
陶芸家 1967 –
東京都生まれ。現在は三重県伊賀市を拠点に活動。桃山時代のやきものに魅了され、陶芸の道へ進む。信楽での修行を経て三重県・伊賀に自ら穴窯を築窯し、「神田窯」を開窯。杉本貞光氏に薫陶を受け、侘び寂びの世界を独自の視点で深く探求しつつ、楽焼や焼締、井戸、織部など多彩な作品を制作しています。柳下氏の創作において重要なテーマとなるのは、先人の技法や精神を深く学びつつも、現代の素材や独自のアプローチを取り入れることで生まれる新たな極みへの探究です。その作品は時代に左右されない本質的な美を問いかけ、観る者をより深い芸術の世界へと誘います。
活動拠点
三重県・伊賀
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