テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の注目すべき陶器
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長年、茶の湯ややきものに親しんでこられた方なら、人気番組「開運!なんでも鑑定団」で思わず見入ってしまった経験が一度はあるのではないでしょうか。番組は視聴者の持ち込むお宝をプロの専門家が鑑定する構成ですが、とりわけ陶器・茶道具の回は、日本のやきもの史と“眼”の大切さを学べる格好の教材です。
まずはこちらから、1分間の短い動画ですが面白いです。
鑑定士総評「世界的なお宝。今から3400年くらい前の殷王朝の青銅器に間違いない。「斝(か)」といって酒を入れたもの。三脚二柱一把手という基本形。火の上に置いて酒を温めた。依頼品はやや肉薄の銅質で、全体を埋め尽くす饕餮文(とうてつもん)は一段彫りで非常に簡略。足がついている胴の部分は素朴でやや粗雑。何よりも時代を表しているのは底が平らな事。饕餮文の「饕」は金銭、「餮」は食物をむさぼり食うという意味。この世の邪悪を全てむさぼり食って精霊を守護する鬼の面。実に力強い彫り方で、これを注文した施主の力量が分かる。大変に状態が良い。殷時代の青銅器がこうして出てくるのはまさに奇跡。」
1) 茶の湯を中核にした“桃山〜江戸初”系:志野・織部・古瀬戸・唐津・信楽
鑑定士総評「茶碗が1万円、茶入が10万円。茶碗は偽物。形が悪く、おまけに幻の名工・江存の判子が刻み込んである。やる気でやった偽物。茶入は良い物。江戸時代前期の瀬戸肩衝の茶入。瀬戸特有の椿釉をしっかり掛けて、その上に飴釉を垂らして景色を作っている。元はちゃんとした箱に入っていたはず。それを取り上げて、茶碗と共に仕立て屋に仕込ませたのだろう。もし元の箱に入っていて次第が整っていれば100万円でもよい茶入。」
2) 京焼の巨頭:野々村仁清
なぜ注目か
器形の端正さ、意匠の洗練、そして**箱書・由緒(次第)**の整いがものを言う世界。高台の切り回し、素地と釉の調和、識箱の筆跡などが重要です。参考:番組公式回
「野々村仁清の鉢」(2023年3月28日放送)——“仁清ではない近代京焼”とする具体的な理由が、高台や素地の肌合い、絵付の性格から丁寧に語られます。
鑑定士総評「近代になってから焼かれた京焼の鉢。野々村仁清はろくろの名手で、紙のように薄くてふっくらとした焼き上がりの感覚を持っている。依頼品のようにザラザラした感覚ではない。そして絵が違う。依頼品は南画や禅画に通じるような絵。仁清の絵ではない。箱書きはもっともらしいことが書かれている。偽物に仕立ててしまった。裏に判子があるが、京焼の品質保証のような意味でつけられた判子。」
3) 有田・伊万里・柿右衛門様式・古九谷
なぜ注目か
焼成技術・絵付け・状態の三拍子で値が動くジャンル。白磁の地肌の清明さ、呉須の発色、上絵の艶や剥落、縁のアタリ・窯傷の扱いなどを総合的に見ます。参考:番組公式回
「古九谷の大皿」(2023年4月25日放送)——古九谷の様式・色面構成の読み解きに役立つ典型例。合わせて**「古伊万里 金襴手の鉢」(2023年6月13日放送)**も絵付と造形の手がかりになります。
鑑定士総評「偽物というより写し物のコピー商品。原点になった本歌はポーラ美術館が所蔵している亀甲鶉文の大皿。もし本物がオークション市場に登場したら1億円から始まり際限なく上がるような値打ちのあるもの。古九谷の色は、深い海の底を見るような重厚さのある透明感。依頼品のような薄い色ではない。そして裏行。近代的な陶磁工房で作った食器皿の高台をしている。ただ、救いは嫌味がない。」
4) 近現代巨匠:北大路魯山人
なぜ注目か
作家研究が進んだ分、典型作は競争力が強い一方、工房作や後年の類型化には注意が必要。釉薬の乗りや形の張り/締まり、箱書の整いを要チェック。参考:番組公式回
「北大路魯山人の焼物3点」(2024年8月27日放送)——釉と形の具体論が学べる好回。併せて**「河井寬次郎の茶碗」(2023年7月18日放送)**は“打薬”など技法の読み解きに最適です。
鑑定士総評「魯山人の作品ではない。この手の偽物は一時かなり出回った。箱に落款が書いてあるがとんでもない偽物で、魯山人の書体はもっと深みのある風雅なもの。裏に「ロ」の字を入れてしまったのはひどい作業。」
5)数十年に一度”の大発見——曜変天目の話題性
曜変は本来、中国南宋の建窯で焼かれた天目茶碗で、現存完器は日本に伝来したごく少数。番組でも2016年の回が大きな話題になりました。
こちらはまず、エピソードが面白いです。「ご当地ラーメン(徳島ラーメン)の激戦区で「支那そば 巽屋」を営んでいる。お宝は、腕利きの大工にして骨董好きだった曾祖父が、明治時代に三好長慶の子孫が暮らす武家屋敷の移築を請け負った際、大枚を叩いて購入した大量の骨董の一つ。その殆どが昭和20年の徳島大空襲で焼失してしまったが、このお宝は三好家の家系図など雑多な物と一緒に郊外の資材置き場にしまいっぱなしになっていたため、難を逃れた。自分なりに調べたところ、凄いお宝のようだが、本当に価値があるものなのかどうか知りたい。」
鑑定士総評「最大の発見。この茶碗は12世紀から13世紀、中国の南宋時代に福建省の建窯で焼かれた曜変天目に間違いない。日本にもたらされた天目茶碗は数がかなりあるが、ただその中で曜変というのはたった3点、しかもその全てが国宝。今回この依頼品が出たことによって、4点目が確認されたということになる。漆黒の地肌に青みを帯びた虹のような虹彩がむらむらと湧き上がっており、まるで宇宙の星雲をみるよう。鉄分をかなり多く含んだ土を焼き締めてあるので石のように硬い。それを丁寧に真ん丸に削り出した蛇の目高台。これは国宝「稲葉天目」の高台とほぼ同じ。高台の真ん中に「供御」という二文字が彫ってあるが、これはかつては天皇や上皇に差し上げる食事のための容器であったことを表した。ところが時代が下り、室町時代になると将軍が使うものにも「供御」と彫るようになった。裂や曲げ物の容器、そして三好家の系図がついているが、これらによって室町幕府第13代将軍足利義輝を頂いて権勢を奮った三好長慶が、足利家から取得した東山御物の一碗であることは間違いない。もしこの茶碗が信長・秀吉・家康が所有し、さらに現代に伝わったものであれば国宝になっていたかもしれない。」
「焼物は興味ない」「いらない」と冷たく言われたが……。
鑑定額ランキングを見ると、2014年の1位は志野茶碗でした。
エピソード 骨董収集が趣味の水島さん。20代から全国をまわり、各地の旧家を訪ねては名品を手に入れてきた。今回のお宝も5年程前、長野の旧家のから手に入れたもの。以来大切にしてきたのだが、可愛い孫達にお茶を嗜んでもらいたいと考え、昨年、この茶碗を譲ったところ「焼物は興味ない」「いらない」と冷たく言われた。このままだと捨ててしまいかねないので、孫が大切に扱ってくれるよう、良い物と証明して貰いたい。
鑑定士総評「桃山時代に作られた志野の茶碗に間違いない。腰高の茶碗で、極端な勾配。一気にすぼんでおり、極めて珍しい形。口作りは山道状の僅かな高低を与え、穏やかにしてある。厚くかけられた長石釉が実によく融けており、そのため下に描かれた松島の文様がほのかに浮かんでいる。高台の中に片仮名の「オ」という字がへらで刻まれているが、この窯印は東京国立博物館に所蔵されている銘「振袖」という茶碗にあるのみ。これは岐阜県可児市の大萱(おおかや)にある志野の古窯址群で作られた物の一つである証明になっている。箱がまた良い。南部伯爵家は利久という人物が茶の湯に精進をして著名。おそらくこの茶碗は利久の時に南部家に入ったものだろう。そして跡見玉枝の名があるが、南部家から謝礼や記念の意味で跡見家に入ったのだろうという流れが見える。」