青瓷平茶盌 諏訪蘇山
青瓷平茶盌 諏訪蘇山
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幅 : 15.2cm 高さ : 5.8cm
青磁とは、陶磁器の一種であり、釉薬に含まれる微量の鉄分が、酸素の少ない「還元炎焼成」という焼成法によって発色することで生まれる青から青緑の釉調を特徴とします。その色彩は単なる「青」ではなく、自然光の中で日々刻々と変化し、見る角度や光の強弱によって翡翠(ひすい)のような深みと透明感をもつ幽玄な輝きを放ちます。
その始まりは、紀元後1~2世紀の中国・後漢時代。浙江省周辺において草木灰を原料とした灰釉陶が進化し、偶然的に生まれた鉄分による青緑の発色が、のちに「青磁」と呼ばれるものの源流となります。唐代の**越窯(えつよう)において洗練され、五代・北宋には汝窯(じょよう)**で貴族文化の中核を担う青磁が誕生します。
とりわけ南宋(1127–1279)期には**龍泉窯(りゅうせんよう)**が隆盛を極め、王侯貴族に愛された砧青磁(きぬたせいじ)が創出されます。翡翠のような気品を湛えるその色彩と、儀式的・宗教的な意味を帯びた器形は、皇帝の器・礼の器としての格式を持ち、青磁は単なる工芸品ではなく、宇宙の秩序を象徴する精神的な存在ともなったのです。
作品解説:青瓷平茶盌
本作「青瓷平茶盌」は、そうした長い青磁の系譜と思想を受け継ぎながらも、茶の湯の空間に即した用途と美の追求を目的として、四代 諏訪蘇山様 によって創作された現代青磁の代表作です。その釉色は、初代 諏訪蘇山様 が25年にわたる研究の末、明治40年に完成させた「蘇山青磁」を継承しており、翡翠色の中に微細な光の揺らぎと深層の陰影を含む、まさに呼吸する色彩ともいうべき輝きを放っています。
造形美と意匠の考察
1. 平茶盌という器形の意味
平茶盌は、一般的な抹茶碗と異なり、開口が広く、胴部が低く構成された器形で、主に盛夏の茶会で用いられます。視覚的な清涼感に優れており、器の内部に生まれる静謐な空間が、飲み手の心を鎮め、自然との一体感を演出します。
本作では、その平茶盌の造形が極めて端正に設計されており、口縁はごく僅かに外反し、見込みは広々として安定感があり、抹茶が湛えられた際に生まれる緑の面が、器そのものの景色と美しく重なり合うよう意図されています。
2. 高台の設計と重心の妙
やや控えめに仕上げられた高台は、器全体の重心を下げ、茶席での安定性を高めています。また、見込みから高台にかけてのわずかなカーブと角度の変化が、手取りの際のフィット感を増し、点前においても極めて機能的です。
釉調――蘇山青磁の深遠なる世界
青磁において最も重要な要素は、何よりも釉の色と質感にあります。本作に施された翡翠色の釉は、透明度が高く、微細な光の屈折と反射により、見る者の視点によって表情を変える複雑な発色を見せます。
釉薬の厚みは、胴部ではやや厚く掛けられ、見込み部では繊細に調整されており、外側は深く、内側は浅く――このコントラストによって、器の中に陰と陽、静と動の対話が成立します。高台脇にわずかに現れる胎土の赤みとの対比もまた、青磁釉の色味を一層際立たせる構成となっています。
茶の湯空間における機能性と精神性
この平茶盌は、単なる器物にとどまらず、茶席において空間と時間の質を変える存在です。特に、真夏の涼席においては、点てられた抹茶の緑が器の青と重なり、そこに浮かび上がる水面のような景色は、もはや一幅の水墨画のようでもあります。
さらに、器が持つ空白の美――釉色の中に沈黙を湛えたその静けさは、まさに禅に通じる無音の哲学といえるでしょう。
歴史的背景と諏訪家の継承
初代 諏訪蘇山様 は加賀藩士の家に生まれ、明治維新後に陶画の道に入り、やがて南宋・龍泉窯の砧青磁を再現すべく、25年余に及ぶ釉薬と胎土の研究に没頭しました。明治40年には「蘇山青磁」が完成し、1917年には「帝室技芸員」としてその功績を認められました。
四代目である現代の 諏訪蘇山様 は、父・三代目と母・十二代 中村宗哲様 の影響を受けながら、石膏型成形や練込、飛青瓷、蛍手などの技法を柔軟に取り入れつつ、現代青磁の可能性を広げています。本作にも、「器には物語を宿すべし」という母からの教えが深く息づいており、その静けさの中に、長い時間の記憶と精神性が内包されています。
結語――一碗に宿る宇宙
「青瓷平茶盌」は、ただの茶碗ではありません。それは、2000年に及ぶ青磁の歴史と、器に宿る祈りの文化、そして四代 諏訪蘇山様 の感性と研鑽とを融合させた、現代に生きる静謐な宇宙なのです。
翡翠の色は、常に定まることなく、光と呼吸を共にします。平茶盌という静かな構成の中に、無限の広がりと、触れ得ぬ深淵を湛えるこの作品は、まさに青磁の美学と精神性を最も純粋なかたちで体現した逸品と申せましょう。
掌に乗せるとき、その冷たさが徐々に温もりへと変わり、器が語りかけてくる――青瓷とは、自然と技術と精神の交差点に咲く、一輪の詩なのです。
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