芸術生成論2『京焼・清水焼の歴史と幕末の巨匠:初代宮川香斎(真葛長造)の軌跡』

京都は日本の伝統文化の宝庫として知られ、なかでも「京焼・清水焼」はその代表的な存在です。本記事では、京焼の歴史幕末の作家たちが紡いだ独自の魅力に迫るとともに、その一翼を担った**初代宮川香斎(真葛長造)**に焦点を当てて紹介します。

京焼・清水焼とは

京都で受け継がれてきた伝統技法や意匠に基づき、手造り・手描きによって生産される陶磁器を総称して「京焼・清水焼」といいます。その歴史は400年以上に及び、当初は貴族や茶人たちの要望に応えるため、日本各地東アジアの技術やデザインを積極的に取り入れてきました。その結果、特定の原料や技術に限られず多様な様式が生まれたのが特徴です。

  • 京焼:京都で生産される陶磁器全般の総称
  • 清水焼:清水寺の麓で盛んになった磁器生産によって発展し、現代では「京焼=清水焼」として扱われることが多い

清水焼の産地と特色

  • 主な産地:京都市東山区や宇治市の炭山地域など
  • 正式名称:経済産業大臣指定の伝統的工芸品として「京焼・清水焼」
  • 特徴:小規模な家族経営の窯元が多く、手作りで生産しているため流通量は限られる。しかし、高いデザイン性と高度な技術によって伝統工芸としての価値を守り続け、京都文化の象徴的存在であり続けている。

京焼以前から続く京都のやきもの史

京都は平安・鎌倉・室町時代を通じて政治・経済・文化の中心地であり、都として最大の人口を抱えていたことから、古くから陶業が盛んでした。
しかし、本記事では幕末の京焼作家たちの動向から、京都らしさを体現する真葛長造(初代宮川香斎)の魅力に迫ります。

幕末の動向:粟田口窯 vs. 清水五条坂窯

清水五条坂を拠点とした本格的な磁器生産が始まり、色絵陶器磁器の二大主流が形成されるようになりました。

  • 粟田口窯:色絵陶器を主とする伝統勢力
  • 清水五条坂窯:新たに興った磁器生産を背景に、色絵陶器分野にも進出

文政年間(1818~1830)には経済力を得た五条坂窯が高級色絵陶器にも乗り出し、粟田口窯との熾烈な争い(「粟田口・五条坂両陶家の抗争」)が繰り広げられました。しかし最終的には五条坂窯での高級色絵陶器生産を、粟田口窯側も認めざるを得ない形となり、伝統と新興が混ざり合う“黄金時代”がもたらされます。

黄金期を彩った名工たち:仁清、乾山、頴川 そして門下の陶工

京焼の黄金時代を築いたのは仁清(にんせい)乾山(けんざん)、**頴川(えいせん)**などの名工たちです。とりわけ頴川の門下からは、青木木米(あおきもくべい)欽古堂亀祐(きんこどうかめすけ)、**仁阿弥道八(にんなみどうはち)**など、優れた陶工たちが次々に誕生。さらに彼らの周辺には、技術や意匠を継承する多くの弟子が育ち、多彩な作品を世に送り出しました。

主な門下生・周辺の名工

  • 青木木米:煎茶道具や高度な画技術で知られる
  • 欽古堂亀祐仁阿弥道八:頴川の新風を取り入れ、独自の作風を展開
  • 岡田久太:轆轤(ろくろ)の名人として名声を博した
  • 真葛長造(初代宮川香斎):後述
  • 尾形周平清風与平:五条坂陶家で活躍
  • 永樂保全・和全親子:茶陶で名を馳せる

真葛長造(初代宮川香斎)の魅力

木米・久太との協業から独自の作風へ

真葛長造は本名を蝶三郎、延寿軒と号し、宮川長閑斎を家祖とする楽焼陶家・九代長兵衛の子にあたります。晩年の青木木米に師事し、祇園真葛原で陶業を行うようになってからは姓を「真葛」とし、真葛長造と号しました。

  • 岡田久太:木米の轆轤を担当
  • 赤鯶香齋(あかべにこうさい):木米の制作を助けた
  • 長造は木米から染付磁器をはじめとする様々な技法を学んだが、木米の死後は仁清写や洗練された銹絵(さびえ)色絵の茶道具を得意とし、一家を成しました。

初代香斎の作品の特徴

  • 染付や青華など中国陶磁の影響が強い
  • 文人趣味の煎茶道具が多く、力強い線描濃い呉須が特徴
  • 銘として「香齋精製」「洛東陶香齋精製」「大日本香齋製」などがある
    • 「大日本○○」といった表記は海外輸出を意識しており、中国の「大明成化年製」や「大清乾隆年製」を模範としたと考えられる
  • 海外の美術館にも多くが所蔵され、特にスコットランド国立美術館(イギリス)には多数の作品が公開されている

まとめ:京都らしさと国際性を備えた芸術性

初代宮川香斎(真葛長造)が生み出した作品は、京都らしい雅やかさ国際的な視野を併せ持つ独創的な芸術性にあふれています。幕末から明治にかけて、京焼・清水焼は世界へと羽ばたき、多くのファンを獲得しました。
現代の私たちも京都を訪れた際には、ぜひ窯元巡りを楽しみながら、歴史の奥行きと手仕事の温もりを感じてみてはいかがでしょうか。

  • 京焼・清水焼は今も200以上の小さな窯元が存在し、それぞれが伝統を継承しながら新しい作品を生み出している
  • 初代宮川香斎の作品や、真葛焼の系譜に連なる現代作家たちの作品も要チェック

色絵桜楓文木瓜形鉢 仁阿弥道八 東京国立博物館

 

色絵飛鳳文隅切膳 奥田頴川 東京国立博物館蔵

 

乾山写牡丹小鉢

 

南京交趾写 牡丹文様食籠


祥瑞手杯

 

青華蘭花鉢

 

当代宮川香斎様の作品

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